Key Takeaways
AIが比較を容易にする時代、「差別化は壊されるのか」「顧客はロイヤルであり続けるのか」。本記事では、AI時代に問い直すべきブランドロイヤルティの本質と、選ばれ続けるブランドの設計原則をYang Yao(ヤオ・ヤン)が解説します。
目次
AI時代に生まれたブランドロイヤルティの「2つの問い」
ブランドロイヤルティは、決して新しいテーマではありません。これまでにも多くの書籍や研究が、「顧客に選ばれ続けるブランドをどうつくるか」を論じてきました。
それでも、今改めてブランドロイヤルティについて考えたいと思います。なぜなら、AIエージェント時代を迎えた今、これまでとは異なる二つの問いが生まれているからです。
1つ目の問いは、AIによって、ブランドの差別化は難しくなるのではないかという問いです。
今、多くの企業がAIを活用し、カスタマーサービスの高度化や、一人ひとりに合わせたマーケティング、よりパーソナライズされた顧客体験の実現を目指しているでしょう。
AIは一部の企業だけが占有できる能力ではありません。競合も同じようにAIを活用できるとすれば、「より速く・より便利に・よりパーソナライズされている」だけで、差別化できるでしょうか。
2つ目の問いは、顧客はこれからも、1つのブランドにロイヤルであり続けるのかという問いです。
私が以前執筆した記事でも触れたように、AIはすでに日用品からラグジュアリーブランドまで、幅広いカテゴリーで情報収集や比較、購買意思決定に関わり始めています。(参考:AIが購買を意思決定する時代、「エージェンティック・コマース」とは何か)
商品・サービスの情報や価格、レビュー、代替案をAIが瞬時に整理し、客観的な比較にかかるコストが限りなくゼロに近づいた時、顧客はこれまでと同じように特定のブランドを選び続けるのでしょうか。
私の答えは、「AIによってブランドの差別化は、むしろ難しくなる。しかし、AI時代においても、強いブランドをつくり、ロイヤルな顧客を増やすことは可能」です。
ただし、そのためにはこれまで以上に、自社ブランドが顧客に提供する本質的な価値は何か、どのような存在として選ばれたいのか、そしてどのような顧客関係を築いていくのかを明確にする必要があります。
ブランドとして進むべき方向が曖昧なままAIを活用しても、競合と似たようなパーソナライゼーションやコミュニケーションを効率よく量産するだけになりかねません。むしろ、ブランドの同質化を加速させ、その価値を弱めてしまう可能性さえあります。
だからこそ、AIで何ができるかを考える前に、まずブランドロイヤルティの原則に立ち返り、自社が目指す顧客との関係と、そこに至る道筋を明確にすることが重要です。
AI時代のブランドロイヤルティ戦略ガイド
AIが比較を容易にする時代、ブランドロイヤルティはどう変わるのか。この前例のないチャンスを掴み、ブランドを成長させるための戦略を解説します。
ブランドロイヤルティとは何か
AI時代には、「習慣的なロイヤルティ」と「能動的なロイヤルティ」の違いがより明確になります。 現在リピート率が高くても、「いつも使っているから」「比較するのが面倒だから」「乗り換えるほどの理由がないから」といった惰性や習慣に支えられた継続利用であれば、その関係はAIによって脆くなる可能性があります。
ブランドロイヤルティにはさまざまな定義がありますが、AI時代だからこそ、その本質はむしろシンプルに捉えられます。私はそれを「ブランドが顧客と築くことのできる、最も価値ある深い関係」だと定義します。
この「深い関係」に至るには、段階があります。まず、そのカテゴリーで何かを選ぶ時に、「そのブランドがファーストチョイスである」こと。
さらに関係が深まると、単に選ばれるだけでなく「このブランドは、自分にとって特別な存在である」と感じること。そして究極的には、「他のブランドでは簡単に代替できない、唯一無二の存在である」という関係です。

これは、人間関係が深まっていくプロセスにも似ています。
ただし、人間関係では、双方が意識的に時間をかけて関係を深めていくのが一般的です。一方、ブランドロイヤルティの構築では、顧客側から先に関係構築を始めてくれるわけではありません。顧客からロイヤルティを求める前に、ブランドが先に顧客へのロイヤルティを、具体的な体験や行動を通じて示すことが出発点になります。
また、人は相手との関係性によって、期待する価値を変えます。
たとえば、仕事場での同期や同僚には、経験を共有し、ともに成長できることを期待します。友人には、気持ちを理解してもらえることや、心でつながっている感覚を求めます。メンターには、自分では見えていないことを示し、より良い方向へ導いてくれることを期待するでしょう。
ブランドとの関係も同じです。ブランドが顧客とどのような関係を目指すのかによって、提供すべき価値もコミュニケーションも顧客体験も変わります。
だからこそ、ブランドはまず自社は顧客とどのような関係を築きたいのか、そして自社のブランドの特性に照らして、どのロイヤルティ段階を目指すべきなのかを明確にする必要があります。
顧客と「深い関係」を築くMA施策、具体的に何をする?
