Key Takeaways
信頼できる生成AIを実現するために準備すべき6つの戦略
信頼は生成AIによるビジネス変革のための要です。信頼を礎にすることで始めて、生成AIの可能性を自由にビジネスに活用できるようになります。
目次

エンタープライズ事業CEOとしてのミッション
──福田さんは富士通のCIO、CDXOを5年間務められ、現在はエンタープライズ事業CEOという立場です。富士通グループ内において、福田さんがどのような事業領域を管轄されているのか、まずは教えていただけますか。
福田: 富士通は、事業構造を大きく変え、「ソリューション・サービス事業」をコア事業と位置づけて、事業構造の転換中です。
そのコア事業を2つの業種別のグループに分けており、1つが金融・公共・社会インフラ業界を担当している「パブリック事業」で、別の専務が担当しています。
もう一方が私の担当する「エンタープライズ事業」で、製造業、流通業、サービス業、つまり民間産業系の業種群、ここが私の担当になります。
今の富士通は、100%B2Bの会社です。いわゆる「インフラ系」、例えば富士通の祖業である通信基地局のビジネスや、最近だとMade in JapanのAIサーバーといったハードウェアのビジネスは私の管轄外で、「ソリューション・サービス」事業の担当です。

富士通株式会社 執行役員専務エンタープライズ事業CEO
早稲田大学卒業後、SAPジャパンに入社。ERP導入による業務改革、経営改革、高度情報化の活動に従事。2014年、同社の代表取締役社長に就任。顧客と協働した新たなイノベーション創出に注力し、日本型のデジタル変革に取り組む。2020年、富士通に入社。執行役員常務 CIO 兼 CDXO補佐として、経営基盤の強化を目的とした経営プロジェクト「OneFujitsu」や、富士通自身を変革する全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」を主導する。2023年にCDXO兼CIO。2025年4月から執行役員専務 エンタープライズ事業CEOに就任。「日本を、世界をもっと元気に」がパーパス。LinkedIn「インフルエンサー・オブ・ザ・イヤー2020」最も発信力のあるリーダー10人に選出。
3か月を4時間にする、マルチエージェントの実装に成功
──昨年12月にはロート製薬とのマルチエージェントの取り組みが発表されていましたが、その後の進展や、具体的にどのようなインパクトが出始めているのか教えてください。
ロート製薬さんのマルチエージェントの件は、物流領域を対象にしているもので、PoCの段階です。実装のケースで言うと、富士通自身が自社内の業務にAIを適用した成果について、2月に記者発表を行っています。
富士通は、病院向けの電子カルテシステムで高いシェアを持っていて、法令の改定に合わせて日々、改修し続けています。
例えば、厚生労働省が出した「令和6年度の診療報酬改定」という資料は全部で769ページもあり、非常に内容も細かくて難解なものです。これを読み解くのは、ベテランの人間でも大変な作業です。
でも、富士通のLLM「Takane」は、日本語の微妙なニュアンスを理解できるので、この難解な法令改正を完全に読み解く「法令理解エージェント」を作り、ソフトウェア改修作業のAIによる自動化への挑戦を始めました。
病院向けパッケージソフトウェアを理解する別のAIエージェントを開発し、この2つのエージェントが対話させるようにしました。「今回の改定で制度がこう変わったから、こっちのパッケージのこのコードを修正しなきゃいけないね」というように。
修正箇所と内容を特定したら、実際に「コーディングエージェント」がプログラムを書き換えます。でも、AIが書いたコードが正しいかはわからない。 そこで、別に「レビューエージェント」を動かして、テストシナリオを作るエージェントに回して、実際にテストを回すエージェントに渡す。
このように複数のエージェントが、あたかも1つのチームのように、自律的に稼働して、人間の手を介さないで業務を遂行していくことに成功しています。

