Key Takeaways
中国の過剰生産、国内の人口減少による内需縮小。日本の化学業界は、いま構造的な変革を迫られています。
その中で三井化学は、長期経営計画「VISION 2030」にパーパス「グローバル・スペシャリティ・カンパニー」への変革を掲げ、この変革の基礎・基盤がDXであると位置づけ、素材提供型からソリューション・ビジネスへと、ビジネスモデルそのものの転換を進めています。
旗を振るのは、常務執行役員 CDO デジタルトランスフォーメーション推進本部長の三瓶雅夫氏。全社データ活用基盤に「Tableau(タブロー)」を据え、「数字を共通語にする」企業変革に挑んでいます。
データを一部の専門家の道具で終わらせず、現場の一人ひとりが数字で語り、動く組織──。その企業変革の設計図を聞きました。
なぜ気づけないのか?ビジュアル分析の効用
膨大なデータに埋もれ、日々の気づきを得られていませんか。データを可視化して理解する「ビジュアル分析」の考え方を、Tableauの視点から解説するガイドです。
目次

「素材提供型」から「ソリューション」へ。化学業界の変革と「VISION 2030」
──三井化学は長期経営計画「VISION 2030」で「経営基盤・事業基盤の変革加速」を掲げています。この方針を策定された背景を教えてください。
三瓶:中国の過剰生産や、日本の人口減少による内需縮小によって、日本の化学業界はいま変革を余儀なくされています。当社も「VISION 2030」で、素材提供型からソリューション・ビジネスへと、ビジネスモデルそのものを変革すると掲げています。
当社パーパスである「グローバル・スペシャリティ・カンパニー」を実現するためには、従来のリアクティブな仕事の進め方から、プロアクティブな進め方へと変えていく必要があります。そして、新市場を開拓するうえで、データ活用は必須の命題になってきました。
単なる財務指標としてのROIC(Return On Invested Capital)にとどまらず、現場の一人ひとりが、自分の仕事がどうROICにつながっているのかを理解し、”自分ごと”として捉え、プロアクティブにアクションを起こす。つまり「数字を共通語にする」企業を目指していきたいと考えています。

三井化学株式会社 常務執行役員 CDO デジタルトランスフォーメーション推進本部長
物流で3年10億円。100個のダッシュボードが動き出した
──これまでのDX施策の進捗と成果、そして飛躍に向けた課題をお聞かせください。
最も象徴的な成果は、物流領域です。分散していた在庫・輸送のデータを統合し、3年間で10億円のコスト削減を実現しました。これは、現場が自らデータを見て、改善策を立案した結果です。
現在は、ROICやGHG(温室効果ガス)排出量など、経営層から現場まで活用するダッシュボードが100個ほど稼働しています。役員自身がダッシュボードを見ながら議論する文化も定着しつつあります。
一方で、今はまだ「過去に何が起きたか」の可視化が中心です。今後はTableauのAIなどを駆使して、「なぜそれが起きたのか」「次に何が起きるのか」を分析・予測し、シミュレーションに基づく高度な意思決定を目指していきます。
【ガイド】データを”共通語”にする最初の一歩、Tableauで体験
三井化学が目指す「数字を共通語にする」企業変革。その第一歩となるのが、データを意思決定に変える可視化の考え方です。Tableauを使った実践形式で、データ活用の入り口を体験できます。
なぜ「Tableau」だったのか。基幹システムとデータ活用基盤の連動が生む4つの価値
──数あるBIツールの中で、Tableauを全社基盤に選定された決め手は何だったのでしょうか。
「現場の誰もが使いこなせる」という一点に尽きます。分析ツールはほかにもありますが、専門部署だけが使うものにしてしまうと、結局データは限られた一部の人間の道具で終わってしまいます。
Tableauは直感的な操作性があり、非エンジニアの現場社員でも、自分で自由に分析を実行できます。つまり、「セルフBI」が可能になるのです。このTableauの民主化の考え方が、当社が目指す「数字を共通語にする」という思想と合致しました。

──2026年4月にSAP(S/4HANA)を刷新しました。その周辺システムを含めた「全社基盤」として、Tableauの役割をどう位置づけていますか。
今回の基幹システム刷新と、全社データ活用基盤「見える化基盤」の整備は、単なるシステム更改ではなく、「VISION 2030」のパーパス実現に向けた変革です。
プロジェクトにあたっては、「余計なアドオンを加えない、Clean Coreの徹底によるFit to Standard」を全社で掲げました。社長自らの継続的な発信、全部長によるコミットメント・レターへの署名、そして現場主導の業務標準化により、アドオンを2000本から7本まで削減することに成功しています。
この標準化によって構築された新しいデータ基盤と、全社の「見える化基盤」であるTableauが連動することで、本質的な価値が生まれます。具体的には、次の4つです。
1つ目は「効率化」です。全社共通の100個のテンプレート標準を使い、「新しいものは作らない」「事業間で違うものは作らない」という生産性の向上を図ります。2つ目は「データ品質」。データの3要素である粒度・鮮度・量を向上させる基盤を構築しました。
3つ目は「インサイト」です。これまでの“K・K・D“、すなわち「経験・勘・度胸」というやり方から、データに基づく判断へと転換し、新市場・新規顧客の開拓に貢献します。4つ目は「意思決定」。会社の意思決定におけるアルゴリズムを可視化します。
そして私たちが目指すべきは、この4つの価値が実現する「数字を共通語にする」企業文化をつくっていくことです。
いい分析には、いい仮説がいる。現場の経験という視点
──データドリブン経営を進める中で、最も重視している「視点」を教えてください。
「いい分析には、いい仮説が必要であり、いい仮説には、現場の経験が大切である」という視点が重要だと考えています。つまり、アンバサダーを中心とする、現場の業務に精通した社員が、自らTableauのスキルを習得し、業務と意思決定を高度化していくことが肝要です。
また、私たちが目指すのは、自らの主張を正当化するためにデータを利用することではありません。客観的なデータに基づいて事実を正しくとらえ、より高度な意思決定を行う「データドリブン経営」への転換を実現することです。

