噂のAIエージェント、Salesforceはこう使ってる
5つのデモ動画でわかる最新ユースケース集
世界No.1 CRM企業のSalesforceが、AIエージェントをどのように活用しているか。自社事例をわかりやすくご紹介する、デモ動画をまとめてご紹介します。
目次
エージェンティック・コマースとはそもそも何か
生成AIやAIエージェントの進化により、消費者の購買行動は静かに、しかし確実に変わり始めています。
これまでのEコマースは、デジタルとはいえあくまで人が情報を探し、比較し、そして意思決定していました。しかし、AIが普及期に入った現在、消費者はAIを単なる情報収集の補助役としてではなく、意思決定そのものを委ねる存在として使い始めています。
Adobe Digital Economy Index (英語)によると、アメリカでは生成AIを起点とした小売サイトへの誘導トラフィックは、2024年から2025年にかけて数百%規模で増加しており、特に商品比較・検討フェーズでの利用が顕著に伸びています。
この変化は、海外に限ったものではありません、日本でも、AIによる検索要約の浸透により、従来型の検索結果を経由したサイト訪問が減少しており、Google経由のトラフィックが約3割減少しているケースがあると日本経済新聞 は報じています。検索や比較の起点が、人ではなくAIに移り始めている兆しといえるでしょう。
AIにニーズや条件を伝えると複数の選択肢を提示・比較し、リスクも評価したうえで、最適な購買選択肢を提案する。こうした形で、購買の判断をAIに完全に委ねる構造を「Agentic Commerce(エージェンティック・コマース)」といいます。
実際、商品発見や比較にとどまらず、購買行動もAIのチャットインターフェース内で完結するサービスも登場し始めています。
その結果、広告で認知し、ECサイトで比較・購入するという従来型のEコマースジャーニーは、もはや前提として成り立たなくなりつつあります。
AIは人のように商品を選ばない
エージェンティック・コマースを理解するうえで重要なのは、「AIは人と同じ基準で商品を評価しない」点です。
ブランド側がマーケティング予算をかけて作った目新しいキャッチコピーや映像表現は、人の消費者には印象に残る一方で、AIエージェントにとっては「この商品を選ぶ理由」として使われないことがあると考えられています。
さらに、広告的な表現や過度な訴求は、AIの判断ロジックにおいては参考情報の一つとして相対的に重みづけが下がる場合があります。
小売が直面する3つのリスクとチャンス
では、このエージェンティック・コマースは小売業やブランド(メーカー)にとってどのような影響をもたらすでしょうか。筆者は3つのリスクと、一方でチャンスも秘めていると感じています。まずリスクは、主に下記の3つです。
1. リテールメディアの広告モデルの限界
AIエージェントは、インプレッションやスポンサー枠を低信頼の情報源として扱う傾向があります。その結果、従来のリテールメディアからの広告収益モデルは、圧力を受け始めています。
2. ファーストパーティデータの希薄化
AIが購買の起点になることで、ECサイトへの直接流入が減少し、第三者を経由せず企業(小売とブランド両方)が自社で直接収集したデータ(ファーストパーティデータ)が得にくくなるリスクが高まります。
3. AIによる購買機会配分のブラックボックス化
従来のSEOでは、検索エンジンの一定のガイドラインや評価軸を公開しており、完全に予測できるわけではないものの、企業は「何を改善すべきか」を推測しながら最適化を進めることができました。
一方、AIエージェントによる判断は、学習データやモデル設計に強く依存しており、モデルごとに評価の観点が異なり、明確に定義されたガイドラインや固定的な評価軸が存在しません。
さらに、モデルの更新や継続的な学習によって、判断ロジック自体が変化していきます。その結果、これまでAI検索で有効だった表示順位や最適化施策が、明確な理由や事前通知なく機能しなくなるといった状況が起こり得ます。
一方で、この変化は小売にとってのチャンスでもあります。
消費者(ショッパー)がAIに投げかける問いの多くは、特定の商品名ではなく、「今の状況をどう解決すべきか」という相談です。
例えば、
「新生活を始めるにあたって、何を揃えるべきか」
「在宅ワークを快適にするには、どんな準備が必要か」
「ペットと暮らすために、最低限必要なものは何か」
といった問いです。
AIはその問いを起点に、商品単体ではなく、複数ブランド・複数カテゴリを横断しながら、解決確率が最も高い選択肢の組み合わせを探索します。
小売は、それに対する構造的に次のような強みを持っています。「ペットと暮らすために、最低限必要なものは何か」の問いを例に説明します。
- 問題の整理:消費者の問いを「解ける形」に翻訳する役割(課題やニーズ → 比較可能な選択肢)
小売は、消費者の曖昧な相談やニーズを、商品・カテゴリ・条件に分解し、比較可能な形に整理できます。
