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複雑なタスクもお任せ!AIエージェントで顧客サポート
Agentforceサービスエージェント
顧客サポートを効率化し、業務をスムーズに進めるための活用法を学べます。AI活用で顧客対応の質を向上させたい方に必見の内容です!
国内最大規模のSalesforce活用コンテスト SFUG CUP
「Salesforce全国活用チャンピオン大会(SFUG CUP)」は、Salesforceユーザーによる活用事例のコンテストで、Salesforceユーザーグループの活動の中で最大のイベント。現場で生まれた工夫や成功事例を発表し合い、他のユーザーが自社でも活用できるようにすることを目的としています。2011年にスタートし、今年で13回目を迎えました。
今年のテーマは「AIエージェント時代におけるデータの整備 〜このままではAgentforceが困っちゃう!?いま整えるべきデータの話〜」。30を超える応募の中から6社がファイナリストに選ばれ、9月5日の決勝大会でプレゼンテーションを行った結果、LINEヤフーの徳山敦さんが栄冠を手にしました。
優勝できた秘訣は何だったのでしょうか。徳山さんのキャリアや現在のミッション、SalesforceやAI活用法とともに紹介します。

Chapter 1
自身のキャリアとSalesforceとの出会い
カスタマーサポート一筋、20年。「顧客対応のプロ」としての歩み
──まず、徳山さんのこれまでのキャリアを教えてください。
徳山:私は理学部情報科学科を卒業したのでプログラミングはできましたが、周囲にいるプログラマーがすごすぎて、エンジニアになるつもりはありませんでした(苦笑)。
コードはまぁまぁ書けるし、国語が得意なので、テクニカルサポートの仕事であれば自分の能力を生かせそうだな、と。それなら「Yahoo! JAPAN」という日々利用する大きなサービスに携わってみたいと思い、2005年にヤフー(当時)に新卒入社しました。
入社直後は、カスタマーサポート(CS)の業務委託の方々のマネジメントやサービスの企画、対応マニュアル作成などを担当しました。その後は、北九州のカスタマーサポートセンターで、法人向けサポート業務を経験。東京に戻ってからはCS関係のシステム企画に携わるようになりました。
そして2020年、CS のシステムと業務を Salesforce で一気に刷新することになり、プロジェクトマネージャーを任されました。これがSalesforceとの初めての出会いです。以降は、CIOのもとでSalesforceを管理するSFA/CRM部に所属し、Salesforceのシステム管理者を5年間務めています。

LINEヤフー株式会社 CIT統括本部IT戦略本部SFA /CRM基盤管理&開発チーム リーダー
──Salesforceの第一印象はどうでしたか。
最初に感じたのは、UI(User Interface)でとてもモダンだな、と。あと、無料で使えるオンライン学習プラットフォームの「Trailhead」がとても充実していて、ユーザーの学習に力を入れている姿勢が印象的でした。
──刷新プロジェクトを機に導入したSalesforceはどのようにお使いいただいているのでしょうか。
LINEヤフー全社では複数のSalesforce製品をさまざまな用途で利用しており、全部はお話できないのでYahoo! JAPANのカスタマーサポート業務だけに限って話をすると、ヘルプページや問い合わせフォーム、内部の問い合わせ管理業務までを一貫してSalesforceのもとで行っています。
お客さま向けのヘルプページと問い合わせフォームは「Experience Cloud」で構築し、内部の対応は「Service Cloud」でケース管理を行う構成です。そのうえで、昨年からは、AIエージェント「Agentforce」の導入を本格的に開始しています。
Chapter 2
LINEヤフーのAI活用術を披露した優勝プレゼン
月1万件の自動返信をAIで実現
──現在、AIをどのように活用していますか。今年のSFUG CUPでもその取り組みを紹介してくれましたが(視聴はこちらから)、概要を教えてください。
2つの業務でAIを実装しています。1つ目はスパムメール判別のフィルター。精度99%で、月間約4万件のメールを判定しています。
2つ目がお客さまからの問い合わせに対するメールの自動返信です。現在、月間約1万件に自動対応し、正解率85%、解決率85%を達成。
正解率というのは、生成AIが回答したものを後から人が見て「完全に正しかった」と判断できたものの割合を指します。解決率は、生成AIの返信後にお客さまから一定期間返事がなく、解決したとみなせる率です(2025年7月末時点)。
【LINEヤフー】カスタマーサポートの舞台裏。
問い合わせの80%をAIエージェントが対応する環境の礎は整った。
──人のチェックを入れるべき」という意見はなかったのですか。
ありましたね。なので、テストを幾度も実施して、クレームの発生やお客さまの満足度を調査したんです。結果として、致命的な問題は起きないことが確認できたので、完全自動返信を採用する判断に至りました。ただし、事後に生成AIの回答を人が確認して精度を測定する仕組みは維持しています。