DX教育は”会社のOS”を書き換える
──「VISION 2030」ではDX教育も重要な柱です。Tableauを通じた人材育成は、変革の中でどのような立ち位置にありますか。
「VISION 2030」のDX教育は、単なるスキル習得ではなく、”会社のOS”を書き換える変革プログラムだと位置づけています。Tableauを通じて、社員が問いを立てる力を養うことが、変革の推進力になります。
そのために、Tableauアンバサダープログラムのスキル教育を構築し、「自分ごと」化することを重視しています。知識を学ぶだけの座学ではなく、実際に手を動かすハンズオンを中心にDX教育を設計しています。
習得したスキルを自分の業務に適用し、業務プロセスをどう変えるか、というところまで研修の中で行うのです。また、Tableauで構築した100個のダッシュボードを実際に使いながら、データドリブンとは何かを体感してもらっています。
ここで目指しているのは、自分の主張を正当化するためにデータを使うのではなく、「客観的なデータをもとに、より精度の高い意思決定を迅速に行う」というプロセスの改革です。
──「Tableauアンバサダー」を育成し、物流領域では3年で約10億円規模のコスト削減を見込むなど、成果が出ています。「現場が自ら課題を解決する文化」を育てるために、どのようなリーダーシップを発揮されたのでしょうか。
トップが伴走する姿勢が重要です。
先般開催した「アンバサダー発表会」には、社長や常務といった役付執行役員が参加しました。現場の成果を称賛・表彰し、それをベストプラクティスとして他の部門へ横展開していきます。
──その過程で苦労された点や、想定どおりにいかなかったことがあれば教えてください。
当初は、ツールを入れただけ、つまり座学で終わってしまうという形骸化の懸念もありました。そのため、単なる研修ではなく、現場の実業務における課題解決とセットで進めてきました。

データが人に気づきを与える。AIと、これからのパートナーシップ
──今後は「分析の高度化」や「教育の質」が焦点になります。ここでSalesforceが提供できる価値や支援、期待を教えてください。
必要なのは、現場が自ら仮説を立て、検証できる分析力を高めることです。
Salesforceには、ツールの提供にとどまらず、アンバサダーからさらにレベルの高い人材を育てるための、実践的な教育コンテンツや他社事例の提供を期待しています。
──AIとデータ活用における戦略と具体的な取り組み、そしてTableau、Salesforceへの期待をお願いします。
今後は生成AIを活用して、異常値の自動検知や、自然言語での対応による分析の自動化を試行していきます。人がデータを探しに行くのではなく、データが人に気づきを与えてくれる環境をつくるということです。
全世界で11万社のTableauユーザー基盤を持つSalesforceには、これからも継続してTableauのベストプラクティスを提供してほしい。加えて、Data Saber(データセイバー)コミュニティへのサポート、そして「数字を共通語にする」グローバル・スペシャリティ・カンパニーへの三井化学の企業変革を実現する戦略的パートナーとして、伴走を期待しています。

Voice of Tableau Team
福島隆文
株式会社セールスフォース・ジャパン Tableau事業統括本部長常務執行役員

三井化学が推進する「数字を共通語にする」企業変革は、データカルチャー醸成の具体例として大変素晴らしいです。
特に、一部の専門家だけでなく現場の誰もがデータを扱える「セルフサービスBI(ビジネス・インテリジェンス)」環境の実現を通じて、実際に物流領域にて3年間で10億円のコスト削減という大きな成果。
単なるツールの導入にとどまらず、実践的なDXやData People養成/データリテラシー向上教育を通じて「会社のOS」を書き換え、現場主導のデータドリブンな意思決定の定着につながっている証左だと思います。
テクノロジーが進化を遂げていく昨今、AIの優先的利用によりあたかもデータカルチャー醸成の「省略」とでも受け取れるような取り組みが散見される中、三井化学の取り組みは、 BIの着実な企業内浸透を優先させることで、今後の時代を確実に乗り越えていくための体幹を鍛えているフェーズのように拝察しました。
引き続き、「会社のOS 」アップデートを全社へ展開できるよう、「AIxBI」テクノロジーとデータカルチャー醸成に向けたあらゆるノウハウ・経験を提供し、三井化学に伴走します(談)。
【ハンズオン】自社データでTableauを体験してみませんか
「現場の誰もが使いこなせる」Tableauの民主化を、まずは自分の手で確かめてみませんか。ハンズオン形式で、データ可視化から意思決定までの流れを体感できます。
文:木村剛士
撮影:大橋友樹










