Key Takeaways
目次
経営トップにはさまざまなスキルが求められます。財務の専門知識や強固な損益管理、組織運営と業務運営のスキルはCEOの必須要件。しかし、AI時代にそれらは陳腐化しつつあります。今、CEOのAIリテラシーこそが競争力と成功を左右する決定的要因です。
世界の大手企業のCEOのうち、テクノロジー分野での就業経験者は6%未満です(英語)。また、数千人の上級管理職を対象に行った2024年の調査(英語)では、AIの「概念的知識」を有している者は、わずか8%であることが判明しました。
一方、AIエージェントはワークフローを再設計し、コードを書き、デジタル労働力を創出し、仕事の進め方や担う主体を再定義しています。大企業を率いる多くの経営幹部は、十分に理解していない技術をアドバイザーに頼りながら、AIへの投資を進めています。
「AI戦略を他者に委ねられる段階は過ぎ去っています。米国企業はAIに巨額を投じています。その投資がどう価値を生み、リスクを管理し、戦略的目的に沿うのかを明確に説明できないCEOは、その資本を管理する資格がありません」と、デジタルとリーダーシップの変革企業であるShadokaの創業者であり、多数のビジネス書著者でもあるFaisal Hoque氏は述べています。
CEOのAIリテラシーは、リーダーシップにおける新たな必須スキル
次世代のCEOには、従来の経営スキルに加え、深い技術的理解が求められます。また、課題や商談について技術リーダー層と対話を進めることも必要となります。
CEOが自らコーディングする必要があるという意味ではありませんが、適切な問いを投げ、前提を疑い、戦略を導き、そして重要な技術的判断を評価できるように、テクノロジーの言語を流暢に操る必要があります。これを見誤った際のリスクは、極めて甚大です。
Korn FerryのAI戦略・変革責任者であるBryan Ackermann氏は次のように述べています。
「成長のための最大の機会であると同時に、負の破壊をもたらす最大の要因でもあるテクノロジーの変革を、我々は経験したことがありません。また、これほど急速に普及すると同時にコモディティ化が進むテクノロジーも前例がありません。これにより、多くのリーダーが経験したことのないレベルの曖昧さと不確実性が混在する状況が生まれているのです。」
【起業という覚悟】
アクセンチュア27年のキャリアを経て辿り着いた「集大成」
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また、Boston Consulting Group(BCG)は、多くのCEOがAIについて十分な規模で思考できていない(英語)と指摘し、現状を「エレクトリシティ・モーメント(電気の転換点)」と呼んでいます。
工場がガス灯から電球に切り替えた当初は、数時間の生産性向上にとどまりましたが、電動機械を中心に工場フロア全体を再設計すると、生産性は飛躍的な進歩を遂げました。
現在、多くの企業はこの「電球への切り替え」の段階で行き詰っています。「多くの企業は、部分的な自動化による改善に注力していますが、有用ではあるものの、膨大な潜在能力を眠らせたままにしています。それは、AIが実際に何ができるのかを深く理解していないことが一因です」と、BCGは最近のレポートで述べています。
つまり、「工場の再設計」が必要なのに、理解していないものを再設計することは不可能なのです。
テクノロジーに精通したリーダーにとって、これは「AIエージェントで業務を革新する企業(エージェンティックエンタープライズ)」の先導を意味します。これは、AIエージェントが組織を横断し、ビジネスプロセス全体を自律的に実行できる変革です。
AIはこれまでの技術とどう異なるのか
AIがこれまでの技術革新と一線を画すのは、自律型の能力を軸に、ビジネス全体を再設計する機会をもたらすからです。
だからこそ、最低限の技術的素養を持たないCEOは、致命的な「死角」に直面するリスクがあります。技術への理解がなければ、真のイノベーションと見栄えだけのデモを見分けることは難しく、何ができるかを理解して初めて見えてくる大きな機会を逃しやすくなるのです。
例えば、ふたりの異なるタイプのCEOが、AIエージェントが複数ステップのワークフローを処理できることを知ったとき、どうするでしょう。
技術志向のCEOは「AIエージェントを使って、顧客のオンボーディングプロセス全体を再構築できないか」と問いを立てるでしょう。
一方で従来のCEOは「サポート案件の解決をより迅速化する」といった、重要ではあるものの部分的な改善に重点を置くかもしれません。後者のアプローチは1つのプロセスをわずかに効率化するだけですが、前者は仕事のあり方そのものを変革します。
これが過去の技術革新と異なる点です。クラウドでさえ、技術に詳しくない経営層にとって管理しやすいものになりました。企業向けのアプリやデータをクラウドに移行することは、あくまでインフラ面での意思決定だったからです。IT部門はワークロードを安価なクラウドに移すことでコストは下がりましたが、ビジネスモデルそのものは維持されました。
「クラウド、モバイル、インターネットは主にインフラ面での変革でした。価値提供の方法を変えたものの、根本的に意思決定の内容や主体を変えるものではありませんでした。組織図を見直すことなくクラウドを導入できたのです」とHoque氏は述べています。
AIエージェントはこれまで人間が担ってきた役割を引き継ぎ、顧客や従業員、戦略に影響を与える意思決定を行い、あらゆる機能に関わっています。
- セールス:AIエージェントが24時間365日、見込み客に対応
- カスタマーサポート:AIエージェントが自律的にサポート問題を解決
- サプライチェーン:供給網の混乱をAIが予測
- クリエイティブ:AIによるコーディングやマーケティングコピーの生成
- 経営陣:戦略策定(英語)の補助としてAIエージェントを活用
