Key Takeaways
前編では、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)推進を駆動する4つの構造変化を読み解きました。
中編では、それらを踏まえ、SX推進基盤に求められる設計要件を4つの戦略視点から捉え、実務に現れる構造的な行き詰まりを4つのアンチパターンとして抽出しました。
後編では、SX推進基盤を5類型に整理したうえで、「Agentforce Net Zero」を業務プラットフォーム型に位置づけ、これらの設計要件と実務課題にどう応答しうるかを読み解きます。
具体的には、中編で示した統合・統制・拡張に対応するAgentforce Net Zeroの3つの価値を明らかにします。メタ視点「越境」は、これらをバリューチェーン全体へ面的に展開するものとして扱います。
さらに、3つの価値の連動によって、外向きの開示・対話と内向きの業務運用・経営判断の循環が企業価値創造へつながる構造を解説します。

▶︎中編:4つの戦略視点と実務を蝕むアンチパターン
SX推進基盤の見取り図:5類型と設計の起点・重心
市場で一般化された製品分類ではなく、何を設計の起点とし、どこに重心を置くかという観点から、SX推進基盤の主要な設計思想を5類型に整理します。
実際の製品には、複数の類型の性質を併せ持つものもあります。この5類型は、機能の有無によって製品を排他的に区分するものではありません。
【SX推進基盤の5類型】
| 類型 | 設計の起点と重心 |
|---|---|
| 収集ハブ型 | サステナビリティデータの収集を起点とし、集計・算定・可視化を含むデータ管理を主眼に設計 |
| 開示・レポーティング型 | 法定・任意開示への対応を起点とし、開示物の作成・編集・証跡管理・提出などのレポーティング工程を主眼に設計 |
| サステナビリティ業務縦断型 | サステナビリティ業務を起点とし、収集・算定・開示などの主要工程を一体的に支援することを主眼に設計 |
| 財務起点拡張型 | 財務・連結会計・経営管理基盤を起点とし、既存の統制・報告プロセスを生かしながら、サステナビリティ領域へ拡張することを主眼に設計 |
| 業務プラットフォーム型 | 共通の業務・データ基盤を起点とし、サステナビリティ業務を他の業務プロセスやデータと連動させることを主眼に設計 |
この5類型に、一律の優劣はありません。
ここで、サステナビリティ推進リーダーが自らに問うべきは、その基盤が足元の要件に対応できるかだけではありません。中長期的には、その基盤にどのような役割を求めるのか。初期導入の範囲とアーキテクチャの射程は、同じではありません。
本連載では、開示対応にとどまらず、サステナビリティデータの経営判断への活用までを見据えます。そのためのアプローチの一つとして、業務プラットフォーム型に着目します。
業務プラットフォーム型には、CRMやERPなどの業務基盤を起点とする複数の製品があります。
その一つであるAgentforce Net Zeroは、Salesforceプラットフォーム上に構築され、Agentforce(AIエージェントプラットフォーム)を通じてAIエージェントをサステナビリティ業務に組み込める設計を採ります。
【デモ】 情報開示とGHG削減で、SX推進はどう変わるか
To-Be象限への跳躍は、情報開示とGHG削減の両輪で駆動されます。Agentforce Net Zeroが企業戦略をどう変えるか、デモ動画でご確認ください。
Agentforce Net Zeroの3つの価値と越境による面的展開
ここでは、中編で示した「Future-Proofな統合OS」の設計要件と4つのアンチパターンを踏まえ、Agentforce Net Zeroがどう応答しうるかを、統合・統制・拡張の3つの価値として整理します。
【構造変化・戦略視点・Agentforce Net Zeroの応答】
| 構造変化(前編) | 戦略視点(中編) | 応答(後編) |
|---|---|---|
| ① 規律の高度化 | 統制の視点 | 統制の価値 |
| ② 業務複雑性の臨界 | 拡張の視点 | 拡張の価値 |
| ③ 価値統合の要請 | 統合の視点 | 統合の価値 |
| ④ 責任境界の拡張 | メタ視点「越境」 | 3つの価値の面的展開 |
メタ視点「越境」に対応するのは、独立した第4の価値ではありません。
