Key Takeaways
国内最大級のメガバンク、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)。2020年の「Tableau」(タブロー)」導入から5年で月間アクティブユーザー数1.5万人という国内屈指の規模でのデータ活用を実現しています。
その成功の背景には、「寺子屋」と呼ばれる人材育成手法や、新入社員研修への組み込みなど、組織を挙げた取り組みがありました。
同社の江見盛人・執行役員CDO兼デジタル戦略統括部長と、セールスフォース・ジャパンの福島隆文・Tableau事業統括本部長常務執行役員に、導入から定着まで、そしてAI活用へと進化する現在と未来を聞きました。
目次

決して平坦ではなかった利用者1.5万人までの道のり
──Tableauを2020年に導入いただき約5年が経過。現在は月間アクティブユーザー数が約1.5万人で、国内でもトップレベルです。まず、導入当初の状況を振り返っていただけますか。
江見:結果だけを見れば最初からうまくいったように見えますが、実際は最短距離で実現したわけではありません。その都度出てくる課題の突破口をその都度見出してきたというのが率直な感想です。
何より大きな課題は、社内にデータを使う文化が全く根付いていなかったこと。ビジネス・インテリジェンス(BI)の概念や価値をきちんと理解できていないので、優れたデータ活用基盤を用意しても、最初は使ってもらえなかった。「今までと何が変わるの?」と……。

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役員CDO兼デジタル戦略統括部長
──その状態をどのように打破したのでしょうか。
江見:トレーニングの実施やエバンジェリストの育成、イベントの開催などあの手この手を打ち続けました。何か1つの施策がうまく当たったわけではなく、複合的な施策で行動変容を促した結果、データ活用が進む好循環が生まれました。
その中で大きかったのが、キラーユースケースを特定できたことでした。私たちは全国に多くの店舗を持ち、預金や貸出、営業目標といった計数管理を日々行っています。現場が最も真剣に取り組んでいるこの業務におけるデータ活用のニーズに、Tableauを適用しました。
すると徐々に現場で「使ってみると便利だ」という声が上がり始め、口コミで人気が高まり、データ整備とユースケースが拡大。結果として、社員の働き方やカルチャーが変わっていきました。
データは無限で、いきなり全部に手をつけるのは不可能。取り組みやすくインパクトの大きな領域を見極め、そこに Tableauというベストなツールを適用し、「これまでとは違う」という体験によって評判を高めることができました。

──当時、提案に携わったのが福島さんですよね。課題と期待をどう受け止め、どのような提案をしたのでしょうか。
福島: 欧米の先進的な投資銀行や商業銀行が、構造化データだけでなく非構造化データも活用して収益を上げ始めていた中、MUFGも「データを経営の中核に据える」という強い意志のもと、システム部門ではなく経営企画部がオーナーとなって、データレイクを構築されていました。
MUFGは、ツールの選定にあたって「おもちゃではダメ」、つまりエンタープライズで使えることも重要視していました。
そこで、あるセッションを実施し、リアルなデータを用いたダッシュボードを作成して、具体的な利用イメージを描きつつ、レスポンスの速さと操作性を披露。当社のリソースを総動員して徹底的に伴走を支援。大きなやりがいを感じたことを今でもよく覚えています。
当時のTableauは、Salesforceの一員になる前。小さな会社でしたが、MUFGから理想を実現できるモダンで信頼できる最先端なツールだと評価していただきました。
特筆すべきは、部門企画や計数管理、商品開発など本部10部署強から約40人を集めて、データ活用の課題と解決策、必要なツールについて検討したこと。その結果、大多数がTableauを支持してくださいました。このような横断的な形で大企業がツール選定を進めるのは、当時としては稀でしたね。

株式会社セールスフォース・ジャパン Tableau事業統括本部長常務執行役員
──データ利活用の浸透において、Salesforceからどのような支援を提供したのでしょうか。
福島:大きく3つあります。1つ目は、MUFG全体での利活用推進。Tableauをグループ全体で有効活用いただくため、定期的にミーティングを開催し、成功事例や課題の共有、グループ横断でのつながりづくりを支援しました。
2つ目は、導入定着のための継続的な伴走です。データ利活用の定着に必要な戦略フレームワーク「Tableau Blueprint」を活用し、「Signature Success Plan」も導入いただくことで、単なるツール導入にとどまらない定着支援を継続的に行っています。
3つ目は、先進的なほかのお客様とのつながりの創出です。Tableauを大規模に導入・推進されている日本の先進企業との個別の交流機会を提供し、新たな取り組みのヒントやインスピレーションを得ていただけるよう継続して支援しています。
【Agentforceビジョン】MUFGがAIエージェントで描く法人営業の未来図
AIが法人営業担当者の“伴走者”となり、情報収集から面談支援、提案、アフターフォローまでをサポートする未来を描いたビジョンフィルムです。一人ひとりのニーズに合わせて、より深い金融サービスを提供できる可能性が広がります。

