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「空間のプラットフォーマー」を目指すTKPのDX、その最初の一歩となった大胆な取り組み

「空間のプラットフォーマー」を目指すTKPのDX、その最初の一歩となった大胆な取り組み

国内の貸会議室事業を牽引する株式会社ティーケーピーは貸会議室を中心に事業の多角化を進め、デジタルを活用した新たな取り組みに乗り出しています。Salesforceを中心に加速する同社のDXについて、業務統括部 山根 賢一氏にお話を伺いました。

3フェーズで構成されたDXロードマップの「フェーズ0」としてSalesforceを導入、『Talk to SFA』と銘打った社内活用の徹底で、全社レベルの情報共有を実現、データドリブン経営の基礎を築く

株式会社ティーケーピー

企業向けの空間シェアリングビジネスの先駆けとして、貸会議室市場を牽引し続けている株式会社ティーケーピー。しかしコロナ禍に突入したことで急成長にブレーキがかかり、2年連続の赤字決算に追い込まれます。このピンチをチャンスに変えるため、現在急ピッチで進められているのが「TKPイノベーションロードマップ」と呼ばれるDXへの取り組みです。

その基盤として採用されているのがSalesforceです。高い柔軟性とSalesforce AppExchangeで提供される各種アプリとのシームレスな連携を最大限に活かし、全社レベルでの情報共有を実現することで、最終的に目指すデータドリブン経営の基盤が築かれつつあります。導入からわずか3か月で商談登録数は23,000件を突破。短期間での定着が実現されています。これと並行して、業務プロセスのゼロベースでの再構築も推進。それらのSalesforceへの実装も、アジャイル型で効率的に進められています。

1.「空間のプラットフォーマー」を目指しDXへの取り組みを本格化

株式会社ティーケーピー(以下、TKP)は、企業向けの空間シェアリングビジネスの先駆けとして、2005年に創業した企業です。それ以来、貸会議室市場のトップランナーとして市場を牽引し、新たな空間活用ビジネスニーズを創出し続けてきました。会議室・レンタルオフィスを利用する上で必要な備品やケータリング・ホテル運営や宿泊手配等、様々な周辺ニーズを取り込み、事業の多角化も進めています。

「これまでは積極出店を繰り返すことで事業成長を続けてきましたが、コロナ禍に突入したことで多くの予約がキャンセルとなり、かなりの売上を失うことになりました」と語るのは、TKP 事業統括部で課長を務める山根 賢一氏。決算も創業初の赤字となり、それが2年続くことになったと振り返ります。「5,000円以上あった株価も、一時は900円台にまで落ち込みました」。

山根 賢一氏 株式会社ティーケーピー 事業統括部 課長

この苦境を乗り越えるために取り組んだのが、コロナ禍で浸透し始めていたウェビナーのサポートなど、オンライン関連のビジネスです。これまで提供してきた会議室を配信スタジオとして利用し、企画・制作・運営までワンストップで行う体制で、新たなウェビナー需要に応え始めたのです。また医療機関とタッグを組んだ「TKP職域ワクチンセンター」の事業も立ち上げており、ここでも「空間ビジネス」のリソースを積極的に活用しています。

「このように全社員が一丸となって新たな挑戦を行うことで、2022年にはようやく売上も向上し、黒字転換を果たすことができました。これを機に、昔のように会議室のハードを貸し出すだけではなく、お客様のイベント成功のため、ソフトを含めてあらゆるニーズに応えることが新たな経営方針となりました。リアルな空間だけではなく、リアルとオンラインの両方の空間で、人と人をつなぐプラットフォーマーになろうとしているのです」。

その一方で、このような事業拡大による成長を支えるために、DXへの取り組みも本格化しています。2021年10月には「TKP IT推進プロジェクト」を発足。ここで「TKPイノベーションロードマップ」を策定し、その内容を2022年7月にプレスリリースしています。このプロジェクトの推進役となっているのが山根氏なのです。

2. 3つのデジタル化フェーズを着実に進めるため、Salesforceを情報基盤として採用

DXへの取り組みを本格化した背景について、山根氏は次のように説明します。

「これまでTKPではBtoBビジネスだったこともあり、貸会議室の空室状況を公表しておらず、ほぼ全ての予約受付をスタッフが手作業で行っていました。つまり人海戦術でビジネスを拡大し続けてきたのです。しかし2017年に東証マザーズに上場したことで、このまま成長を続けると高コスト体質になるという課題も認識されるようになり、IT活用による業務効率化が求められるようになりました。それが喫緊の課題となったのは、コロナ禍で赤字決算になったためです。そのため2020年には、社内の基幹システムともいえる案件管理システムと、会議室予約システムのリニューアルに向けた検討を開始。これを含めたシステム投資計画を、TKPイノベーションロードマップとしてまとめ上げたのです」。