──当時のSalesforceのAIでは自動返信の仕組みを実現するには、苦労もあったそうですね。
ありましたね(苦笑)。その当時のSalesforceのAIの中でこの業務に適した機能の「Einsteinサービス返信」を試したのですが、残念ながら期待する精度は得られませんでしたし、そもそもデータの整備も不十分でした。
そこで発想を転換して、人が判断していく流れを再現するかのように、3段階でAIが機能する仕組みを作り上げました。当時は「Agentforce」がリリース前だったので、プロンプトビルダーとワークフロー、「Apex」(Javaに似たSalesforceの専用プログラミング言語)などを組み合わせることにより実現しました。
──3ステップとはどのようなものですか。
まず1段階目で、お客さまの問い合わせ意図(インテント)をAIに判定させます。そして、2段階目でその意図に対応するマニュアルをAIが読み解き、問い合わせ内容とユーザーデータを合わせて、どの回答を採用すればいいかを判断。ここでは回答文を作るのではなく、使うべき回答テンプレートを決定します。
3段階目で、そのテンプレートをもとに、お客さまの状況に合わせて微調整を行い、最終回答を生成します。ゼロからいきなり生成AIに文章を作ってもらうのではなく、テンプレートをもとに調整することで、予測の可能性を高められます。また、結果の判断や修正すべき箇所もわかりやすくなります。
この仕組みの中で、AIが参照するマニュアルは、もともと人が判断に用いていたものを修正しました。人が理解しやすいマニュアルがAIも理解しやすいとは限りませんから。
現場の力で精度の高いデータを整備
──SFUG CUPのテーマ通り、「このままでは困っちゃう!?」だったわけですね。
そうです。社内Wikiなどに散在していたマニュアルを、Salesforceのナレッジオブジェクトに集約していきました。この整備にはかなりの人数を動員して、テストを繰り返しながら精度を向上させました。2025年7月末時点で約120本のマニュアルを収録。苦労して現場部門が取り組んだからこそ、この精度が出るようになったんです。
また、このプロジェクトは1年半ですが、それ以前の2021年からAI活用に向けたデータ整備に取り組んできました。当時はまだ生成AIが世間をにぎわせる前でしたが、機械学習のためにカテゴリの構造を明確にルール化し直し、どんな人も、そして「機械」も同じように問い合わせの意図を理解できるようにしていたんです。これが今回のAI活用でも大いに生きています。

──プロジェクトはどのような規模だったのでしょうか。
総勢約30人で、プロジェクト期間は1年半、準備期間を含めると4年にわたる取り組みです。システム部門、カスタマーサポート現場部門、社内のAI推進部門、そしてSalesforce のSignature SuccessPlanとProfessional Serviceにも支援いただきました。
Signature Success Plan
Agentforceのイノベーションへの道を切り拓き、頼りになるエキスパート、専門的なプログラム、最速のサポートを得て、ビジネスで最高のパフォーマンスを発揮しましょう。
Chapter 3
SFUG CUP 優勝で得たこと
SFUG CUP攻略法と優勝の反響
──そうした業務に携わっている中で、SFUG CUPに応募されたきっかけを教えてください。
今年のテーマ「AIエージェント時代におけるデータの整備」を見て、「まさに今私たちが取り組んでいることだ」と感じたからです。
また、この取り組みは社内の表彰制度「データアワード」でも評価され、2025年7月に「Generative AI賞」を受賞していたんです。社内で評価されたこともあり、社外へのアピールもすべきだろう、と。社内で高評価を得ていたので、少し自信もありましたしね(笑)。