「寺子屋」で伝道師を育てる
──全社展開にあたり、人材育成はどのように進められたのでしょうか。
江見:国内の銀行だけでも3.5万人以上の行員がいますから、私たちの数十名のチームだけで教えることは到底できません。必要なのはTableauを一緒に広げてくれる仲間、「伝道師」を育てることでした。
それには研修やマニュアル配布といった方法もありますが、私たちが選んだのは「寺子屋」という形式です。寺子屋という常設の「学び舎」に行き、学び、現場に戻って実践する。実践すると新たな課題や価値に気づき、また寺子屋に行く。このサイクルを繰り返すうちに、自走できる人材が育ち、その人が周囲に広げてくれるようになります。
対象者は、立ち上げ当初は20ほどの部署に声をかけるところから始めて、少しずつ口コミで広げていく方法を取りました。すると「うちはいつ声をかけてくれるのか」というリクエストをもらえるように。
そうなれば、こちらのもの(笑)。2022年秋から始めて3年間で、伝道師は400人を超えました。Tableauが優れていて誰にも使いやすいからこそ成立した取り組みだとも言えますね。
現在は国内だけでなく、シンガポールなどアジア地域でも寺子屋を展開して伝道師を育てようとしています。また、この成功事例を受けて、他のツール導入時にも同様のアプローチを適用するようになりました。

──ありがとうございます。新入社員研修にもTableauを取り入れているそうですね。
江見:私が考える銀行の仕事に欠かせないものは、突き詰めればテクノロジーとデータと人。この3つで成り立っています。ところがこれまではテクノロジーの更新が遅れ、データも活用せず、人間力で乗り切ってきた面が少なからずありました。
テクノロジーがこれだけ進化し、データを最大限に生かせるツールが登場した今、それを使うか使わないかでビジネスは大きく変わります。私たちにとってデータはガソリンでありエンジン。効率化やトレンドの追随ではなく、本業中の本業を変革するためのもの。だから当然、新入社員全員にも必須科目として教えています。
銀行の新入社員研修は、みなさんの想像以上に濃密です。その中でしっかり時間を確保し、Tableauによるデータ活用研修を実施しています。今年度は新入社員が約600人で、私たちの部員は総動員で講師を務めました。
若手の部員が教える側に立つと、当然、自分でも勉強します。新入社員にとっても、入行早々にデータ活用ツールに触れられるのは良い経験になる。双方にとって刺激のある取り組みです。
トップダウンとボトムアップが噛み合った組織力
──金融業を始め多くの企業を担当してきた福島さんから見て、MUFGのTableau活用で特に優れている点は何でしょうか。
福島:徹底力と組織力です。他の大企業と比較しても明らかに違う。これほど大きな組織はタンカーのようなもので、普通は方向転換に時間がかかります。ところがMUFGは、向かうべき方向へ的確に舵を切り、一気に推進している。この力が圧倒的です。
その理由を考えると、旬のテクノロジーが話題でも脇道にそれることなく、「データカンパニー」という軸をぶらさず、やると決めたら徹底して全社員の必須スキルとして定着させている。これは、人事部門ともしっかり連携を取っているから可能なのだと思います。

江見:私たちは決して派手な会社ではありませんし、企業規模の大きい組織だけに、急速に何かを広げるのが得意な組織ではありません。
しかし、今回は経営が「データドリブン経営を目指す」という方針をブレずに出し続けたこと、Tableauというプロダクトが使いやすく現場が効果を実感できたこと、そして私たちのチームが寺子屋をはじめとする工夫を凝らしたこと。これらが全て噛み合いました。どれか1つが欠けていたら、ここまでの成果は出なかったでしょう。
データ活用がDXの本質を明らかにした
──こうしたデータ活用を推進してきた組織と、現在の戦略について教えてください。
江見:2020年から本格化したBIの取り組みを通じてデータドリブンの文化が広がり、データの重要性が理解され、整備も進んできました。ホップ・ステップ・ジャンプのホップが完了した段階です。
一方で、組織面ではデータとBIを担当する部署、DXとAIを担当する部署が別々でした。データを集め、BIで可視化し、AIで活用するという一連の流れが分断されていたのです。次の「ステップ」に進むには、全社の司令塔となる部署が必要。そこで2024年にデジタル戦略統括部が発足しました。
この組織進化の背景には、AI活用も強化しながら経営も営業活動も全てをデータドリブンで実行していくという、理想の姿を込めた中期経営計画があります。
データを使うために業務プロセスをデジタル化する過程で、ようやくDXの本質が見えてきました。従来、DXというと効率化のイメージが先行し、あまり魅力的に映りませんでした。
しかし、BIでデータの重要性を実感した今、「業務をデジタル化すればデータが取れ、BI・AIに活用できる」ということが明確に。現中計が始まってからの1年半でDXへの取り組みが一気に加速しています。