統合・統制・拡張という3つの価値をバリューチェーン全体へ面的に展開することです。たとえば、Scope 3の算定に用いるデータを連結グループ外のサプライヤーから収集し、自社の算定・レビュー・承認プロセスに組み込むことが、統合・統制・拡張の適用範囲をバリューチェーンへ広げる「越境」の一例です。
前述の構造変化と戦略視点の主たる対応関係とは異なり、4つのアンチパターンと3つの価値は一対一には対応しません。一つのアンチパターンに複数の価値が関わる場合も、一つの価値が複数のアンチパターンにまたがる場合もあります。
以下では、この3つの価値を順に解説します。
【統合の価値】SSOTとAIエージェントが支える業務ライフサイクルの一気通貫運用
Agentforce Net Zeroは、目標設定から可視化・分析まで、サステナビリティ業務の各工程とそこで扱うデータをSalesforceプラットフォーム上で関連づけ、工程横断で管理・運用するための土台を提供します。
ただし、一つの基盤上でデータを管理するだけでは、SSOT(Single Source of Truth)は成立しません。
そのデータを、開示物の作成、分析、意思決定などの各場面で一貫して参照・利用するには、共通のデータ定義に加え、どのデータを正とし、誰が更新に責任を持つかといった管理ルールを組織として定める必要があります。
このSSOTを土台として、Agentforce上で動作するAIエージェントが、管理されたデータや関連文書を参照しながら、サステナビリティ業務を支援します。
代表的な活用例は、次のとおりです。業務要件に応じて、AIエージェントの設定・カスタマイズも可能です。
- Data Collection:関係者へのデータ収集タスクの割り当て・メール通知、未完了タスクのフォローアップを支援する
- ESG Reporting:登録された開示資料などを参照し、開示項目への回答や文案作成を支援する
- ESG Insights:自然言語による質問を通じて、サステナビリティデータの傾向や進捗の把握を支援する
こうしたAIエージェントに、定められた権限の範囲で業務を委ねることが、既存業務の効率化と判断・対話の質の向上を後押しします。これらの価値が企業実務にどう現れるかは、後述の表で整理します。
この統合の価値は、中編で示したアンチパターン②〜④に次のように応答します。
- ② 承認統制の形骸化:データの収集・算定からレビュー・承認までの工程を、確認・判断内容の記録とつなぐ
- ③ SSOT不在:共通のデータ定義・管理ルールのもとで、開示物の作成や対外対応に用いる情報を関連づけ、差異の理由を追跡しやすくする
- ④ 報告書作成部隊化:用途ごとに異なるデータ要件を踏まえ、開示対応と経営提言・削減支援に用いるデータを関連づけて管理する
特に④については、開示対応と経営提言・削減支援のそれぞれで必要な粒度や鮮度を保ちながら、関連するデータを同じ基盤上で結びつけて管理することで、照合や重複管理に伴う負荷を抑えます。
統合の価値は、組織が定めるルールや構築する実務体制を代替するものではなく、それらに基づく実務の継続を支えるものです。
【事例】属人化・縦割りのデータ管理、どう解決した?
本記事で解説したSSOTの考え方を、セブン&アイ・ホールディングス様はAgentforce Net Zeroで実現。約2万店舗のデータをどう一元管理したか、事例で確認できます。。
【統制の価値】業務プロセスと連動するガバナンス
本連載では、Agentforce Net Zeroのアーキテクチャを、サステナビリティ業務に特化した機能層と、その基盤となるSalesforceプラットフォーム層の二層で捉えます。
【Agentforce Net Zeroの二層構造】
Salesforceプラットフォームには、ユーザー・権限管理、入力制御、承認プロセス、変更履歴などの共通機能があります。Agentforce Net Zeroでは、これらをサステナビリティ業務に適用し、統制を業務プロセスと同じ基盤上に実装できます。
例えば、Agentforce Net Zeroの「データリンク」を使えば、開示用の定性記述とその参照元となる定量データを直接結びつけられます。Salesforceプラットフォームの承認プロセスと組み合わせることで、その関係を保ったまま、レビュー・承認を一連の業務として運用できます。
この二層構造の要点は、個々の統制機能の多さではありません。誰がどのデータを入力・変更したか、また、レビュー・承認時には誰が何を確認し、何を根拠に判断したかを、一連の業務記録として残し、後から追跡できるようにすることです。