このロードマップは大きく3つのフェーズで構成されています。第1フェーズは営業支援システムと会議室予約システムの刷新。これは2022年にスタートし、2023年に完了する予定です。第2フェーズはセルフサービス型の顧客ポータルの開発。これは顧客がオンデマンドで会議室予約やイベント情報管理を行えるサイトであり、人海戦術からの脱却と、顧客の利便性を高めるための取り組みです。そして第3フェーズが経営分析の高度化。不動産市況データと販売データを融合させることで、「空間の仕入戦略」をより高度化すると共に、データドリブンな事業運営を加速させることを目指しています。

「このようなDXを着実に進めていくには、会議室などのリソースの予約状況やお客様に関する各種情報を、全社レベルで共有しなければなりません。その実現のために核となるシステムを構築することにしました。」。

そのシステムとして採用されたのが、Salesforce Service Cloudです。その理由については次のように語ります。

「会議室には様々なタイプがあり、それらに付随する机や椅子などの備品も多様なため、予約台帳は複雑になりがちです。実はこれ以前にも別のSFAを導入したことがあるのですが、複雑な予約台帳に対応できず、あまり活用されないという残念な経験をしています。今回改めて営業支援システムを導入するにあたり、複数のベンダーと話をした結果、Service Cloudをベースに必要な機能を追加するのが最も現実的だという結論に達しました。Salesforceの製品は柔軟性が極めて高く、複雑な業務プロセスも実装しやすいからです。これならスピード感を持ってBPRを推進できると判断しました」。

これに加えて、セールスフォース・ジャパンから、ある提案を受けたことも採用を後押ししたと言います。それは「Salesforceの拡張性を活かし、計画されているセルフサービス型の顧客ポータルを共に実現しましょう」というもの。「これでフェーズ2の実現も目処が立ちました」と山根氏は振り返ります。

この苦境を乗り越えるために取り組んだのが、コロナ禍で浸透し始めていたウェビナーのサポートなど、オンライン関連のビジネスです。これまで提供してきた会議室を配信スタジオとして利用し、企画・制作・運営までワンストップで行う体制で、新たなウェビナー需要に応え始めたのです。また医療機関とタッグを組んだ「TKP職域ワクチンセンター」の事業も立ち上げており、ここでも「空間ビジネス」のリソースを積極的に活用しています。

「このように全社員が一丸となって新たな挑戦を行うことで、2022年にはようやく売上も向上し、黒字転換を果たすことができました。これを機に、昔のように会議室のハードを貸し出すだけではなく、お客様のイベント成功のため、ソフトを含めてあらゆるニーズに応えることが新たな経営方針となりました。リアルな空間だけではなく、リアルとオンラインの両方の空間で、人と人をつなぐプラットフォーマーになろうとしているのです」。

その一方で、このような事業拡大による成長を支えるために、DXへの取り組みも本格化しています。2021年10月には「TKP IT推進プロジェクト」を発足。ここで「TKPイノベーションロードマップ」を策定し、その内容を2022年7月にプレスリリースしています。このプロジェクトの推進役となっているのが山根氏なのです。

図1:TKPのDX戦略「TKPイノベーションロードマップ」

複数のベンダーと話をした結果、Service Cloudをベースに必要な機能を追加するのが最も現実的だという結論に達しました。Salesforceの製品は柔軟性が極めて高く、複雑な業務プロセスも実装しやすいからです。

山根 賢一氏
株式会社ティーケーピー 事業統括部 課長

3.SalesforceとAppExchangeアプリの活用で得られた3つの効果

Salesforceの採用を決めたTKPは、先行して営業支援領域でService Cloudの一部機能のリリースに着手します。これはフェーズ1に先立つ「フェーズ0」と位置づけられており、まずは社員が”Salesforceに慣れる”ことを目的とし、2022年2月に実施されています。そしてこれがフェーズ1となる会議室予約システムへの刷新へと繋がっていきます。

「これは、あまり活用されていなかった既存SFAからの移行という形で実施されましたが、その前から『Talk to SFA』というコンセプトを掲げ、まずは既存のSFAを使い倒していこうという、助走ともいうべき取り組みを行っています。この段階で営業会議のミーティング資料をSFAのレポートや帳票に切り替え、SFAを活用しないと業務が回らない状態を半強制的に作り上げたのです。その上でSalesforceをリリースすると共に、営業ステージそのものも再定義しました。既存SFAでは難しかった『自社の実態に合わせた営業ステージ』を明確化し、それらをアジャイル型でSalesforceに実装していったのです」。

図2:Talk to SFAで具体的に実施した施策の例

その一方で、Salesforceのビジネスアプリのマーケットプレイスである「AppExchange」経由で業務効率化に必要な様々なアプリを入手でき、それらとシームレスに連携できることも、『Talk to SFA』を加速する上で重要な役割を果たしています。TKPではすでに以下 6つのアプリをService Cloudと連携させ、機能の拡張を実現しています。

