「たぶん40%増量作戦」や「ファミリ〜にゃ〜ト大作戦」などの斬新なキャンペーンを企画し、次々と「バズ」を生み出しているファミリーマート。
仕掛け人は、CMOの足立光氏。日本マクドナルドのマーケティング本部長や、「ポケモンGO」を展開するナイアンティックでアジアのマーケティング責任者などを歴任した国内屈指のマーケーターです。
約4年半前にファミリーマートに移籍し、今ではマーケティングにとどまらずサステナビリティ戦略や新規事業開発なども手がけ管掌範囲を拡大。コンビニ業界外からも注目を集めています。
その足立氏に、以前ファミリーマートでDX責任者を務め、現在は株式会社DXG代表取締役/CEOを務める植野大輔氏がインタビュー。ファミリーマートのマーケティング戦略の舞台裏、AIの捉え方、CRMに対する考え方、そしてAI時代のマーケターのあるべき姿など、かつてのファミリーマートを知る植野氏だからこそ聞ける足立氏の胸の内と、ファミリーマートの多岐にわたる進化を紹介します。
目次
衝撃の移籍から4年半。その手応えとは
植野:2020年8月にCMOとしてファミリーマートに移籍してから、約4年半が経ちました。
足立:こんなに長くできるとは思っていませんでした(笑)。皆さんのサポートのおかげですね。

株式会社ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター CMO兼マーケティング事業本部長CCRO(最高クリエイティブ責任者)兼デジタル事業本部長
1968年生まれ。シュワルツコフ ヘンケルの社長・会長、日本マクドナルドの上級執行役員・マーケティング本部長、ナイアンティック シニアディレクターなどを経て、2020年10月にファミリーマートCMOに就任。ノバセル社外取締役、スマートニュースおよび生活協同組合コープさっぽろのマーケティング・アドバイザーも兼任。
植野:どのような4年半でしたか。
足立:コンビニエンスストア市場で、業界のリーダーに対して果敢に挑むチャレンジャーとしての明確な地位を確立することが重要だと考えていました。そのため、入社時はマーケティング戦略だけでなく、全社的な戦略の策定にも関わりました。
現在、ファミリーマートは業界第2位のポジションですが、リーダーに挑戦し続ける姿勢を社内外に強く打ち出すことができたと、一定の成果は感じています。
広告費用は、競合他社の1〜2割程度で決して多くはありませんが、メディアやSNSなどを通じた露出量は常にトップレベルを維持できています。これは、さまざまな話題を創出し、来店していただくための工夫を重ねてきた証左だと思っています。
植野:確かに目に止まる機会が増えましたよね。とくに力を入れた仕掛けを教えてください。
足立:SNSですね。露出量で言うと、予算は変わってないものの、私の就任前に比べてフォロワー数は3~4倍になりました。
それともう一つは、話題作りの一環として手がけたキャラクターコラボ。競合他社と比較した場合、この領域が弱かったんですが、とても有効な手段なのでこの数年で「星のカービィ」や「あつまれ どうぶつの森」といった任天堂さんとのコラボ、「ウマ娘」や「週刊少年ジャンプ」といった人気コンテンツとも協業してきました。
ファミリーマートに来る理由を増やしていくことがたくさんできて、入社前に抱いていた「やりたかったこと」は、この4年で7割ほどできたという感触です。
植野:残りの3割が気になります。

株式会社DXG代表取締役/CEO 代表
早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。また、成長スタートアップCMOから上場企業COOまで、複数社のCxOも歴任。「最速の執行」にこだわった企業変革及び成長戦略の支援のため、2024年11月にDXGを創業。
足立:そもそも、お客様数も売上もまだトップにはおよびませんから。やることは、まだまだあります。
たとえば、お弁当などの中食系商品の新プロモーションや、キャラクターコラボは取り組めているんですが、サービス面で強化できることがたくさん残っています。やっと手を付け始められた段階で、これから面白いことをもっとやっていきますよ。
植野:任期途中の大きな変化として、トップが澤田(貴司・現セルソース代表取締役社長CEO)さんから細見(研介・代表取締役社長)さんに交代したこと。その影響はありましたか。
足立:マーケティングに関しては放任だったので(笑)、影響はないですね。
小売・流通業の基本は、商品部が良いものを作り、営業が店に並べる。それに「知ってもらう」というマーケティング要素を加えて、「営商マ」の三位一体の体制強化にも注力してきました。