──他のファイナリストのプレゼンも非常にレベルが高かったと思いますが、優勝できた理由をご自身ではどう分析されていますか。
どなたのプレゼンも大変興味深く、すばらしいものでした。正直に言って、どの会社が優勝してもまったく不思議ではありません。
その中で私が優勝できたのは、なるべく平易にわかりやすく伝えることを重視したこと。そして、よくある課題からデータを整備していくというストーリーがわかりやすく、データ整備のポイントが他社でも参考にしやすかったからではないでしょうか。
加えて、プレゼン内容を絞ったことも寄与したかもしれません。例えば、プレゼンは最も説明したいメール自動返信に絞り、スパムメールの取り組みは、一言触れるだけにとどめてそれ以上の説明はしなかったんです。
また、複雑なシステム構成図を載せても、パッと見ただけではわかってもらえないでしょうから、枝葉を落とし幹だけにして、初めて聞いた時に何をしているのかがわかるように工夫しました。
──SFUG CUP優勝後、どのような反響がありましたか。
社内の他部門から「おめでとう」に加えて「話を聞かせてほしい」というメッセージが寄せられました。社内ラジオへの出演依頼も。そして、こうしてSalesforceから取材いただく機会にもつながり、社外へのアピールも含めて応募してよかったと思っています。

Dreamforceで方向性の正しさを確信
──優勝者と準優勝者は、米サンフランシスコで開催される最大級のAIエージェントイベント「Dreamforce 2025」へご招待しました。いかがでしたか。
印象に残っているのは、基調講演です。AIエージェントがより決定論的に動作する必要があり、そのためにSalesforceの新言語である「Agent Script」を提供するという発表が含まれていました。私たちがやりたかったことが標準機能として搭載されることになったわけです。
また、私たちは、今回の取り組みにおいて、Apexやプロンプトビルダーを組み合わせて多段階でAIを動かすことで、ルールに従った正しい回答を実現しました。その方向性は間違っていなかったのだと確認できたことが、大きな収穫でした。

──今後はどのようなことにチャレンジしていきますか。
問い合わせメールの自動返信で85%の精度が出ていますが、この数字にまだ満足していません。もっと上げていきます。究極の理想はテンプレートを使わず、AIがお客さまとやりとりしながらマニュアルなどを参照しながら、回答を正しく生成できること。
また、AIエージェントの活用領域を拡大し、チャットやコールなど、他のチャネルでも同じ体験ができるようにしていきたいと考えています。
この数年で生成AIが爆発的に進化し、カスタマーサポートで20年間にわたり培ってきた経験が一気に突き崩されかねないと感じています。だからこそ、古いやり方にはこだわらず、今の流れにちゃんと乗っていきたい。「AIと人の協働」で、お客さまに対して早く、正しい回答を届けて、顧客満足度を高めるにはどうすればいいのか。このことを考えていきたいと思います。
──Agentforce World Tour Tokyoの基調講演でSalesforceが強調していた、Agentic Enterpriseのビジョンと通じる考え方ですね。
【Agentforce World Tour Tokyo-基調講演】
Salesforceが掲げたAgentic Enterpriseと、Agentforce 360ってなんだ?
AIエージェントの力を借りながら、より多くのお客さまの課題を、より的確に解決できるようになると信じています。関係者一同で、これからも一層の取り組みを推進していきたいと思います。

企業LINEをともだちに。Agentforceで新しい顧客体験を。
LINEとAgentforceとの連携による新しい顧客体験を、3分のデモ動画でご覧ください。
執筆:加藤学宏
撮影:大橋友樹
取材・編集:木村剛士