エンゲージメントを強化し、ビジネス成長を加速させるための「MAシナリオ40選」を無料でご紹介します。
ブランドの特性から、差別化されたロイヤルティを
では、ブランドはどのように「目指すべき顧客との関係」や「ロイヤルティの到達点」を定義すればよいのでしょうか。
まず立ち返るべきは、ブランドの原点です。新規事業でない限り、多くのブランドにはすでにそのブランドらしさや価値の源泉、いわば「Brand DNA」ともいえる固有の性質があります。
ロイヤルティ戦略を考える際には、まず次の3つの問いに明確に答える必要があります。
- 私たちは何者か:どのような価値を提供し、顧客に何を約束するブランドなのか
- 顧客は誰か:どのような人たちに選ばれ、どのような価値を求められているのか
- 顧客との理想的な関係像は何か:どのレベルのロイヤルティを目指すのか
一見するとシンプルな問いですが、実際には抽象的な答えにとどまっているケースも少なくありません。しかし、この三つへの答えこそが、AI時代にブランドを差別化する土台になります。
同じAIを使っても「何を大切にし、誰に、どのような価値を、どのような関係として届けるのか」が違えば、顧客体験も変わります。
逆に、この軸が曖昧なままHOWに進めば、AIによって競合と似た体験を、より効率的に量産するだけになりかねません。だからこそ、AIをどう使うかを考える前に、まずブランドとしての答えを明確にすることが重要です。
もう一つの前提条件があります。ブランドの特性によって築ける・目指すべきロイヤルティのレベルも異なるのです。既存ブランドは、消費者からの認識という観点で、大きく4つのタイプに整理できると考えています。

例えば、幅広い顧客にとっての「買いやすさ・選びやすさ」を強みにする市場浸透型のブランド(左下)であれば、まず重要なのは「そのカテゴリーで真っ先に思い浮かび、自然に選ばれること」です。
一方で、ブランドの世界観や憧れ、特別な価値で選ばれるブランド(右上)であれば、その先に「私にとって特別な存在」あるいは「他では代替できない唯一無二の存在」という深いロイヤルティまで目指すことができます。
多くのブランドは、最初は機能的価値やAccessibility(買いやすさ、利用しやすさ)の強さによって市場でのポジションを築きます。そのうえで、顧客からの支持や市場での優位性を確立したブランドの一部が、より右側、つまり感情的・象徴的価値を伴うポジションへと広がっていきます。
成熟したリーディングブランドの多くは、一つの領域だけではなく複数の価値領域にまたがる強みを持っています。
ブランドロイヤルティを考える際には、自社ブランドの特性と現在地を踏まえ、どのような顧客関係を目指すべきかを見極めることが重要です。
CRMとロイヤルティプログラムはブランド価値を実装する仕組み
ブランドとして目指すロイヤルティ戦略を定義した後、次に必要なのはそれを顧客体験として実行する仕組みです。CRMとロイヤルティプログラムは、そのための実装基盤と捉えることができます。実践の流れは、次の3ステップです。

- ブランドコミット:自社ブランドが、どの顧客課題や重要な瞬間を担うのかを定める。
- エンゲージ:そのコミットを、製品・サービス・チャネル体験として具体化する。
- アンプリファイ:テクノロジーを活用し、重要な顧客接点での体験を一貫してスケールする。
ブランドロイヤルティは、抽象的なブランド価値だけでは生まれません。何を約束し、どのような体験として届け、それをどう再現性高く広げるか。その実行を支えるのが、CRMとロイヤルティプログラムです。
Agentic AIの価値は、既存の体験を安く・速く提供することだけではなく、ブランドが顧客に約束した関係を、これまでできなかったレベルまで実現することにあります。
1. 既存ワークフローを最適化する
ワークフローごとに、AI主導、人主導、人+AI協働のどれが最適かを見極めます。判断のポイントは、間違えたときの影響の大きさと、必要な判断がルール化できるものか、経験や文脈に依存する暗黙知なのかです。重要なのはAIを多く入れることではなく、最適な役割分担によって体験品質を高めることです。
2. これまでできなかった顧客価値をつくる
もう一つは、効率化ではなく「これまで人手やコストの制約でできなかったExtra Mileは何か」を考えることです。たとえば、顧客の変化を先回りして捉える、問題が顕在化する前に対応する、複数部門をまたいで最適なアクションを組み立てるなど、ブランドが目指す顧客関係をさらに一歩深める使い方です。
【無料】ロイヤルティプログラム 30日間トライアル