簡単そうに思えますが、日本の小売・流通業が長年やってきた「商品」と「営業」の2軸体制を変更するということもあり、実現は簡単ではありませんでした。この体制ができたのは2021年です。
植野:マーケティングの役割は知ってもらうこと。そのためには一定のお金は必要ですよね。ただ、他社よりも圧倒的に少ない。「もっと予算使わせてよ」という気持ちにはならないのでしょうか(笑)。
足立:過去の経験から「あるものでなんとかする」癖がついてしまっているんですよね(笑)。
ファミマ流マーケティング戦略の裏側
植野:少ない投資で最大の効果を発揮する。知恵勝負ということですね。メディアが取り上げたくなるような企画は、どのようにつくっているのですか。
足立:同じキャンペーンでも、プレスリリースのヘッドラインを変えたり、メッセージにバズらせる仕掛けを取り入れたりといろんな工夫をしています。
例えば、40%増量のキャンペーンの時は、単純に「40%増量」ではなく、「“たぶん”40%増量」としてみたり。話題作りのため「ツッコミどころ」のあるプレスリリースを打ち、SNSで話題にしてもらうようなことですね。

植野:アイデアはどのようにして出しているんですか。
足立:僕自身が考えることはあまりなくて、マーケティングのメンバーや営業、商品部のみなさん、外部のパートナーなどいろんな人から意見を募ってそれをブラッシュアップしています。
植野:小売業界って真面目な人たちが多いから、ツッコミどころがあるアイデアってなかなか出せないし、思いついても言い出せないような気もします。
足立:1回やってみると「こういうのはOKなんだ」となり、どんどん出てくるんですよね。「ファミリ〜にゃ〜ト大作戦」も「背徳のコンビニ飯」もパートナー企業や社員の自主提案で出てきたアイデアです。営業から「こんなアイデアはどうか」という声も増えてきました。
植野:「営・商・マ」が連動し出して、垣根も超えて「こういうのやりたい」「こんなのどうだろう」と声が上がる状態だと。
足立:僕は指揮者のように先導しているだけ。みんなから出てきたアイデアをもとに方向性を決めて、モチベーションを上げているだけです。
植野:その体制になるのに、1〜2年はかかったんですか。
足立:いや、意外に早くて。就任1年目がたまたまファミリーマートの40周年の年だったこともあって、毎週のように新しいキャンペーンをやることで、みんなも考え方ややり方に急速に慣れていき、「こうすれば売れるんだ」という感覚が掴めたんだと思います。
40周年の時に初めて実施したキャンペーンの多くは、今でもやっています。「ファミマのいちご狩り」や「ファミマのお芋掘り」もそうですし、「1個買うと、1個もらえる」など、その40周年の年に成功したキャンペーンを毎年改善しながら今でもやっています。同じことをやっていますが、ちゃんと話題化できています。
植野:キャンペーンは同じことを繰り返すほうがいいのか、それとも新しいことをやるべきか、どのように考えていますか。
足立:両方です。以前は、コンビニは常に新しいことしなくちゃいけないって言われていたんですが、「月見バーガー」を30年以上販売している会社もありますよね(笑)。同じことを2回やったらウケないってことはないわけです。
新しいキャンペーンはギャンブル要素が強い。どんなに自信があるキャンペーンでも、やっぱりやってみないと当たるかどうかわからないですから。なので、ファミリーマートは好評だったキャンペーンは、少しずつ改良しながら、また実施するようにしています。
毎年繰り返せるキャンペーンは、その時期の売り上げの見込みも立ちやすい。2年目3年目でも、改善して実施したら売り上げと客数が上がることは証明できています。
でも、同じキャンペーンを繰り返すだけだとお客様も私たちも飽きるので、間に新しいキャンペーンを入れて活性化しながらラインアップを組む。バランスですね。