例えば、「ペットと暮らすために、最低限必要なものは何か」の問いは、一見シンプルですが、 実際には多くの前提が曖昧なまま含まれています。犬か、猫か;室内飼いか、屋外飼いか;初めて飼うのか、経験があるのか;住環境はマンションか、一戸建てか、こうした曖昧な問いを、商品・カテゴリ・条件に分解し、比較可能な形に整理できます。
例えば、フード(年齢・体格・アレルギー対応)、トイレ用品(猫砂、シート、消臭)、食器・給水器、寝床・ケージ、おもちゃ・ケア用品などといったように、複数カテゴリ・複数ブランドを横断した“最低限の構成要素”として提示できます。
- 解決方法の検証:「何がうまくいったか」を証明する役割
小売がどの商品が実際に選ばれ、どの組み合わせが繰り返し購入され、どこで返品や離脱が起きたのかを把握しています。つまり、「どの選択肢が本当に問題解決につながったか」を、意向や仮説ではなく、実際の購買行動データで示せる立場にあります。
例えば、高齢猫用フードを購入するショッパーは、特定のトイレ用品と併せて購入する割合が高い。こうした事実は、「こうすれば良さそう」という仮説ではなく、「実際にうまくいっている解決策」をAIに示しています。小売は、この成功パターンをもとに、より効果的なセット提案や、AIが判断しやすい“信頼できる選択肢”を育てていくことができます。
- 問題の解決:選択肢を「実際に使える形」に整える役割
AIが導き出す解決策は、理論的には正しくても、そのままでは消費者にとって最適とは限りません。実際の購買では、価格、タイミング、プロモーション、ロイヤルティ条件といった要素が、意思決定に大きく影響します。小売は、こうした条件を組み合わせることで、消費者にとって最も現実的で、お得な購入プランを設計できます。
ステップ2で定義した複数カテゴリを横断した商品セットの提案に、定期購入割引やロイヤルティ条件、期間限定プロモーションを加味し、最もコストパフォーマンスの高い購入方法を提示する。
例えば、「3月第2週にまとめて購入すれば、通常より10%割引で購入できる」「次回の買い替え時期には、対象商品のキャンペーンが予定されている」といった将来の購入タイミングまで含めた情報を提示する
このように小売は、 “今買えるかどうか”だけでなく、 “いつ・どう買うのが最も合理的か”まで含めて選択肢を整えることができます。AIがより良い判断を行うための“思考プロセス”を支えることにあります。
エージェンティック・コマース時代の「小売の新たな競争軸」
エージェンティック・コマースの進展は、小売とブランドの関係性、そして小売自身の競争軸を変えつつあります。
これまで小売とブランドの協業は、 広告やプロモーションを中心に、 主に「商品単位」「カテゴリー単位」で設計されてきました。今後はその軸が、「商品」ではなく、カテゴリを横断した「消費者・ショッパーのニーズ起点」での情報設計へと進化していくと考えられます。
これまで小売では、季節性や販促カレンダーに合わせて、ブランドからの提案を受けながら、店頭を中心としたプロモーションやニーズ提案を行ってきました。
こうした取り組み自体は今後も重要である一方、エージェンティック・コマース時代には、オフラインの売場で行ってきた情報設計やアソートメントの考え方を、AIにも理解できる形で整理・更新し続けることが、より重要になります。
具体的には、情報(商品属性・用途・組み合わせ)、アソートメント(カテゴリ横断の選択肢)、推奨ロジック(なぜその組み合わせなのか)を連動させ、一度作って終わりではなく、継続的に見直し・更新する設計が求められます。
継続的に最適化される意思決定ループと、商談の変化
従来の小売とブランドの商談は、年2回程度の大規模な棚改装に合わせた商談、月次・四半期単位での重点ブランドとの定例商談といった、比較的固定的なリズムで行われてきました。
しかしエージェンティック・コマース環境では、消費者のニーズや購買行動が、AIを介してより細かく可視化されるようになります。
その結果、特定カテゴリや定期的なプロモーションだけでなく、特定の「問題解決シーン」単位で成果が見えるようになり、商談や協業のあり方も、 より柔軟で、目的起点のコラボレーションへと変化していく可能性があります。
必ずしも主要ブランドだけに限定せず、消費者の課題解決に寄与するブランド (long tail brand)を横断的に巻き込む動きが、より重要になっていくでしょう。
オンラインとオフラインを前提にした体験設計の重要性
日本市場では、ECが成長しているとはいえ、多くの消費財カテゴリでは、依然としてオフライン購入が主流です。
例えば化粧品業界では、購入の約8割が店頭で行われているとする調査結果もあります。
この現実を踏まえると、 AIによる提案を、いかにスムーズに店頭体験へとつなげられるかが、小売にとって極めて重要な競争要素になります。
理想的な体験の一例としては、
- AIが消費者のニーズに基づいて、クロスブランドの商品リストを提案する
- 消費者が「実際に試したい」と感じた場合、AIから店頭でのトライアルやカウンセリングを予約できる
- オンラインでの提案と、オフラインでの体験が分断されずに連動する
