パナソニックグループには、セールスフォースのBIツール「Tableau(タブロー)」の活用推進コミュニティがあります。わずか3人の有志が立ち上げた小さな組織は現在、さまざまな事業会社の2000人以上が活動する巨大なコミュニティへと成長し、グループ全体のデータ活用力を強化。データドリブン経営に貢献し、2024年にはパナソニックグループCEOが表彰する「BEST有志活動賞」を受賞しました。
立ち上げ後、次第に活動量が減る有志コミュニティが多い中、パナソニックグループはどのように軌道に乗せたのか。セールスフォース・ジャパンで「Tableau」のプロダクトマーケティングマネージャーを務める杉村麟太郎が主要メンバー3人に聞きました。
なぜTableauは顧客から愛されているのか?
企業がツールを活用するには、スキルの習得が必要不可欠です。しかしツールの習得するには、時間と労力がかかり活用に至ることが難しいことも少なくありません。ではTableauはなぜ多くの人に愛されているのでしょうか。その魅力に迫ります!

「グループ会社の垣根を越えた活動」に込められた想い
杉村:パナソニックグループで「Tableau」の活用を推進する社内コミュニティ「PTUG(Tableau User Group)」の主要メンバー3人に集まっていただきましたが、それぞれ所属会社が異なるのですね。
栗岡:そうです。私が所属するパナソニック インフォメーションシステムズは、パナソニックの情報システム部門が母体で、グループ会社の情報システム開発・運用を担うとともに、現在はそのノウハウを生かしてシステム開発・運用を外販しています。
私の役割はパナソニックグループのデータリテラシーの向上と、さまざまな現場でのデータドリブン意思決定を推進することです。

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
データ&アナリティクスソリューション本部アナリティクスソリューション事業部マーケティング・経営データ分析部ビジネスアナリシスチーム経営管理ユニット ユニットリーダー
大井:私の所属企業であるパナソニック インダストリーは産業、情報通信、車載をはじめ、幅広い用途に向けた電子デバイス・産業デバイスを開発・製造・販売しています。私の業務は社内のDX推進。主にデータ活用基盤の整備や活用促進です。

パナソニック インダストリー株式会社
デジタル変革共創本部DX戦略センター データドリブン変革部EVERY-TECH推進課・技術・案件支援係 係長
大隅:私は、製造業を中心とした企業にデジタルテクノロジーを活用した企業変革、業務変革を支援するDX支援企業であるパナソニック ソリューションテクノロジーに籍を置いており、私はデータアナリティクスソリューションを担当しています。

パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社
ソリューション開発部データアナリティクス課 課長
「Tableau」はレゴブロック。他のBIツールはプラモデル
杉村:新しいテクノロジーやツールの利用促進のために、有志がコミュニティを形成するケースは多いですが、グループ会社の垣根を越えて作るケースは珍しい。どなたの発案だったのですか。