  • RaySheet Excelライクにレコードを作成・編集でき、複数レコードの一括更新も可能なアプリ。1人あたり月間30~40件ある案件の入力・メンテナンスを、効率的に行う上で必須ツールとなっています。
  • uSonar for Salesforce/名刺Sonar/sideSonar 顧客データを整備し、ターゲティング精度を向上させるアプリ。重複がないクリーンな顧客DBの維持を可能にしています。
  • AUTORO for Salesforce 格付けと与信限度額の判定を自動化するRPA。判定までのタイムラグを最小化や、判定基準の平準化に役立っています。
  • oproarts クラウド帳票サービス。これまでアナログ対応せざるを得なかったため人海戦術に頼っていた、見積請求書の発行を自動化しています。
  • ソアスク インボイス制度と電子帳票保存法に対応したBtoBサブスクリプション管理システム。Salesforce/oproartsと連携させることで、インボイス制度に対応した見積請求書の発行も自動化しています。
  • Teachme Biz for Salesforce 操作中の画面に合わせたヘルプをすぐに表示でき、ユーザーの自己解決を促進。複雑な予約管理システムをスムーズに活用するためのマニュアルをSalesforce上に掲載しています。
図3:SalesforceとAppExchangeの活用を表したシステム鳥瞰図

このように、『Talk to SFA』といった取り組みと、SalesforceとAppExchangeアプリの積極的な活用が功を奏し、リリースの3か月後には商談登録数は23,000件を突破。短期間での立ち上げ・定着を実現しています。これによって大きく3つの効果がもたらされていると山根氏は語ります。

第1は、社員が使う言葉が変化したこと。以前は売上至上主義であり、ビジネスのKPI管理ができていませんでしたが、最近では各営業ステージのKPIで語り合う文化ができつつあると言います。

第2は会議資料が不要になったこと。Service Cloudの画面を見れば現在の状況が即座に分かるようになったため、資料作成の工数が不要になったのです。

そして第3の効果は、レポート、ダッシュボードの活用によって営業データが可視化され、いつでも最新情報が目に触れられるようになりデータを営業活動に活かせるようになったことです。貸会議室などの経営リソースを、より効果的に活かせるようになったことです。

「お客様から予約をいただいて会議室を提供するというのは、いわば未来の機会を販売していることなので、期日管理が非常に重要になります。例えば仮予約が入った後に長期的に放置し、最終的に予約が取り消されるということが頻発すれば、大きな機会損失につながるのです。しかしSalesforceで仮予約と受注の状況が可視化されれば、放置されている案件も明確になり、受注になかなか結びつかない案件をどうすべきか、という議論も行いやすくなります。一方、エラーを発見するだけでなくポジティブな情報も共有できるように、Salesforceの大規模商談の成約アラートも使い始めています」。

このようなDXと並行して、予約管理システムの搭載というフェーズ1の完成を見据えてビジネスプロセスの見直しも進められています。貸会議室の利用規約をはじめ、あらゆる業務がゼロベースで再構築されつつあるのです。これに伴い、The Modelの考え方に基づいた営業やマーケティングも取り入れられ、商流も大きく変わりつつあります。このような変化に対応するため、デジタルマーケティングを加速するためのマーケティングオートメーションツールの活用や、顧客ポータル構築のためにSalesforceのさらなる活用を検討しています。

貸会議室・宿泊事業の需要回復もあり、2022年度第2四半期(6月-8月)の売上高は、前年同期比116%を達成。TKP貸会議室・宿泊事業の営業利益も10倍以上と大幅な回復を見せています。しかしTKPが目指すのは、外部要因に依存することなく、事業DXを通じてさらに二次曲線、三次曲線の成長を続けることだといいます。

「次のマイルストンはフェーズ1の仕上げとも言える、会議室予約システムのリニューアルです」と山根氏。これをしっかり作り上げることが、フェーズ2以降の重要な基盤になると語ります。「当社はコロナ禍で大きなピンチを迎えましたが、それによってDXが加速され、新たなチャンスに転じています。今後3年で当社のビジネスは大きく変貌することになります。企業イメージも、これまでのような貸会議室の会社から、多様なソリューションを提供する企業へと変化していくでしょう。Salesforceにはこれを支え得る、大きなポテンシャルがあると感じています」。

今後3年で当社のビジネスは大きく変貌することになるでしょう。Salesforceにはこれを支え得る、大きなポテンシャルがあると感じています。

山根 賢一氏
株式会社ティーケーピー 事業統括部 課長

AppExchangeの活用でSalesforceをもっと便利に。

より詳しいTKPのアプリ活用方法は「 TKPの”攻めの経営”を支えるデジタル基盤 -AppExchangeによりワンプラットフォームの業務システム構築が可能に-」の記事をご覧ください。

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