デジタルリテラシーとは、デジタル技術を正しく理解し、活用するための知識やスキルのことです。
業務のデジタル化や働き方の変化により、「ITツールを導入したのに、活用しきれていない」「社内のIT対応力を底上げしたい」と感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、デジタルリテラシーの定義から必要とされる背景、企業への影響や具体的な向上方法までをわかりやすく解説します。社員のITスキルを強化したい方や、DXを推進したい方はぜひ参考にしてみてください。
デジタルトランスフォーメーション(DX)のはじめかた
DX(デジタル トランスフォーメーション)とは、デジタルテクノロジーによってビジネスを変革することです。DXの実現に向けての各企業が直面する課題と解決策について説明します。

目次
デジタルリテラシーとは

デジタルリテラシーとは、簡単に言うとデジタル技術を正しく理解し、活用するための知識やスキルのことです。
デジタルリテラシーについて、厚生労働省では以下のように定義されています。
・デジタルリテラシーとは、活用されているデジタル技術に関する知識があること、デジタル技術を活用する方法を知っていることであり、“デジタルを作る人” のみならず “デジタルを使う人” にも知っておいていただきたいものになります。
・どんな職業でもデジタル技術なしで仕事をすることが考えられなくなってきている中、デジタルリテラシーは、特に働く方の全てに必要なものです。
・一般的にデジタル人材としてイメージする新たなデジタルツールの開発に必要な高度なプログラミングスキルなどを対象とするようなものではありません。
つまり、デジタルリテラシーはIT専門職だけでなく、すべての働く人に求められる基本的な能力といえます。
デジタルリテラシーの具体例
ビジネスにおいて、デジタルリテラシーは以下のような実践スキルを指します。
- 基礎的なデジタルリテラシー
業務で使用するクラウドツールの基本操作
情報を正しく検索・評価し、業務に活用する力
フェイクニュースや詐欺メールの見分け方
サイバーセキュリティや情報管理の知識 - 応用的なデジタルリテラシー
CRMツールを活用して顧客データを抽出・セグメントし、営業施策に反映するスキル
売上やアクセスデータをBIツールで可視化し、週次レポートの作成や施策立案に活かす力
デジタルリテラシーとは、単なるIT操作スキルにとどまりません。CRMツールなどを活用して顧客データを読み解き、より精度の高い営業戦略を立てる能力も、現代ビジネスに求められる重要なリテラシーのひとつです。
ITリテラシーとの違い
ITリテラシーは、パソコンやネットワークなどの情報技術を正しく扱う基礎的な知識や操作スキルを指します。一方、デジタルリテラシーはそれに加えて、情報の真偽を見極める判断力や、デジタル環境で適切に行動するための倫理観・セキュリティ意識も含まれます。
つまり、ITリテラシーは「機器や技術の操作」に焦点を当てるものです。対して、デジタルリテラシーは「情報の見極めや活用・安全な発信と行動」などといった、社会的な適応力を含む、より広範な概念を指します。
デジタルリテラシーが必要とされる3つの背景

ビジネスの現場でデジタル技術の浸透が進むなか、デジタルリテラシーの重要性がますます高まっています。ここでは、デジタルリテラシーがなぜ必要とされるのかについて詳しく解説します。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展
- 少子高齢化の加速
- 情報セキュリティリスクの増加
それぞれの背景について詳しく見ていきましょう。
1.DX(デジタルトランスフォーメーション)の急速な進展
DXとは、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを根本的に変革し、企業の競争力を高める取り組みのことです。近年、クラウドやIoT、AIといった先端技術の発展により多くの企業がデジタルツールを導入する一方で、従業員のデジタルリテラシー不足がDX推進の大きな障壁となっています。
総務省の『国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究』においても、DXが進まない大きな要因として「人材不足」に加え、「デジタル技術の知識・リテラシーが不足している」と示唆されています。
デジタル技術を正しく理解し使いこなす能力がなければ、新システムの導入効果を十分に発揮できず、DXの目的を達成できません。
デジタルリテラシーはDX推進の土台として重要なスキルであり、組織全体でのリテラシー向上が求められています。
DXについては以下の記事で解説しているので、詳しく知りたい方はこちらもあわせて確認しておきましょう。
関連コンテンツ:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?意味と進め方を解説
2.少子高齢化の加速
少子高齢化の進行により、労働力人口が減少し、多くの企業が人手不足に直面しています。こうした社会的背景から、限られた人材で効率よく働くための「業務効率化」と「生産性向上」が急務となりました。
デジタルリテラシーを活かしてITツールや自動化システムを導入することで、効率的な業務運営が可能となり、限られた人材で生産性を最大化できます。また、オンライン会議やリモートワーク環境の整備により、場所に縛られない柔軟な働き方も実現可能です。
このように、少子高齢化がもたらす労働力不足をデジタル技術で補うことが期待されているのです。
3.情報セキュリティリスクの増加
近年、インターネットやクラウドサービスの普及に伴い、サイバー攻撃や情報漏洩・偽情報の拡散などのセキュリティリスクが増加しています。とくに、ディープフェイク技術を使ったなりすまし詐欺や偽情報操作は、企業や個人の信用を著しく損なう深刻な問題です。
こうしたリスクに対応するには、従業員一人ひとりが基本的なセキュリティ知識をもち、リスクの兆候を認識して適切に対応できるデジタルリテラシーが不可欠です。
セキュリティ対策は単なるIT部門の問題ではなく、すべての社員が共有すべき重要課題となっています。
デジタルリテラシーが低いことによる企業への影響