わずか1分の入力で、ポイント設計や特典管理などブランドロイヤルティ構築に特化した機能を今すぐお試しいただけます。ぜひご体験ください。
ブランドロイヤルティ構築の「3つの誤解」
ブランドロイヤルティは「ロイヤルティプログラムを導入すれば高まる」ものではありません。よくある失敗には共通する3つの誤解があります。
1. 誤ったロイヤルティの方針設定
ブランドの特性や成長段階を無視して、「唯一無二の存在」を目指せばいいわけではありません。自社に合わないロイヤルティを追求すると、施策の一貫性が失われ、経営資源が分散し、ブランドらしくない体験を生みかねません。
2. 顧客との関係性の設計が曖昧
他社のポイント制度や会員プログラムを参考にすること自体は問題ではありません。しかし、「顧客とどのような関係を築きたいのか」が曖昧なまま施策を模倣すると、コミュニケーションの一貫性が失われ、顧客体験にばらつきが生まれ、仕組みだけが複雑になっていきます。
WHATより先に、RELATIONSHIPを定義する。 これがロイヤルティ設計の出発点です。
3. 誤った推進体制
ロイヤルティは、マーケティング部門だけでつくるものではありません。商品、サービス、店舗、EC、カスタマーサービスなど、顧客とのあらゆる接点でブランドコミットを証明して初めて積み上がります。
ロイヤルティを単なる販促施策として扱うと、KPIも短期的な取引やコンバージョンに偏り、結果として「割引を提供して買ってもらう仕組み」になりがちです。
【事例紹介】ロイヤルティプログラムの重要性と4つのトレンド
本ガイドでは、業界の最新動向とピザハットなど6社の成功事例を詳しく解説。ぜひ、顧客エンゲージメント向上にお役立てください。
「よくある質問」でおさらい
A. 私の答えはYesです。ただし、惰性や「乗り換えるほどの理由がない」という受動的な継続利用は、AIによって脆くなります。
比較にかかるコストが限りなくゼロに近づいた時、習慣に支えられた選択はいとも簡単に覆ります。しかし、顧客が「このブランドでなければならない」と感じる能動的なロイヤルティは、AIがどれだけ選択肢を増やしても揺らぎません。だからこそ今、ブランドが問い直すべきは「自社はなぜ選ばれているのか」という問いです。
A. AIは、差別化の道具になると同時に、同質化の加速装置にもなります。
ブランドとして「何者か・誰に・どのような関係で価値を届けるか」が曖昧なままAIを活用しても、競合と似たパーソナライゼーションを効率よく量産するだけです。同じAIを使っても、この軸が明確であれば顧客体験は変わります。差別化の源泉は技術ではなく、ブランドが自分自身について持っている答えの深さにあります。
A. ロイヤルティプログラムは実装の仕組みであって、ロイヤルティそのものではありません。
「顧客とどのような関係を築きたいのか」が定義されないまま他社のポイント制度を模倣すると、コミュニケーションに一貫性がなくなり、仕組みだけが複雑化していきます。設計の起点は「WHAT(何を提供するか)」より先に「RELATIONSHIP(どのような関係を目指すか)」。この順序を誤ると、どれだけ精巧なプログラムも「割引で買ってもらう仕組み」に収束します。
A. そうではありません。ブランドの特性と現在地によって、目指すべきロイヤルティのレベルは異なります。
市場浸透型のブランドにとって最初に重要なのは「そのカテゴリーで真っ先に思い浮かぶ存在になること」であり、その先の「唯一無二の存在」は、感情的・象徴的価値で選ばれるブランドだけが目指せる段階です。自社の特性に合わないロイヤルティを追求すると、施策の一貫性が失われ、経営資源が分散し、ブランドらしくない体験を生み出すことになります。
Agentforceで、ブランドコミットを一人ひとりの体験へ
ここまで述べてきたブランドロイヤルティの考え方を、実際の顧客体験としてスケールするために、Salesforceではデータ・AI・CRM・ロイヤルティの仕組みを一つにつなぐことができます。
Data 360で顧客データや行動、過去のやり取りをつなぎ、Customer 360 や Loyalty Management でマーケティング、コマース、サービスなどの顧客接点とロイヤルティ施策を連携。そしてAgentforceが、そのデータと企業固有のルールをもとに推論し、必要なアクションを実行します。Agentforceは「データ・推論・アクション」を組み合わせて業務を遂行する仕組みとして提供されています。
マーケティングの課題、専門家に相談してみませんか?
自社に合った解決策が分からない場合は、ぜひ弊社の専門家へお気軽にご相談ください。貴社の状況に合わせた具体的な解決策をご案内します。