植野:「会心の一撃」のキャンペーンは何ですか。
足立:甲乙つけがたいですが、強いて挙げれば、「1個買うと、1個もらえる」はすごくうまくいきました。
植野:超おトクなキャンペーンですね。
足立:ファミリーマートとしてやっていることは変えずに、見せ方を変えただけなんです。私たちは「ちょっとお得」ということを売りにしているので、同じ1+1キャンペーンをやるにしても、商品や時期でバラバラにやるんじゃなくて、ある程度複数の商品をまとめて同じ時期に実施するようにしました。すると、「ファミマが今、おトクらしい!」という話題が生まれますよね。
この工夫はすごく大事だと思っていて、新しい商品がある時はいいですけれど、なくても見せ方とか訴求の仕方を変えることでヒットキャンペーンにすることができるわけです。ちなみに、「1個買うと、1個もらえる」キャンペーンでは、3年前に作ったコマーシャルを商品だけ変えて、いまだに使っています。
植野:CMの制作費も削減できますね。
足立:編集費だけですからね。ファミリーマートの看板キャンペーンの一つにもなって「ファミリーマートは、ちょっとお得」というイメージにも貢献してくれているし、「ロングセラーキャンペーン」の代表例だと思います。
植野:コミュニケーションに力を入れていることは分かりましたが、マーケティングはコミュニケーション以外もありますよね。たとえば、4P(Price・Place・Product・Promotion)のフレームワークをどう考えていますか。

足立:僕の担当はコミュニケーションなので、4PでいうとPromotionに当たります。ただ、「営・商・マの三位一体」と言った通り、その枠組みだとプロダクトも入っているしプライスも入っているので、Promotion以外の領域にも積極的に入るようにしています。ProductとPriceは商品部が主管なんですけれど、戦略立案も含めて一緒に進めています。
デジタルと非デジタルを分けるのはナンセンス
植野:話をテクノロジー活用に移したいと思います。まずマーケターにとってのデジタルと非デジタルをどう考えますか。
足立:デジタルと非デジタルを「分けない」のがポイントだと思います。届けたいターゲットと内容に応じて、全体を俯瞰してカスタマージャーニーを描いてデジタルと非デジタルを最適化することが必要。デジタルと非デジタルどちらかしかやらない、または個別で考えるのはナンセンスだと思います。
植野:「最適なミックスを考えなさい」ということですね。
足立:そうです。デジタルマーケティングと非デジタルマーケティングを組織的に分けちゃうなんて、とんでもない悪手です。
「デジタル予算はこれくらい。たとえば、マスのアナログメディアはこれくらい」みたいに最初から分ける考え方って意味がないんです。考えるべきことは、「どんなターゲットの何%の人に何を伝えたいか」。手段にとらわれずに、目的に向かって俯瞰して見ることですね。
植野:その俯瞰が難しいですよね。
足立:マスはある程度やり方が決まっているじゃないですか。デジタルも進化しているとはいえ、デジタル広告もSNSもだいたい型はすでにある。なので「そもそも誰に何を伝えたいのか」を高解像度で定めておけば、自然に手段が見えてきます。

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CRMは必要か
植野:別の話題に移りますが、「ポイント」はファミリーマートにとってどういう存在ですか。
足立:いろいろなポイントがたまる・使えることは、ファミリーマートの売りの1つです。 今もいろんなポイントの会社の方と協力しながら、お客様のメリット増加と利便性向上のためにさまざまなキャンペーンを打っています。
植野:ポイントの仕組みから収集したデータを使った分析や活用はしていますか。
足立:活用していますが、コンビニエンスストアという業態上、お客様ごとに最適化したパーソナルな提案は限定的だと考えています。
例えば、コーヒーを頻繁に買うお客様にはコーヒーのキャンペーンやお得な情報を出すことはできますよね。お弁当や惣菜を頻繁に購入するお客様には関連する商品をリコメンドできます。ただ、コンビニってその程度のパーソナルマーケティングなんです。
お客様ごとに最適なプロモーションを詳細にプランして実施するよりも、多くのお客様に来店していただくための仕掛けやメッセージ、キャンペーンづくりのほうが、業態上、大事だと考えています。
デジタルが進化してお客様の購買データを広く深く取得することができるようになって、どこもかしこもパーソナルマーケティングが大事だ、大切だと言っていますよね。確かに大事ですが、その重要度は業種・業界によって異なると思います。
植野:では、CRMのようなものもあまり必要ない?