株式会社セールスフォース・ジャパン
製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部プロダクトマーケティングマネージャー
大隅:データの利活用をグループ全体で推進していく機運が高まってきた2018年当時、有効なツールとして「Tableau」に着眼し、社外の「Tableau」のユーザーコミュニティに参加し始めました。
杉村:なぜ「Tableau」に関心を示していただいたのですか。
大隅:データの分析・可視化ツールは複数存在していますが、「Tableau」は操作が容易で誰でもデータを簡単に分析でき、インサイトを導き出すのに非常に効果的な点が魅力でした。
大井:利用者の要望に合わせて分析や可視化が自由にできるのもメリットだと私は思っています。他のBIツールは完成形が決まっていて定められた手順に合わせて作るだけの“プラモデル”であるのに対し、「Tableau」は“レゴブロック”だと捉えています。
さまざまな素材を組み合わせて自分仕様に柔軟にデータを分析してビジュアライズできる。そんな自由度が魅力ですし、触っていて楽しいですね。
大隅:熱狂的なファンが多くコミュニティの活動が活発な点も魅力でした。
コミュニティを通じてさまざまな業種、規模の企業の人たちと触れ合うことで得られる刺激はとても貴重で、多くのヒントや気づきも得られました。なので、コミュニティを立ち上げるなら所属会社内に留めるのではなく、できるだけ多くのグループ会社に声をかけ、メンバーになってもらおうと決めていました。
組織が大きくなればなるほど、業務は細分化するので、どうしても組織の間に壁は生まれてしまう。「Tableau」コミュニティの活動は、単に「Tableau」の活用をグループ全体に浸透させるためだけでなく、組織をつなぐことにも貢献すると考えたのです。
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当初は、私と大井さんともう1人のメンバーでスタート。間もなくして、栗岡さんに参加してもらいました。
栗岡:もともと私はコミュニティ運営に関わるつもりはなかったのですが、「Tableau」を学んでいる中でせっかくなら「DATA Saber」(*)を取得したいと思い、面識のあった大井さんに「師匠になってください」とお願いしたのがきっかけでした。
「DATA Saber」の勉強を通じて技術面に加えて文化醸成を学び、コミュニティを通して会社を変えていきたいと強く思い、参画しました。
*DATA Saber: コミュニティの有志によって運営されている「Tableau」の資格認定制度。技術力とコミュニティ活動に関する「試練」を突破したうえで、取得者から認められる(弟子になる)必要がある。
杉村:現在のメンバーは何人ですか。
栗岡:2000人を超えました。最近は、私たちのような運営メンバーが問い合わせ対応しなくても、コミュニティメンバー同士が助け合うようになっており、規模だけでなく活動も活発です。最近は問い合わせ対応では、出番がなくて(笑)。

「CEO表彰」で認知度アップ。加速度的にメンバー増加
杉村:「PTUG」は、2024年にはグループCEO表彰の「BEST有志活動賞」を受賞したそうですね。
大井:パナソニックグループでは現在、100以上のコミュニティが活動しています。表彰制度の中に「BEST有志活動賞」があり、「PTUG」を評価してくれていた推薦者が後押ししてくれてエントリーしました。
評価が高かったポイントは、他の活動と比べて運営メンバーがさまざまな事業会社、職能で構成されていることと、活動も活発だったこと。「盛り上がり度」を客観的に評価する指標として「Teams」のアクティブ率があって、私たちは約90%を維持していました。
2017年からコツコツとやっていたボトムアップ活動でしたが、表彰で認知度が一気に上がり、「Tableauといえばあのコミュニティ」と想起してもらえるようなブランドが確立できました。
その結果、コミュニティやコミュニティ新規参加者が増加。幹事メンバーの結束力も高まり、士気の高い新しいメンバーも参画することで、データの利活用が加速しています。トップに認めてもらうことの威力を実感しています。

飛躍のカギはトヨタから学んだあの施策
杉村:ツールの活用促進のために、社内コミュニティを作る話はよく聞きますが、フェードアウトすることが多いように思います。パナソニックグループは規模が巨大で、しかも今回のコミュニティは企業横断。コミュニティの活動はほぼボランティアですよね。継続は容易でないと思うのですが、発展し続ける秘訣を教えてください。
栗岡:1つのきっかけとして、「DATA Saber Boot Camp」というプロジェクトをパナソニックグループ内で始めたことが、その後の活動を大きく変えたと思います。
それまで年3〜4回のユーザー会が主なイベントでしたが、何回か実施するとネタ切れでコンテンツ作りに限界を感じていました。そこでもっと幹事メンバーを増やして、多様なアイデアや意見のもとにコミュニティを運営したくて、「DATA Saber」の育成に力を入れようと考えました。
ところが、誘っても何かと理由を挙げて断られてしまう。「DATA Saber」になるには、かなり時間を割いて努力する必要がありますからね。
そんな時、コミュニティの運営について情報交換したトヨタ自動車株式会社ではBoot Camp形式でうまくいっていると聞いて、パナソニックグループからも2人参加させていただきました。
持ち帰った学びをパナソニックグループ流にカスタマイズして「DATA Saber Boot Camp」を開始すると、毎回10人前後の認定者が増えるように。その中から新しい幹事メンバーが増えて、コンテンツにも人の層にも厚みが出ました。コミュニティの質が明らかに変わりましたね。

