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【事例】「売上が伸びるほど、会社は苦しくなる」。社員120人の町工場が、知識ゼロから完遂した基幹システム刷新

IT知識はほぼゼロ。営業出身の後継ぎが、社員120人の町工場、高瀬金型の基幹システムをSalesforceで刷新しました。「売上が伸びるほど苦しくなる」——。その痛みをどう越えたのか。導入を迷う中小企業の経営者のみなさまに、覚悟と現場の工夫を伝えます。

Key Takeaways

This summary was created with AI and reviewed by an editor.

愛知県稲沢市に本社を置く社員120人、創業1982年の金型・プラスチック成形メーカー、高瀬金型。住宅水廻り設備や医療機器、半導体製造装置という品質要求の厳しいニッチ市場に特化し、直近10年で社員数も売上高もおよそ倍増させてきた成長企業です。

中小企業基盤整備機構の調査では、DXに「取り組み済み」または「検討中」の中小企業は2024年で42.0%と、前回の31.2%から10.8ポイント増えました(「中小企業のDX推進に関する調査」2024年)。裾野は広がっています。それでも、最初の一歩を踏み出せない経営者は少なくありません。

そんな中でも高瀬金型が急成長により直面した課題を乗り越え、更なる成長を実現する契機となったのは、IT知識が「ほぼゼロ」だったという一人の後継ぎの決断でした。

営業部部長でありながら2023年からDX推進責任者を兼ねる髙瀬直幸さんに、開発を担うDX推進グループリーダーとともに基幹システム刷新の軌跡を聞きました。

製造業のためのデジタル変革実践ガイドブック

「売上が伸びるほど、会社は苦しくなる」。そんな矛盾に直面した製造業の経営者は少なくありません。アナログなオペレーションを抜け出し、製造業DXを成功させた企業に共通する7つのステップを解説します。

このまま続ければ、社員は潰れ組織は破綻する

──まず、高瀬金型の事業を教えてください。

髙瀬:もともとはプラスチック部品を成形するための金型を開発・製造する企業でしたが、いまは金型の設計・製造から、プラスチック部品の量産・組み立てまでを一貫して手がけています。特に住宅の水廻りや医療機器、半導体製造装置といった、品質が厳しく求められる付加価値の高い領域に特化しています。

高い寸法精度を出すための金型技術と成形技術の両方を持っている。そこが、ほかの企業との差別化です。

── 事業は順調に伸びていたのに、なぜ基幹システムを刷新しようと思ったのですか。

髙瀬:地元のITベンダーにスクラッチで開発してもらった基幹システムを、10年以上使っていました。受注や在庫、取引先マスター、売上の集計などに活用していましたが、事業の成長に合わせて、システムと事業規模との間に乖離が出始め、非常に使いづらくなっていたんです。

当社は、多品種・少量生産が重要な戦略。特定の商品や顧客、業界に依存しないように分散させていて、商品点数は1000アイテム以上あります。

戦略としては正しいと確信していますが、実際にオペレーションを回そうとすると、情報量が膨大で、関わる部署・メンバーも多い。部署と部署のあいだの情報連携が、どんどん重くなっていました。

だから私が入って思ったのは、売上が伸びれば伸びるほど苦しくなっていく矛盾でした。

在庫管理も生産計画も大変になる。しかも、そこを担っているのが、紙やExcel、ホワイトボードといったアナログなオペレーションだった。生産計画は現場の勘、不良率もまともに集計されていない状態。ここを変えないと、ビジネスモデルそのものが破綻すると危機感を抱きました。

ITの知識はゼロ。それでも自ら手を挙げた

── 髙瀬さんは営業出身ですよね。なぜ自身でデジタル変革の責任者を引き受けたのですか。

髙瀬:基幹システムの刷新となると、大規模なプロジェクトになる。だからこそ、後継ぎという立場の自分がリーダーシップを取らないとうまくいかないと感じました。将来は経営を担う人間になるつもりですから、責任を取るという意味でも自分が適任だろう、と。

── 当時、テクノロジーの知識はどの程度だったのですか。

髙瀬:全くなかったと言っても、過言ではないですね(苦笑)。前職でもITにはほとんど触れていなかったので、その経験が役に立ったわけでもない。ただ、経営については大学院で学んでいましたし、ITも学べばなんとかなるだろうという思いはありました。

社長は「スクラッチ推し」だった。なぜSalesforceだったのか

── 選択肢はいくつもあったはずです。なぜSalesforceだったのでしょうか。

髙瀬:選択肢は、大きく3つありました。1つ目はもう一度スクラッチで作る。2つ目は前から別の業務で使っている「kintone」を拡張して基幹システムのように使う。そして3つ目がSalesforce。