近年、企業の成長や競争力維持において「デジタルリテラシー」の重要性がますます高まっています。裏を返せば、このリテラシーが欠如している企業は、次のような経営リスクを抱える可能性があります。
- DX推進の遅延
- 生産性の低下
- 競争力の低下
- セキュリティインシデントの発生
それぞれのリスクについて詳しく見ていきましょう。
1.DX推進の遅延
デジタルリテラシーの低さは、DXを推進するうえで大きな障壁となります。
従業員がデジタル技術に不慣れな場合、新しいツールの導入や業務改革に対して理解が得られず、変化に対して消極的、あるいは抵抗感を示すことが少なくありません。結果として、経営陣と現場の間にギャップが生まれ、DXプロジェクトが停滞してしまいます。
こうした状況では、イノベーション創出の機会を逃すことになりかねないため、組織全体のデジタルリテラシーの底上げが不可欠です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)のはじめかた
DX(デジタル トランスフォーメーション)とは、デジタルテクノロジーによってビジネスを変革することです。DXの実現に向けての各企業が直面する課題と解決策について説明します。

2.生産性の低下
デジタルリテラシーが低く、クラウドサービスや業務自動化ツールを適切に活用できなければ、資料作成や情報共有に多くの時間と労力がかかります。データを手作業で管理する場合は、ミスの発生率が高まり、確認や修正にかかるコストが膨らむでしょう。
また、チャットツールやプロジェクト管理ソフトの活用が不十分だと、社内コミュニケーションの齟齬が生じ、意思決定のスピードも鈍化します。
このように、デジタルリテラシーが低いとツール導入の投資効果を最大化できず、全社的な業務効率に悪影響を及ぼすでしょう。
3.競争力の低下
市場環境が急速に変化するなか、デジタルリテラシーの不足は新技術への適応力を損ない、企業の競争力低下につながります。
たとえば、AIやビッグデータを用いた顧客分析や商品開発を行う企業が増える一方、これらを使いこなせない企業は、顧客ニーズに即したサービス提供が難しくなります。
競合他社がリアルタイムなデータ分析にもとづいて迅速に意思決定を行うなか、デジタル対応が不十分な企業はサービスの質やスピードで後れを取るかもしれません。その結果、ビジネスチャンスを他社に奪われるリスクが高まります。
4.セキュリティインシデントの発生
デジタルリテラシーが低い企業では、サイバーセキュリティに対する意識も希薄である場合が多く、情報漏洩やサイバー攻撃といったセキュリティインシデントが発生しやすくなります。
たとえば、次のような基本的なリスク認識が欠如した行動は、機密情報の外部流出につながります。
- 不審なメールのリンクを無警戒に開く
- 安全性の低い公衆Wi-Fiを業務に使用する
また、SNSでの不適切な発言や情報の取り扱いミスにより、企業の信頼性が損なわれるリスクもあります。
これらの問題は、企業のイメージダウンにつながるだけでなく、取引停止や法的責任を問われる事態にもなりかねません。
具体的なセキュリティ対策について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
関連コンテンツ:個人情報が漏洩する原因とリスクは?具体的なセキュリティ対策を紹介
デジタルリテラシーを高める方法【5ステップ】