──単一のAIエージェントを、別のエージェントが次々と補完していくことで正確なものにしていく、と。
AIは、時として「曖昧さ」や「抜け漏れ」を許容してしまうことがあります。だから、エージェント同士でお互いに「レビューや牽制」を入れるようにするなど、人間と同様の品質を担保するための「オーケストレーション・レイヤー」に工夫を凝らしました。
その結果、これまで人が3か月かけてやっていた作業が、AIだと4時間ちょっとで終わるようになった。 しかも、人間の作業品質と同等のレベルのものを、です。
重要なのは「仕込み」と「資産理解」
──複数のAIエージェント群をオーケストレーションする環境づくりの部分には、人の能力が必要となりそうです。
そうですね。今後重要になると確信したのが、「AI-Ready Engineering」という考え方です。AIが自律的に働くためには、その対象となるシステムやデータが、AIにとって理解しやすい状態になっていなければなりません。
システムがAIに読み解ける構造になっているか。設計書に書かれていない「業界の慣習」や、マニュアルにはない「例外処理」、あるいは現場の熟練者が頭の中で行っている「運用判断や工夫」。そうした、日頃業務を行っている当事者自身も気づいていないような「暗黙知」を、いかに掘り起こしてAIが扱える「形式知」に変換できるか。
これは料理で言う「仕込み」に似ています。どれだけ最新の調理器具があっても、食材がきちんと下処理されていなければ、美味しいものは作れない。
AIも同様で、「材料を整え、AIが動ける環境を作るエンジニアリング能力」、これが重要になってくることが分かりました。
こうした「仕込み」を、いかに高度化・自動化・汎用化できるかが勝負の分かれ目で、従来のコンサルティングとも単純なソフトウェア開発やプログラミングとも違う、新しい時代の付加価値になる。私たちはこれを「AI-Ready Engineering」と名付けました。
──そうした富士通の新たなケイパビリティを、今後どのように広げていくのでしょうか。
こちらのスライドは、Ridgelinez(富士通グループのDXコンサルティング会社)が定義している「AIの成熟度モデル」です。

AI成熟度モデルには、レベル1からレベル5までの段階があると考えています。
まず、レベル1と2は、今多くの企業がやっている「個人的なAIの利用」。議事録の要約や翻訳、検索や資料作成補助といったあくまで個人の生産性向上です。
レベル3から、AIがコア業務に入ります。そしてレベル4が先ほど申し上げたような、複数のAIエージェントたちが横でつながり始める「マルチエージェント」の段階。最後のレベル5になると、人が不要な「自律」という世界です。
今、富士通全体としてはレベル3とレベル4を進めている最中です。現在、社内では150以上のテーマでAI化に挑戦していますが、その中でも「人的機能の消滅(レベル5)」まで踏み込めた最初の事例が、先ほどの病院向け電子カルテパッケージソフト改修の自動化でした。
富士通のAI-Ready Engineeringの出発点となるのは、まず「資産の理解」です。

例えば、何十年も前に誰かが書いた、今はもう誰も全貌を把握していないレガシーなプログラムが、一体何を要件として何の目的で動いているのか。これを読み解く必要があります。
AIが内容を理解し、改修できるように可視化・構造化する。この「AI-Ready化」を完了させてから、お客様の業務へのフィッティングへと移行していく。
暗黙知を形式知化するスキル、それを業種や業務の理解をもとにビジネスの現場へと落とし込んでいくスキル、それらをコンサルティングのみではなく、AI-Readyエンジニアリングを通じて実装するソリューションやサービスをこれから富士通は提供していきます。
──そうした高度なソリューションは、どんな人材を集めると、実現できるのでしょうか。
今どきの言葉で言うと、FDE(Forward Deployed Engineer)」でしょうね。FDEがお客様のところに行って、IT部門に加えて、顧客の経営層やビジネス部門と直接議論しながら、週次のスピード感で作り上げていくアプローチです。
──現場に入り込んで、事業の解像度を上げながらAIを実装していく、と。
そうです。この前、買収して富士通グループに加わってもらったブレインパッドは、データの領域でまさにFDEの集団です。単に「仕様書通りに作ります」ではなく、お客様の現場に深くデプロイされて、現場の「暗黙知」をテクノロジーに変換していける能力が、今は求められています。