といった形が考えられます。
これは単なる利便性向上ではなく、「理解されている」「自分に合った提案を受けている」という体験を通じて、ショッパー(もしくは消費者)との中長期的なロイヤルティ関係の構築につながる可能性があります。
ただ、現実に考えると、既存のショッパーが、短期間ですべてAIを活用し、エージェンティック・コマースへ一気に移行するわけではありません。そのため小売にとって重要なのは、既存の業務(定期商談、店頭プロモーション、販促計画など)を否定することではなく、それらを土台としながら段階的に進化させていくことです。
この点について、多くの現場では次のような懸念が生まれがちです。「やるべきことが増えるだけではないか」「今の人員・リソースでは対応できない理想論ではないか」、これはもっともな疑問です。
新しい業務を人手で積み上げることではなく、AIエージェントを活用して業務の進め方そのものを変えることです。
McKinseyやSalesforceの調査では、AIを部分的に導入するだけでは効果が限定的であり、業務プロセス全体を前提から再設計した企業ほど、生産性・顧客満足度の両面で成果を上げていることが示されています。
エージェンティック・コマースで競争力を持つためには、企業自身も 「Agentic Enterprise」へと進化する必要があります。
Agentic Enterpriseとは、AIを単なるツールとして使うのではなく、既存のワークフロー、新しく生まれるワークフローを整理したうえで、人が担うべき判断・体験設計AIが主に実行すべき分析・提案・最適化を明確に分け、人とAIが協業する前提で業務を設計する企業を指します。
既存ワークフローを「AIでなめらかにする」
まず、これまで人手に依存してきた業務は、AIによって“置き換える”のではなく、質とスピードを底上げする形で進化させます。
例えば、
- 定期商談や棚割り検討に向けた
売上・購買データ、併売傾向、在庫状況の整理や示唆出しはAIが担う - 人は、その結果を踏まえて
ブランド戦略や店頭体験、優先順位といった最終判断に集中する - AIは、購買データや行動データを継続的に学習し、
次回商談に向けた改善ポイントや仮説を自動で提示する
これにより、
商談や棚割りは「経験や勘に依存する業務」から、 常にアップデートされる意思決定プロセスへと変わっていきます。
新しいワークフローを「Agentic Commerce向けに組み込む」
同時に、Agentic Commerceの成長を支えるための新しい業務フローも必要になります。
例えば、
- AIは、消費者や消費者のAIエージェントから投げかけられる質問や相談内容をもとに、どのようなニーズや課題が多く発生しているかを整理し、傾向として可視化する
- 人は、その結果を踏まえて、商品単位ではなく、「どの問題に、どの組み合わせで応えるべきか」という問題解決単位での情報設計や協業方針を決める
- AIは、過去の購買実績や併売データをもとに、どの選択肢や組み合わせが実際にうまく機能してきたかを整理し、AIエージェントが参照しやすい形で更新し続ける
さらに、
- AIは、在庫、価格、プロモーション、ロイヤルティ条件を反映し、「今、実行できる最適な購入プラン」を組み立てる
- 人は、そのプランをもとに、店頭体験やクロスブランド施策など、オンラインとオフラインをつなぐ体験設計に集中する
この新しいワークフローは、定期商談や棚割り、販促計画といった既存業務を置き換えるものではなく、 その前後をAIが支援する形で、延長線上に“on top”で組み込むことが可能です。
このように、既存業務の品質を維持・向上させながら、新たなビジネス機会(エージェンティック・コマース)を取り込むことが、現実的な進化の道筋になると思います。
Salesforceはこの変化をどう支えるのか
Salesforceは、Agentic Enterpriseへの変革を、特定のAI機能を追加することではなく、人とAIが協業できる意思決定の基盤を整えることだと捉えています。
その中で、Salesforceは以下のようなソリューションで小売やブランドのエージェンティック・コマースを支援できます。
- 「Data 360」 によって、顧客・商品・行動データを統合し、人とAIの双方が同じ前提で判断できるデータ基盤を整える
- 「Agentforce Commerce/Agentforce Marketing」を通じて、既存の業務や顧客体験を維持しながら、AIによる提案や最適化を段階的に組み込める環境を提供する
- Agentforce により、企業のルールや責任範囲を明確にしたうえで、AIエージェントを業務プロセスに組み込むための枠組みを支える
【Salesforce実践知】AIエージェント活用に向けた 8ステップ実践ガイド
エージェンティック エンタープライズへのロードマップ
Salesforce自身の導入経験と、革新的スタートアップからFortune 500企業まで数千社の変革支援で得た「生きた実践知」を凝縮した段階別ロードマップです。