振り返れば、5年間にわたりBIに取り組んでいたことが非常に良い準備になっていました。最初からDXを掲げても効率化への抵抗感がある。いきなりAIに取り組んでも難しすぎる。
まずBIでデータに親しんだことで、「データを整備しよう」「デジタル化しよう」「AIに挑戦しよう」という流れが生まれた。結果的に、理想的な順序を踏めていたのではないかと思います。
福島:タイミングとしてもベストだったのかもしれませんね。

江見:2024年に生成AIが本格化した時、すでにデータ基盤と人材が整っていました。経営が人や資金を躊躇なく投入できたのは、Tableauで実績を積み上げていて、「この部門に任せれば何とかしてくれる」という信頼があったから。最初の成功を掴めたことが、一気に拡大できている大きな要因です。
データと人間が好循環する5年後の銀行
──AI活用は、前中計(2021年~23年)では構造化データを中心にBIを活用されてきたとのことですが、今中計では非構造化データや予測値データを活用した「BI×AI」の取り組みにも着手されていると伺っています。具体的な活用方法を教えてください。
江見:BI活用で従来は、「構造化データ×Tableau」の取り組みが大半を占めていましたが、最近は少しずつ「非構造化データ×TableauやTableau×生成AI」の事例が出てきました。
MUFGには100年を超えるお取引関係のあるお客様もいらっしゃいますが、過去の全ての情報を人間の頭脳で処理するのは不可能。AIならそれができる。
ところが構造化データの数字だけでは、文脈が抜け落ちてしまいます。どういうやり取りがあったのか、お客様がどう反応されたのか、何がどのような経緯で決まったのか。会話内容や活動記録、社内のメモや稟議書など、現在ほとんど活用できてないものまで拾えるようになれば、提案の精度は格段に上がるはずです。

──テクノロジー活用などで進化し、5年後の銀行の理想の姿を江見さんはどのように描いていらっしゃいますか。
江見:データによって、金融機関の価値は変わっていくと考えています。BIやAIの役割は、人間の判断や行動に付加価値を与えること。データに基づいてより良い判断ができ、より良い提案ができるようになります。
すると実社会との相互作用が生まれ、そこから新しいデータが入ってくる。そのデータをまたBIやAIに流し込めば、さらに良いアウトプットが得られ、人間の行動がさらにレベルアップする。
つまり、BI・AIは刹那的な効率化ツールではなく、人間を高めるためのツールなのです。人間が高まった結果、社会活動が向上し、それがまたデータとしてフィードバックされる。このデータと人間の好循環を実現できた金融機関が勝ち残り、できなければ淘汰される。私はそう考えています。
MUFGは国内だけでも個人約3,400万口座、法人顧客数約100万社という顧客基盤を持ち、データを取得する機会に恵まれています。しかし、それを取れていなかったし、取った情報もデータとして活用できていなかった。
金融機関とは結局、世の中の情報を組み合わせて付加価値を生み出す仕事です。5年後、価値の源泉中の源泉であるデータと人間が高め合い、シナジーと好循環を起こす会社になっていなければなりません。
──そのためには、ロードマップをともに歩むテクノロジーパートナーの存在も重要ですね。Salesforceにはどんな期待をいただいていますか。
江見:まず、オープンな設計思想は絶対条件です。今の時代、1社のベンダーで全てが完結することはあり得ません。特にデータの世界はそうです。当社は業務範囲が広く、オンプレミスを含めてあちこちにデータが存在します。それらを全体として活用するには、オープンな思想での設計が不可欠です。
もう1つは、進化への対応力です。今あるソリューションから1〜2年で陳腐化するものが出てくるのは確実。「今は良いが、5年後にどうなっているかわからない」というものは導入できません。
情報セキュリティへの信頼性や提案力は当然として、進化し続けることを前提に、周囲との連携に柔軟性を持っていること。Salesforceにもこの2点を期待しています。
福島:ありがとうございます。Tableauがまだ実績が乏しい時代から着目いただき、ここまで大規模に活用いただいていることに誇りと責任を十分に感じています。今後も新しい、そして活用しやすいテクノロジーとプロダクト、そしてご支援を手掛けていきます。今後ともよろしくお願いします。

執筆:加藤学宏
撮影:大橋友樹
取材・編集:木村剛士