富士通はコンサルティング企業からテクノロジーカンパニーへ
──FDEも含め、AI-Ready Engineeringに対応できる高度なエンジニアリング人材について、外部からの採用も積極的に進めているのでしょうか。社内異動で対応するケースもあると思いますが。
積極的に採用していますし、内部での育成にも取り組んでいます。それに加えて、研究所では、AIの博士号を持っているインド工科大学の学生や、イスラエルなど先端技術に精通したエンジニアなど、突出した才能を持つ人材に積極的に加わってもらっています。
日本でも、最近、コンサルティング部門(Fujitsu Wayfinders)に日本を代表するホワイトハッカー集団に加わってもらい、ハッカー同様に外部から攻撃する視点で、顧客のセキュリティ環境の耐性テストや対策をする専門サービスが急成長しています。
──そうした採用方針は、いつ頃から始まったのですか。
近年、富士通は「テクノロジーカンパニー」への転換へと考え方を変えてきました。富士通は、あくまでもテクノロジーで勝負していく会社であり、そのための必要要素として、コンサルティングやFDE、グローバルなデリバリ/開発/運用能力を高めるのだと。
近い将来、テクノロジーでビジネスや社会を一変させる可能性を持つ量子コンピュータへの取り組みや、Made in JapanのソブリンAI開発やプラットフォーム、次世代CPU 「Monaka」の開発もその延長線上にあります。
──変革の初期と現在では、アプローチがどう変わったのでしょうか。
時田(隆仁・代表取締役社長CEO)が社長に就任し、私が入社した2020年から数年は、さまざまな先進グローバル企業からの学びや変革手法を富士通に積極的に取り入れていく進め方でした。
ある程度キャッチアップした最近は、「模倣では彼らを超えることはできない」という考え方へと変化をしてきています。
富士通独自のテクノロジー、経営のあり方、オペレーション、会社と社員との関係性などを、自分たち自身で考え抜いたうえで、独自の価値観と判断で世界で戦える会社を作ろう。それが今のモードです。
関連記事:SalesforceのForward Deployed Engineerが語る「このキャリアを選ぶ5つの理由」
──まさに前例のない道ですね。SAPジャパンの代表を長年務められた経験と比べて、いかがですか。
最初の頃は、SAPというグローバル経営の現場で得た経験がリファレンスになりました。Salesforceの導入なども含めて、参照できるモデルがあった。
しかし、海外勢へのキャッチアップがある程度進み、「ここから先は自分たちでゼロからイチを生み出そう」というフェーズに入ってからは、仕事の性質がまったく変わっています。
誰かが正解を持っているわけでもなく、他社事例を学んでやるわけでもない。自分の目で見て、耳で聞いて、頭で考えて、決めて、やってみて、そこからまた学ぶ。考えてみれば当たり前のことですが、ここ2年ほどはそういうモードで走っている感覚です。

富士通改革の軌跡、パーパスドリブンとデータドリブン
──福田さんはSAPの日本法人社長から富士通に移られて、時田社長の改革をITの側面から支えてきました。入社当時から現在まで、どのような変化があったと実感していますか。
時田社長の経営方針は明確で、「パーパスドリブン」「データドリブン」です。富士通は何のために存在するのかというパーパスを北極星にし、あとは、誰が言ったかなどではなく、データに基づいて会社の舵取りをしていく。
時田社長は頻繁に『曖昧な経営はやめよう』と言います。なぜその判断をしたのか、データはあるのか。結果が出ていなければ、たとえ役員であっても責任を問う。変革についてこれない、あるいは変革を邪魔するような人は、役員でも容赦なく辞めてもらう。そういう厳しい姿勢をトップ自らが見せ続けたのです。
──社内の反発はなかったのでしょうか。
もちろん、最初は戸惑いもあったでしょう。でも、時田社長の強いリーダーシップで一変しました。今、富士通の役員会に「変革反対派」は1人もいません。もしいたら、もうこの会社の椅子に座っていないからです(笑)。
──時田社長は、新卒の一括採用も廃止しました。
最初は私自身も、企業市民としてのイメージ的にも廃止に反対していました。でも、さまざまな視点で議論と検討を重ね、富士通は、新卒一括採用という概念を実質的にやめました。これも変革のステージが進んでいる一つの現れかもしれませんね。

未来への展望: ITとAI業界の今後
──福田さんは、プライムベンダーであり、AI-Ready Engeneeringなど先進的なAIソリューションを今後提供していく富士通や、そしてそれを取り巻くITやAIの業界はどのように変化していくとお考えか、教えてください。
正直に言えば、わかりません。ただ、ひとつ確かなことがあります。
今日も予定通り飛行機が飛び、コンビニに商品が並び、定時運行の電車に乗って家に帰れる。それは、世の中のありとあらゆる巨大なシステム群が、きちんと動いているからなんです。
それらは長年に渡って「暗黙知の塊」として稼働していて、現場では人間たちが暗黙知を必死に維持・運用している。それらが形式知化され、徐々に自動化され、最適化が進む不可逆的な進化は間違いなく進むのではないでしょうか。
その形式知化には100年くらいかかるかもしれないし、10年で終わるかもしれない。これから先の技術進化のシナリオは、それほど幅が広いように思います。
Anthropicのダリオ・アモデイCEOも言っていますが、「2年前のAIと今日のAIでは進化の速度が10倍違う」と。それは環境が整い、経験値が蓄積され、テクノロジーの進化が加速し続けているからです。人間の進化、技術の進化、社会実装 ……。
さまざまなファクターが絡み合ったとき、どれほどの速さで、あるいはどんな経済合理性のもとで変化が起きるのか。バラ色のシナリオもあれば、思い通りには社会実装が進まないシナリオもあり得るのではないでしょうか。
富士通は、これらにテクノロジーでポジティブなインパクトを与え得る数少ない日本企業の1社ではないかと思います。

企画・インタビュー・執筆:池上 雄太
撮影:遥南 碧
編集:木村剛士
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