ビジネスのデジタル化が急速に進むなか、デジタルリテラシーの向上は企業の成長に欠かせない課題です。ここでは、デジタルリテラシーを高める方法を5つのステップにわけて解説します。
- 目的を明確にする
- 現状のリテラシーレベルを把握する
- 教育・研修を実施する
- 社内制度と組織文化を構築する
- 継続的に評価・改善を行う
各ステップを順番に見ていきましょう。
ステップ1:目的を明確にする
デジタルリテラシー向上の取り組みは、明確な目的設定から始まります。たとえば、「業務のデジタル化促進」「テレワーク対応力の強化」「顧客対応の迅速化」など、組織の方向性や課題解決と直結した目標を設定しましょう。
目的が曖昧なままだと、施策が形骸化し、従業員の意識や行動もブレてしまいます。明確な目標設定は、デジタルリテラシー教育の効果を高め、全社的なDX化の原動力となります。
ステップ2:現状のリテラシーレベルを把握する
効果的な教育を行うためには、社員一人ひとりのデジタルリテラシーレベルを正確に把握することが重要です。
部署や職種によって必要な知識やスキルが異なるため、画一的な教育では十分な成果が得られません。たとえば、マーケティングではSNS運用やデータ分析、経理ではクラウド会計ソフトの操作が求められることもあります。
まずは業務ごとに必要なスキルを洗い出し、社員のレベルに応じた教育計画を立てましょう。リテラシーレベルを客観的に可視化する手段としては、ITパスポート試験や社内アンケートの活用が効果的です。
ステップ3:教育・研修を実施する
現状のリテラシーレベルを把握できたら、定期的に教育・研修を実施し、デジタルリテラシーの底上げを図ります。
ツールの操作方法や情報セキュリティ、最新のITトレンドなどをテーマに、役職やスキルレベルに応じた研修プログラムを設計しましょう。さらに、eラーニングなど柔軟な学習形式を取り入れることで、業務と両立しやすくなります。
研修を一過性のイベントとして終わらせず、継続的かつ体系的に実施することで、学習効果の定着を図りましょう。
ステップ4:社内制度と組織文化を構築する
デジタルリテラシーを組織に定着させるには、社内制度と組織文化の両面からの支援が求められます。
まずは、人事評価に「デジタルリテラシー」「IT活用力」「セキュリティ意識」などの項目を盛り込み、社員の学習意欲を引き出しましょう。社内SNSやグループウェアなどのナレッジ共有ツールを活用し、デジタルリテラシーに関する情報を日常的に共有できる仕組みを構築することも重要です。
また、定期的な勉強会や情報交換会を開催し、互いに学び合う文化を育むことで、組織全体のデジタル対応力を高めることが可能です。
ナレッジ共有の具体的な方法や活用ツールについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
関連コンテンツ:ノウハウ共有の方法とは?メリットや活用できるツールを紹介
ステップ5:継続的に評価・改善を行う
デジタルリテラシーの向上を持続させるには、教育施策をPDCAサイクルで継続的に見直すことが欠かせません。
とくに、実務でのIT活用状況やツール操作の定着度を定期的にチェックし、現場からのフィードバックを取り入れて研修内容をアップデートしましょう。改善点が明確になれば、次回以降の教育設計にも活用できます。
こうしたPDCAの徹底が、組織全体のデジタル対応力を底上げし、長期的な競争優位を築く基盤となるのです。
PDCAサイクルについては以下の記事で解説しているので、詳しく知りたい方はあわせて確認してみてください。
関連コンテンツ:PDCAサイクルとは?メリットや目的、古いと言われる理由を簡単に解説
AI時代に求められるデジタルリテラシーの変化

生成AIの普及により、デジタルリテラシーは単なる「操作スキル」から「AIを活用する高度な能力」へと進化しています。たとえば、AIに正確な指示を出すプロンプト設計力や、AIの出力を批判的に評価する判断力が求められるようになりました。
企業のDX推進では、経営層の理解や社内体制整備とともに、こうしたスキルをもつ人材育成が重要視されています。
加えて、生成AIによる業務の効率化が進むなかで、人間には「問いを立てる力」や「創造性」「ビジネスやデザインの発想力」など、より高度な思考能力が期待されています。
今後のデジタル人材には、これらのAIリテラシーを含めた、実務に直結する実践的で柔軟なスキルセットをもち、変化を受け入れ継続的に学ぶ姿勢が不可欠となるでしょう。
参考:生成AI時代のデジタル人材育成の取組について|経済産業省
生成AIについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
関連コンテンツ:生成AIとは?従来のAIとの違いやメリット・デメリット、問題点をわかりやすく解説
デジタルリテラシーを高めて、企業のDX推進を加速させよう

デジタルリテラシーを高めることはDX推進の基礎であり、業務効率化や競争力強化の第一歩です。
本記事で紹介した5つのステップを踏んで組織全体のデジタルスキルを向上させることで、最新ツールやシステムを効果的に活用し、業務の効率化や迅速な変革が可能となります。
最初の一歩として、多くの企業が直面するDX推進の課題と解決策について解説した以下の資料をぜひチェックしてみてください。
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