- 製品開発:AIエージェントを活用してコンセプトを生成・検証(英語)
- 新ビジネス:AIエージェントが連携して、全く新しいビジネスモデルを実現する
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リーダーシップのパラドックス。技術的習熟と人間的つながり
技術的な専門知識だけでは、優れたCEOになれません。対人スキルは常に重要です。AIは従業員の間に「自分は職を失うのか」「必要なトレーニングは受けられるのか」「自分は今後も必要とされるのか」という不安を生み出しており、リーダーはこれらに対処する必要があります。
しかし、技術的習熟を伴わない共感型リーダーシップでは、彼らの不安を払拭することはできません。CEOが「共に解決しよう」と言っても、AIエージェントがどう機能し、現実的にどの役割を担い、3年後にどのようなスキルが重要になるのかを理解していなければ、その共感は従業員には軽々しく聞こえ、見透かされてしまいます。
「今日のCEOは『AIの最高指揮者』である必要があります」とHoque氏は述べています。
このオーケストレーションこそが、AIエージェントで業務を革新する企業の心臓部であり、AIエージェントによって人間の創造性が増幅される組織図を可視化できるのです。このビジョンを描くには、ビジネスのどの部分を自律化させ、信頼維持のためにどの部分に人間が必要かを見極められるだけの技術的な深みが必要なのです。
また、「リーダーは、AIが組織の目的にどう合致するかというビジョンを掲げ、どのAIイニシアチブに資金を投じるかという厳しいリソース配分の決断を下さなければなりません。そして、自身の学習過程や失敗を公に共有する姿勢も含め、AIが求める文化的変革を自ら体現する必要があるのです」とHoque氏は続けます。
また、Ackermann氏は「優れたリーダーたちがCOVID-19のパンデミックの間に実践したことを振り返るべきです。彼らは従業員の心身の健康を気遣い、不透明な状況を誠実に認め寄り添いました」と述べています。
AI変革においても不確実性に対する誠実な姿勢が求められますが、さらに、AIそのものへの理解が不可欠です。AI変革の本質を理解していなければ、人々をその先に導くことはできません。
Ackermann氏は、リーダーは不確実性に正面から向き合う必要があると説きます。「全員にとってハッピーエンドになるとは限りませんが、リーダーが従業員に対して率直であるほど信頼感は高まります」
次世代のCEOには、業績と変革を同時に実現することが求められます。従業員が自身の役割や存在意義、そして将来への深い不安を抱える中、技術的専門性と真の共感をもって、従業員を導きながら成果を挙げていかなければなりません。
人とAIが協働する新企業体「Agentic Enterprise」に進化するための具体的ステップ
「Agentic Enterprise(エージェンティック エンタープライズ)」に進化するための実践的8つのステップを紹介します。
CEOに求める新たな期待は何を意味するのか
この変革は、現在のCEOのあり方を変えるだけでなく、将来のリーダー育成の仕組みそのものを根本から再構築しようとしています。
ビジネススクールは、すでにAI時代で成功するための次世代リーダー育成に取り組んでいます。GMAC(経営学修士課程入学審査協議会)によると、2024年末時点でビジネススクールの78%がカリキュラムにAIを取り入れています(英語)。これらのプログラムの多くは技術的な管理ではなく、システムやデータ、開発における実地体験に焦点を当てています。
AI時代における新しい期待は、リーダーシップのあらゆる側面に影響を及ぼすでしょう。
キャリアパスは変わります。CEOを目指すエグゼクティブは、もはや財務や営業、オペレーションといった従来の部門経験だけでなく、テクノロジーを運用化する能力も評価されるようになります。テクノロジーリーダーがCEOになるケースは依然として稀ですが、Fortune 500企業の69%が、テクノロジー部門幹部(英語)を組織の最高意思決定機関に配置するようになっています。
取締役会による後継者計画の見直しが必要です。取締役会は、当然ながらCEOに確かな損益(P&L)責任の経験を求めるでしょうが、その「経験をどこで積んできたか」という視点は進化していくでしょう。
Heidrick & Strugglesのレポートによれば、依然としてCFOやCOOからの昇格が主流ではあるものの、収益責任を果たしてきた実績さえあれば、DX経験を持つような、部門横断的なモビリティを備えたリーダーへの関心が高まっています。
「持続的な業務パフォーマンスを維持し、変化に遅れを取らないよう組織を変革し続ける能力が不可欠です。変化は加速し続け、多次元化しています。優れた取締役会は、その現実を十分に把握しているのです」とAckermann氏は言います。
そして最も重要なことは、CEOに求められる「有能さ」の定義が変わることです。
CEOは常に企業の業績に責任を負ってきました。しかしこれからは、業績を達成しながら変革することが同時に求められます。AI時代において、CEOはAI戦略を評価し、技術的な可能性を見極め、技術革新と職場環境の破壊的変化の中で組織をリードしていかなければなりません。しかも、それをかつてないスピードでやり遂げる必要があるのです。
CEOのためのAIリテラシー:21世紀の必須要件
テクノロジーはおそらくもっとも重要な戦略的手段です。これからの10年を定義するのは、P&Lとテクノロジーの両方を自在に操る「バイリンガルなCEO」です。
なお、本記事は米国で公開された “For CEOs, AI Fluency Is the New MBA” の抄訳版で一部編集した内容です。
本ポストの正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。