第三者保証に際しても、こうして蓄積した記録は、開示情報の作成プロセスや関連する内部統制の運用を説明し、裏づけるために活用しやすくなります。
この考え方は、人が行う業務だけでなく、AIエージェントに委ねる業務にも当てはまります。
AIエージェントによる自律化は、人の判断をすべてなくすことではありません。委ねる業務のリスクに応じて、実行権限、承認経路、例外時のエスカレーション、実行履歴の記録・確認などを設計する必要があります。
とりわけ開示文書の作成では、AIエージェントの出力を草案と位置づけ、人がその内容を参照情報と照合したうえで、レビュー・承認する工程を明確にする必要があります。自律性と統制を同時に設計することが、第三者保証を見据えたAIエージェント活用の前提です。
この統制の価値は、中編で示したアンチパターン①と②に次のように応答します。
- ① 翻訳KPI空転:本部目標を事業判断につなぐ指標とその実績データについて、アクセス権限と変更履歴を管理し、財務判断、評価・報酬制度、業務手続きへの組み込みの継続運用を支える
- ② 承認統制の形骸化:組織が定めた承認主体、確認の根拠、判断基準、差し戻し条件を承認プロセスに組み込み、その運用を標準化する
統制の実効性は、アクセス権限や変更履歴の管理だけでなく、判断に用いるデータを所定の品質に保ち、適時に更新する運用にも左右されます。データ品質・鮮度の基準と更新責任は、組織として定める必要があります。
したがって、統制の価値は、①の各組み込みの設計・合意形成や、②の承認ルールの策定を代替するものではありません。Agentforce Net Zeroは、組織として合意した設計やルールを業務プロセスに実装し、その運用の標準化と継続を支える基盤を提供します。
【拡張の価値】Salesforceとエコシステムを生かした変化対応力とTCO最適化
Agentforce Net Zeroの拡張性は、機能の個別追加にとどまりません。Salesforceプラットフォームを起点に既存資産を活用し、制度・組織・責任境界の変化に応じて、接続範囲と業務・データの設計を見直せる点にあります。この対応力は、変更・接続・更新という3つの仕組みから生まれます。
- ローコード・ノーコード開発:承認プロセスの調整やデータ項目の追加に、業務主管部門と情報システム部門が協働して対応し、変更サイクルを短縮できる。
- エコシステム連携:必要に応じてAgentforce Net ZeroにTableauやMuleSoftを組み合わせ、分析・可視化や外部システム連携の幅を広げられる。
- 継続的な製品アップデート:Salesforceの年3回の主要リリースを通じて追加・強化されるAgentforce Net Zeroの機能を活用し、個別開発への依存を抑えられる。
これらは、変化への対応力と開発・運用の負担を左右し、SX推進の実装力を支える戦略的な設計要素です。ここでいうTCO(総所有コスト)の最適化とは、導入時の費用だけで判断せず、ライフサイクル全体のコストを見据え、製品・ライセンス構成、連携方式、運用・保守体制などを見直すことです。
この拡張の価値は、統合・統制の仕組みの早期立ち上げと継続的な見直しの双方にあります。
- 短期:Salesforceプラットフォームの共通機能と既存資産をもとに、統合・統制の仕組みを必要な範囲から立ち上げる
- 中長期:制度・組織・責任境界の変化に応じて、統合・統制の適用範囲を見直し、その仕組みを更新する
制度対応を起点に、その先へ。外向き・内向きの循環が生む価値
前編で予告したとおり、ここでは構造変化③(価値統合の要請)に応える統合が、統制・拡張と連動することで、企業価値創造へどのようにつながるかを論じます。
その価値が企業実務にどう現れるかを、「外向き/内向き」と「効率化/高度化」の2つの切り口で整理しました。
【外向き・内向きに現れる効率化・高度化の主な価値】
| 価値の現れ方 | 外向き(開示・資本市場との対話) | 内向き(業務運用・経営判断) |
|---|---|---|
| 効率化(省力化・迅速化) | ・複数の開示物で用いるデータ を共通の定義・管理ルールで 関連づけ、照合負荷を抑える・AIエージェントによる 文案作成支援で、開示資料の 作成時間の短縮につなげる | ・データ収集からレビュー・ 承認までの業務プロセスを 同じ基盤上で標準化する・データ収集の依頼・通知・ フォローアップを AIエージェントが支援する |