足立:いや、一部の人は「足立はCRMが嫌い」と誤解されているかもしれませんが(笑)、そうではありません。
CRMはマーケティングの最適化・効率化にはものすごく効きます。確実に導入したほうがいい。そうでなければ、取り残されます。
ただ、それだけで差別化できるわけではないと思います。全ての企業がCRMのツールなどを入れて使いこなせるようになれば、どこも横並びになってしまいますから。大事なのは、CRMをきちんと行ったうえで、どう他社よりも優位な立場になれるように知恵を絞るかです。
だから、人がちゃんと考える時間を作り出すことが大切で、そのために合理的に削減できる時間は削るべきです。でも、ファミリーマートに来てもらうためにどうすればいいかを考えるのは、どんなにデータがあって過去の成功事例があっても、ツールやシステムに任せるのではなく、やっぱり人間の仕事ですね。
ファミリーマートに来てもらうためにどうすればいいかを考えるのは、どんなにデータがあって過去の成功事例があっても、やっぱり人間の仕事ですね。
たとえば、SNSで昨年やったこと、一昨年やったことと、今年やっていることって、変わっているんですよ。同じキャンペーンでも変えていかないと話題にならない。去年の最適解が今年の最適解とは限りませんから。
「本質的な仕事」では、AIは人の代わりをできない
植野:生成AIや予測AIをどのように見ていらっしゃいますか。
足立:どこまで定着するかは未知数だと思っていますが、毎年沸いては消えるテクノロジーとは一線を画し、注目に値する存在だと思っています。
ファミリーマートでもAIを活用していますよ。ただ、マーケティング部門より営業部門で使うことが今は多くて、エクセルで作っているレポートをAIに任せるとか、発注業務をAIで効率化する取り組みなども始めています。
他にも、店舗のレイアウトや品揃えの最適化にも。お店の大きさや立地によって、どういう品揃えにしたら、棚をどのように配分したら利益が最大化するかなどは、AIが得意な分野ですから、いろいろ試しています。
ただ、AIの提案を採用するかどうか、最終的に決めるのは人です。AIをそのまま鵜呑みにするのではなくて、その提案が本当に正しいのかを考えられる力が人に備わっていないといけません。
植野:「AIにデータを元にこんなキャンペーンを考えました」って言われても、それを実施するかはその人のセンスがないと決められないから、人間のセンスを磨く必要があるということですね。マーケティング領域でAIの活用を検討していますか。
足立:あまり考えていませんね。 キャンペーンの映像や画像、コピーなどの各種制作物を生み出すことにAIは貢献すると思いますが、私たちはそのような制作は外部のパートナーにお任せしていますので、生成系のAIはあまり使っていません。