重視したのは2点。自社で開発やカスタマイズができるか。そして、基幹システムとしてデータベースがしっかりしているかでした。

Salesforce(Agentforce Sales)は、自社でカスタマイズできるし、将来いろいろなシステムと連携させやすい。データベースもリレーショナルデータベースになっていて私の構想と合致していた。kintoneだとデータベースとして弱く、やはりSalesforceだと判断しました。

──投資対効果はどのように事前に測ったのでしょうか。

髙瀬:ランニングコストは、だいたい人件費一人分くらい。でも、自分が実現したい仕組みが構築できれば、一人分以上の効果は間違いなく出ると確信していました。ほかのシステムに比べて高価だとは思いましたが、得られる成果を考えれば高いという印象はなかったです。

これはそもそもの私の持論ですが、投資回収という考え方自体が、デジタル変革とは合わないと思っています。効果の範囲も期間も特定できないというか未知数なので。

だから、まず効果を測定できる範囲、今回のケースで言えば情報を探す時間や入力時間、資料作成の削減といった「省人化」の部分だけでROIを試算し、そこだけでも圧倒的にプラスになることを確認しました。その先の、データドリブンな経営判断や文化の改善といった部分は、プラスアルファの「競争優位性の向上」と捉えました。

── 社長の反応はどうでしたか。

髙瀬:社長はスクラッチ推しでした。慣れ親しんだ地元のベンダーと作ればいいと。なので、メリットとデメリットを細かく資料にまとめて、これならこういうことができる、これはできないと丁寧に説明して最終的には、「やるのはお前だから」と任せてもらいました。

スクラッチ・kintone・Salesforce、製造業の基幹システム選びに迷ったら

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現場はなぜ抵抗しなかったのか

── ツールを変えようとする、「前のほうが使いやすい」「なぜ変える必要があるのか」と現場は抵抗するものですが、高瀬金型ではそれが起きなかったと聞いています。

髙瀬:よかった点を1つ挙げるなら、徹底的に現場に寄り添って開発したことです。

現場が一番関心を持つのは、自分の仕事がいかに楽になるか。だから、入力の工数を1つでも減らす、過去のデータを自動で参照して無駄な入力をなくす。そういうことを丁寧に積み重ねて、「前のシステムより、こっちに置き換えたほうが楽になります」という状態を作った。これが良かったのかもしれません。

それと、幸い当社は若い人材が多いことも奏功したと思います。

現場もバックオフィスも20代、30代が中心で、平均年齢は30代前半。15年ほど前から新卒採用を始め、毎年4〜5人は採るようにしてきました。なるべく若い人でやっていこうという社長の方針があったので。いま振り返ると、テクノロジーに抵抗のない人たちが揃っていたのは、大きかったですね。

── 瀬木さんは、現場の目線で定着のために何を意識しましたか。

瀬木:入力の手間を減らすのが第一。その次に、間違った入力ができないようにすることを意識しました。

人間は、無意識に間違えます。それが集計の段階で発覚すると、手戻りが発生し、入力した人もそれをチェックする人もどちらもイライラする。だから、たとえば1日は24時間と決まっているものに、それ以上の数字が入らないようにするような入力の時点でデータの正確性を上げる作り方を意識しました。

「説明書を読まないとわからない」ではなく、誰が見てもわかる入力フォームにする。こうした細かな設計を積み重ねたおかげで、「使い方がわからない」という問い合わせはほとんどありません。

髙瀬:体制として僕が全体像、つまり全体最適を押さえつつ、瀬木が徹底的に現場に寄り添う部分最適を担う。このバランスもうまくいきました。

全部を現場の声どおりにすると、システム全体がおかしくなる。だから「事業として、こうあるべきだ」という姿を僕が描いて、現場に寄り添いつつも、システムも現場も“あるべき姿”に合わせていく方針で進めました。これが良かったと思います。

それから、基幹システムとしてSalesforceを使っているので、「使わざるを得ない」状況を作りました。使わないと業務が回らない、ほかの部署にも迷惑がかかる。最低限のエラーがない状態を作ったうえで、旧システムと2〜3か月並行稼働して問題ないと確認し、トップダウンで一本化しました。

人件費5人分、そして「部門の壁」が消えた

── 改めて費用対効果を教えてください。

髙瀬:正確な定量評価はできていないという前置き付きですが、人件費で言えば、5人分くらいの仕事をSalesforceはしてくれていると思っています。営業利益率でいえば、2〜3ポイントは上がるくらい、いや、それ以上だと思います。