データ活用コミュニティがPX推進に寄与
杉村:PTUGの活動は、パナソニックグループが推進するPX(Panasonic Transformation)活動に好影響を与えているのではないでしょうか。
大井:パナソニックグループはグループ全体を変えていくという意味を込めて、テクノロジーを活用した変革も含み、会社全体のトランスフォーメーションを「PX」と呼んでいます。
こうした新たなツールの導入・浸透には、トップダウンとボトムアップの両軸からの施策が必要だと思いますが、少なからず「PTUG」は現場でのボトムアップ活動に貢献したのではないでしょうか。
特にイベントや勉強会を通して「自分がやってみる」という方が増えたことから、データやテクノロジーのリテラシー向上を実感しています。
データ活用の浸透は、パナソニックグループのセルフ分析プラットフォーム「DIYA」(Do It Yourself Analytics)の利用者数からも見て取れます。現在3万人を超える人が利用しており、その中でも非常に多くの人が「Tableau」を活用しています。
杉村:すごい規模ですね。どんなプラットフォームなのですか。
栗岡:「DIYA」はパナソニックグループの人が使える分析環境で、目的に合わせたツールを利用することができるプラットフォームです。
もともとグループ各社が個別に「Tableauサーバー」を立ち上げていたので、グループ全体で見ると非常に非効率でした。そこでパナソニック インフォメーションシステムズにて、統合的な分析基盤を構築したのが始まりです。
「DIYA」と「PTUG」が双方に協力することで分析基盤とコミュニティの両輪でパナソニックグループにおけるデータ活用を活性化することができたと考えています。
「デジタル変革」にコミュニティは欠かせない
杉村:今後の展望についてお聞かせください。

大隅:「Tableau」の利用者は増えてきたので、これからは活用度を高めることがKPIとなります。
利用者はレベルの高い人から初心者まで多様になってきました。また、業務の幅も非常に広くなっています。そこで私たち幹事グループとしては、各層や各業務などにマッチした分科会の自立的な活動を支援していくつもりです。「DATA Saber」の拡大も考えています。
今後の最大の変化要因は、生成AI。「Tableau」の公式イベントでも生成AIの活用が大きなテーマとなっていますし、私も注視しています。パナソニックグループでは全社員が生成AIをベースに開発されたチャット機能が使えるようになっており、自然言語で分析できる環境が整っています。この状況で「Tableau」をどう使うのか考えているところです。

杉村:最後に、データの活用を根付かせようとして苦労している企業やそのコミュニティにアドバイスをお願いします。
栗岡:DXは現場だけでもトップだけでもうまくいきません。ボトムアップの盛り上がりを作り、トップダウンの取り組みと合体させることが重要。ボトムからの上昇気流を起こすのに大きく貢献するのがコミュニティだと思っています。
大井:データを活用して業務や会社を変えていきたいと考える仲間は必ずいますので、少人数からでもコミュニティを作ることが第一歩になると思います。

大隅:また、社外の活動を知ることが大きな刺激になります。私も刺激を受けた一人です。「Tableau」コミュニティは誰でもいつでもウェルカムな雰囲気なので、積極的に外部との接点を作ることをお勧めします。社内イベントに外部講師を招いて、こんな便利なものがあるんだということを知ってもらうことから始めるのもいいですね。
私たちは社外との交流に積極的で、イベントに相互登壇したり、パナソニックグループの「DATA Saber Boot Camp」に社外の人に参加していただいたりするのも歓迎です。一緒にデータ活用を盛り上げていきましょう。

Tableau Pulse & Agent 体験会
Tableauは、生成AIの機能を強化し、データの活用をより多くの人に提供しています。本動画では、Tableauの生成AI機能を実際に操作しながら体験し、データのインサイトを今までより簡単に、より深く引き出す方法を学ぶことができます。ぜひご体感ください!




執筆:加藤学宏
撮影:竹井俊晴
取材・編集:木村剛士