トップダウンを避けるために、自分の回答は作らない
植野:もう一つ聞きたかったテーマが、足立さんのリーダーシップ論。巨大な組織のマーケティング部門をリードするにあたって、 足立さんが心がけていることを教えてください。
足立:そんな大袈裟なものはありませんが、メンバーの自主性を大事にしています。私が一番避けたいのがトップダウン。僕が「こうしましょう。こうあるべき」と伝えてしまうと、「上がそう言っているから」と思考停止になってしまう。そうなると斬新なアイデアは出てこないし、何より仕事が面白くなくなってしまうでしょう?
トップとしてビジョンや方向性は示しますが、現場レベルの具体的なことには口は出さずに、自由に考えて意見を出しやすい環境づくりを大切にしています。
以前、入社直後だと思いますが、入社6年目くらいの社員に「今日の会議、どうだった?」って聞いたら、「初めて意見を求められました」って言われたことがあって(笑)。それに比べるとだいぶ意見しやすい環境にはなったかなと。
冒頭に言いましたけれど、 私たちはチャレンジャーですから、誰かの真似をするのではなく、新しいことをどんどんやっていかなければいけません。
植野:足立さんがリードしなくても回るようになってきたんですね。
足立:2023年くらいから回るようになってきたので、私はほかのことにチャレンジできるようになってきました。
CCROとしての新たなビジネスのカタチ
植野:その一つが、CMOとは別の役割のCCROですね。
足立:はい。CCROは日本語にすると「最高クリエイティブ責任者」。クリエイティブといっても映像や画像やキーメッセージをつくるという意味のクリエイティブではなくて、新しい事業をつくるという意味です。新規事業を創出する役割と捉えていただければと思います。
植野:ビジネスディベロップメントに近いですね。どのようなことを手掛けていこうと考えているのですか。

足立:いろいろありますよ。
たとえば、モバイルアプリの「ファミペイ」。ファミペイの会員数を伸ばすことによってお客様との接点を増やし、ファミペイをベースに金融商品も含めて売れるものを増やしていこうとしています。ダウンロード数は着実に伸びてはいますが、上には上がいる。競合他社にもっと追い付かなければなりません。
ほかには、冒頭にお話したサービスの領域でいろいろ考えています。マルチコピー機を使ってアニメキャラクターや歌手などのポスター、ステッカーを印刷できるプリントサービス。ロッカーサービス、スマホの充電サービスなど、店舗の棚に置いている商品だけではない分野は、アイデア次第でお客様に来店していただく仕掛けをまだまだ用意できます。
それともう一つは、数あるファミリーマートのリテールメディアのひとつで、店舗内に大型モニターを設置して映像を流す「FamilyMartVision」ですね。これは今、非常に好調です。
ファミリーマート自身をメディア化するファミマビジョン
植野:リテールメディアは今すごくホットな分野ですが、「FamilyMartVision」ではどんな戦略をお持ちですか。
足立:ファミリーマート自身をメディア化しようと考えています。
全国のファミリーマートは、1日1500万人もの人に来店いただく場所です。毎日視聴率10数%のテレビ番組と同じぐらいのリーチがあるということ。こんな場所はなかなかありません。店内で音声放送を流すとかPOPを貼るなどはだいぶ前からやっていたのですが、それをさらに進化させています。
店舗に設置した大型モニターには、ファミリーマートの商品の宣伝だけでなく、他社からの広告を募って流しています。広告主の業界が、かなり多様化してきています。具体的には金融系商品や人材サービス、エンターテインメント系が伸びています。

植野:確かに、最近よく見ます。
足立:エンタメコンテンツは3面モニターで迫力を伝えられるので、映画やドラマ、ライブのチケットやDVDとは相性が良いです。あとスポーツも。エンタメ系はやっぱり迫力あるビジュアルを使えるのが強みです。
金融は、特に若い人とは接点があまりない保険などがすごく伸びています。人材は、アルバイトの募集。ファミリーマートのお客様で多いのは、アルバイトで働く年代の皆さんです。だから、アルバイト募集の広告はバッチリはまっています。
植野:店舗を通じてメディア事業をもっと強化してくんですね。
足立:今、約1万店に設置していますが、まだまだ設置店舗を増やしていきます。そのうえで、各地域に応じた広告展開を考えています。全国一律で効果を発揮するものもあれば、その地域だけに広告を出したいというニーズも当然あります。そうした地域の特性に応じた広告の仕組みを考えています。
また、店舗でのお客様の行動をAIカメラを用いて分析しています。お客様はどういう道順で何をどのくらい見ているのかなどを分析しているので、そのデータを広告販売だけでなく、店舗作りやビジネスに活かしていければと思っています。コンビニのメディア化というのはまだ発展途上。とても可能性があると思っています。