具体的な効果を話すと、たとえば金型のメンテナンス管理。高い品質を維持するには、何千ショット打ったらメンテするというルールで金型を管理することが欠かせません。でも、その依頼業務が現場には重く、回りきらずに不良につながることもあった。

そこを「Apex」で自社開発して、累計ショット数も自動で計算されるようにした。15分かかっていた作業が2分くらいになっています。業務が楽になっただけでなく、正しいタイミングで正しくメンテナンスができるようになり、不良も減りました。

── 単なる効率化ではない変化も、あったと。

髙瀬:はい。情報の透明性が一気に上がったので、現場の問題がすぐ見えるようになった。すると改善活動が回り始める。会社の仕組みや文化が変わったんです。

システムについても以前は、改善したい内容が出るたびにベンダーに依頼していて、1か月待ち、しかも依頼したもの

と違うものが納品されるということもあった。いまは社内で半日で直せる。だから現場から改善要望がどんどん出てくるようになりました。

── 「Slack」も導入されていますね。

髙瀬:SalesforceとSlackが完全につながっています。たとえば不良率が特定の閾値を超えたら、Slackに自動でアラートが飛んでくる。導入は基幹システムの1年ほど後でしたが、もう完全に浸透していて、定着はまったく問題ありませんでした。SNSを使うような感覚で、メールより慣れている人が多い。むしろ、メールでは連絡を取りづらかった相手と取りやすくなったという声もあります。

── この先の活用計画を教えてください。

髙瀬:目下の最大のプロジェクトは、生産計画の完全自動化です。

Salesforceで「いつ・何を・何個作るか」の生産指示は自動で出せるようになっています。それを現場のリソースに合わせて並び替える部分を、別のAIスケジューラーとAPIで連携させる。

これが完成すれば、生産計画という業務そのものがなくなり、現場はシステムが出した指示に従って動くだけになる。多品種少量の成形事業では、ここの最適化こそがスケールのカギです。

その先には、受注から出荷、日々のコミュニケーションまで、会社の情報をすべて知っているSalesforceのデータを学習させたAIエージェントの開発を視野に入れています。それを作れる環境が、もう整いつつありますので、今後2〜3年で、やれる状態にしていきたいです。

── もしSalesforceとSlackを導入していなかったら、何を失っていたと思いますか。

髙瀬:会社の雰囲気として、もともと部門ごとに分断されたような、壁のある空気があったんです。導入していなければ、きっとその状態が続いていたと思います。

短期的なROIだけでは測れないこととして、働き方が変わり、カルチャーが変わった。一番大きな変化は、この多品種少量のプラスチック成形事業を、スケールさせられる会社に変われたこと。

つまり、次のステージにいくための経営基盤をアップデートできたんです。何を失うかと言われたら、成長そのものの機会を失った、ということですね。

二の足を踏む経営者へ。「意外となんとかなります」

── 最後に、Salesforceを入れたいけれど社内の反発が怖い、本当にうまくいくのか、目先のROIが気になる。そう言って二の足を踏んでいる経営者はたくさんいます。一歩を踏み出す言葉を、いただけますか。

瀬木:まずは、推進する責任者が「やりきる」という覚悟を持つこと。これが一番重要だと思います。僕自身、正直に言ってここまでうまくいくとは思っていなかったし、できるとも思っていなかった。

でも、やると決めて、覚悟を決めてやったから、ここまで来られた。やると決めてやり続けるという意思決定をすることが一番大事だと思います。

それと、成功するにはまずチャレンジしないといけない。諦めたら、今と変わらないか、下がっていくだけです。最終的な姿が見えない状態から始まりましたが、まずやってみる。ダメならまた別の手を考えればいい。

一個成功すると、それを使う部署の全員が成功体験を得て、Salesforceの味方になる。それを各部門で少しずつ積み上げていくと、最後はみんなが同じ方向を向く。だから成功するんだろうな、というイメージを持っています。

長期的な成果と、目の前の業務が楽になるという小さな成果。この両方をちゃんと回していくことが、すごく大事だと思います。目に見える成果があったほうが、承認も協力も得やすいので。

髙瀬:「意外と、なんとかなるもんだぞ」ですね(笑)。そして、「Salesforce、想像以上にいろいろできるぞ」と。正直、ここまで自分たちで作り込めるとは思っていなかった。いまでは、想像できることはなんでもできそうな気がしています。

生産計画の自動化、AIエージェントで次のステージへ

「想像できることはなんでもできそうな気がしている」。高瀬金型が次に見据えるのは、AIエージェントを活用した生産計画の完全自動化です。中小企業がAIエージェントを導入するための5つのステップを確認してみてください。

取材・執筆:木村剛士
撮影:大橋友樹

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