| 高度化(判断・対話の質向上) | ・投資家の関心を見据え、 蓄積データから対話の論点を 整理する・サステナビリティデータの 経営判断への活用実績を 投資家との対話で示す | ・経営判断の文脈に応じ、 サステナビリティKPIと 財務KPIを相互参照する・判断に適したデータを もとに、削減施策や次の 目標設定の検討を支援する |
この表の要点は、4つの領域をそれぞれ独立したものとして捉えることではありません。内向きの実務で蓄積したデータと活用実績が外向きの開示・対話を裏づけます。企業がその対話で得た論点を次の経営判断や目標設定に反映することで、内向きと外向きの循環が生まれます。
Agentforce Net Zeroは、これまで示した統合・統制・拡張を同じ基盤上で連動させ、この循環を支えます。
【外向き】資本市場との対話への接続
外向きの価値は、サステナビリティデータを開示に用いるだけでなく、経営判断に活用した実績を投資家との対話で具体的に示せる点にあります。
前編で引用したPwC調査では、回答者の61%が、サステナビリティデータを活用して効率とパフォーマンスを向上させる企業への投資を「大幅に/ある程度増やす」と回答しました。
この結果は、投資家が、サステナビリティデータの開示そのものに加え、企業がそのデータを業務効率や事業パフォーマンスの向上にどう結びつけているかにも関心を寄せていることを示唆します。
Agentforce Net Zeroでは、AIエージェントによる開示業務の支援を、投資家との対話に向けた準備にも生かせます。
企業は、投資家との対話などを通じて把握した関心事項を踏まえ、投資家が自社に寄せる中長期的な期待も見据えながら、蓄積したサステナビリティデータや過年度の開示資料を参照し、対話の論点と説明の根拠を整理しやすくなります。
【内向き】経営判断サイクルへの接続
内向きの価値は、サステナビリティデータを経営判断の節目で活用し、目標や施策の見直しにつなげられる点にあります。
Agentforce Net Zeroは、目標・施策と実績データを同じ基盤上で関連づけます。AIエージェントを活用して実績データを分析し、目標の達成状況や施策の進捗を把握することで、企業は次の経営判断に向けた論点を整理しやすくなります。
その論点をサステナビリティKPIと財務KPIに照らして検討する際は、両者を同じ性質の指標として単純に横並びにしないことが重要です。両者では定義、対象範囲、時間軸、測定方法などが異なる場合があるため、そうした違いを踏まえ、経営判断の目的に応じて関連づける必要があります。
両者を相互参照することで、サステナビリティ目標の達成状況と施策の進捗を、関連する財務KPIの推移と併せて検討し、次の経営判断に生かしやすくなります。
こうした内向きと外向きの循環が、構造変化③への応答を企業価値創造へ結びつける具体的なメカニズムです。
決定的な岐路
SSBJ基準に基づく初回開示を確実に行うことは、それ自体が重要です。しかし、それはあくまで出発点にすぎません。
そこから先に築く基盤が、自律的な運用と企業価値創造を両立するTo-Be象限への跳躍を支えられるかどうかが、自社のSX推進の中長期的な実効性を左右します。
制度・組織・責任境界が変わるたびに個別改修を重ねれば、開示と経営判断の一貫性を保つ負荷は高まります。資本市場の期待に応え続けることも難しくなります。
求められているのは、変化を耐え忍ぶ守りの装置ではなく、変化に応じて進化できるSX推進基盤です。その土台があってこそ、開示情報は単なる提出物ではなく、企業の経営実態と資本市場をつなぐ「情報インフラ」として機能します。
SSBJ基準の段階的適用に向けた準備期間は、対応スケジュールを引くためだけの時間ではありません。「開示起点から経営起点へと実務の重心を移し、To-Be象限への跳躍をどのような道筋で実現するのか」。この問いを、いま経営アジェンダに据えられるか。それが、SSBJ対応を制度対応だけで終わらせるか、SX推進の跳躍点として生かし切るかを分ける決定的な岐路です。
【デモ】 情報開示とGHG削減で、SX推進はどう変わるか
To-Be象限への跳躍は、情報開示とGHG削減の両輪で駆動されます。Agentforce Net Zeroが企業戦略をどう変えるか、デモ動画でご確認ください。