サステナビリティ推進室をCMOが管掌する意図
植野:肩書きにはありませんが、サステナビリティについても取り組んでおられるとお聞きしています。幅が広いですね(笑)
足立:はい(笑)。サステナビリティ推進室がマーケティング部門に属しているのは、おそらく日本ではファミリーマートだけでしょう。これには理由があります。
まず、サステナビリティ活動は企業イメージに大きく影響します。「良い会社である」という印象は、お客様の全体的な知覚品質に影響を与えます。食品を美味しく感じるかどうか、店舗に行きたくなるかどうかにも関係してくると考えています。
ただ、社会や地球に貢献する活動をしていても、それを発信しなければ誰にも知ってもらえないので、意味がありません。そこで、ファミリーマートのマーケティング部門にサステナビリティ推進室を移管したんです。単に活動するだけでなく、しっかりと発信し、お客様に認知していただこうと。
成果は数字にも表れています。例えば、サステナビリティに関する発信件数は、2022年は20件程度でしたが、2024年には50件以上にまで増加しました。さらに、それらの発信が取り上げられた記事の掲載数も、5倍以上に増えました。
これらの成果を上げたチームのメンバーは、人も数も変わっていないんです。つまり、同じメンバーでも、発信の仕方を工夫するだけで、露出が劇的に増えるということです。
植野:サステナビリティについて、具体的にうまく普及した発信例があれば教えていただけますか。
足立:間違いなく増えたもので言うと、「もったいない系」の話はこの数年間、商品部の協力もあって結構増えましたね。
植野:パイナップルの芯を使ったドライフルーツとかですね。
足立:代替食材を使った商品や、本来は捨てるはずだったフルーツの一部を使った商品もありますね。ファミリーマートでは、サステナビリティに関連した特徴的な商品を継続的に展開するようになってきました。こういった取り組みを続けていくと、商品部門も含めて社内の理解が深まっていきます。
我々のサステナビリティ活動には大きく3つの柱があります。「社会課題の解決」「環境問題への対応」「多様性の推進」です。それぞれの分野で、具体的な取り組みが着実に増えてきていると感じています。
ただし、私が今重視しているのは、活動を増やすことではなくて既に行っている取り組みをしっかりと知ってもらうことです。これは社内外両方に当てはまります。

優秀なマーケターは何が違うのか
植野:最後に、国内屈指のマーケターである足立さんに優秀なマーケター像をお聞かせください。
テクノロジーによってマーケターの差別化要素が少なくなってきたように思います。以前よりも情報は簡単にとれるようになったし、マーケティング関連のツールも増えてきた。そんな情報もテクノロジーも揃っている今、どんな力を持ったマーケターが生き残るのでしょうか。
足立:昔も今も何も変わっていないと思います。情報やツールは揃っていたとしても、結局は何をやるべきかを見定めるのは人であることは同じですから。
たとえば、Z世代のアンケート結果というものがあるとするじゃないですか。それを複数のマーケターが見てマーケティング戦略を立案してくださいと言っても、それぞれ違うものが出てくる。情報やデータが同じでも、その人が何に着眼してどんな切り口を考えるかはその人次第なんです。
あとは、行動力。何か新しいことをやろうとするときは抵抗勢力が必ずある。そこを突破できる実行力だと思います。
植野:足立さんもそれを忠実に実行してきたから国内屈指のマーケターと呼ばれるようになったと。
足立:私は全然新しいことをやってきたわけではありません。「誰に向けて何をどう伝えるか」。それをただただ突き詰めて考えて実行しているだけ。それはAIなどテクノロジーが進化したり、新しいものが出てきたりしても、変わらないでしょうね。
最新のマーケティング事情をご覧ください
世界各国約5,000人のマーケターから得たインサイトから、AI、データ、パーソナライズのトレンドを探ります。

企画:池上雄太
執筆:高野いづみ
撮影:遥南 碧
編集:木村剛士