OMO戦略とは、オンラインとオフラインを融合することで、顧客体験の質を向上させるマーケティング戦略のひとつです。徹底した「顧客目線」にもとづいて、多様なチャネルを組みあわせることで、よりよい顧客体験の提供を目指します。
企業と顧客の双方にとってメリットが大きい戦略ですが、導入コストの大きさや成果が現れるまでに時間がかかるなどのデメリットもあります。そこで本記事では、OMO戦略の概要からメリット・デメリット、実現するための3つの施策、導入する流れなどを解説します。記事後半では、Salesforceの成功事例も掲載しているのぜひ読み進めてみてください。
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目次
OMO戦略とは

オンラインとオフライン、それぞれの特徴を組みあわせることで、よりよい顧客体験を実現する「OMO戦略」。注目する企業も多いOMO戦略の概要に関して、以下の視点で解説します。
- OMOの定義
- OMOが注目されている背景
- O2Oやオムニチャネルとの違い
それぞれ詳しく解説するので、ぜひ読み進めてみてください。
OMOの定義
OMOとは「Online Merges with Offline」の略で、オンラインとオフラインを融合させて顧客体験を向上させる戦略を指します。
購買行動だけを考えた従来の企業視点による販売促進とは異なり、顧客体験を重要視し、どのようなチャネルを選択しても一貫した体験ができる環境を整えます。特徴的なのは、オンラインとオフラインの境界を意識させることなく、シームレスなサービス提供を実現する点です。顧客一人ひとりのライフスタイルに合わせた購買体験を創出することで、顧客満足度の向上だけではなく、ブランドロイヤリティの向上にも貢献します。
OMO戦略が注目されている背景
OMO戦略が重要視されている背景には、デジタル技術の急速な発展と消費者の行動変化があります。スマートフォンの普及によって、商品情報の収集から比較検討、実際の購入まで、場所や時間を問わず行えるようになりました。さらに、SNSの影響力が増大したことにより、商品やサービスに関する情報共有もリアルタイムで行われるようになり、商品そのものを手に取らずとも容易に比較検討ができるようになったのです。
このような環境変化によって、企業は単に優れた商品やサービスを提供するだけでは競争優位性を保てなくなっているのが実情です。商品の品質や機能による差別化が難しくなるなか、カスタマージャーニー全体を通じた体験の質が重要視されています。オンラインでの情報収集から実店舗での商品確認、購入後のアフターフォローまで、一貫した顧客体験を提供できるOMO戦略は、現代のビジネスに不可欠な要素となっているのです。
O2Oやオムニチャネルとの違い
O2Oやオムニチャネルとの違いは、以下の通りです。
戦略 | 特徴 | 主な目的 |
---|---|---|
OMO | オンライン・オフラインの融合による顧客体験向上 | オンラインとオフラインでのシームレスな顧客体験の実現 |
O2O | オンラインからオフラインへの誘導 | 実店舗への集客促進 |
オムニチャネル | 複数チャネルの統合による販売促進 | 購買機会の最大化 |
O2Oは「Online to Offline」の略で、主にオンラインからオフラインへの一方向的な流れを作ることを目的としています。一方、オムニチャネルは複数の販売チャネルを統合することで販売機会を増やすことを目指しています。これに対してOMO戦略は、顧客視点でのシームレスな体験提供を重視し、より包括的なアプローチを取ることが特徴です。
関連記事:
・O2Oの意味とは?オムニチャネルとの違いや導入するために知っておきたいポイント
・オムニチャネルとは?活用するメリットや手順、成功事例をわかりやすく解説
OMO戦略のメリット

OMO戦略を取り入れてオンラインとオフラインを融合することにより、企業は以下のメリットを得られます。
- 顧客ニーズの把握に役立つ
- 機会損失を防げる
- 顧客体験の質を上げられる
それぞれ詳しく解説します。
顧客ニーズの把握に役立つ
オンライン上での行動データと実店舗での購買データを統合することで、より詳細な顧客像を描くことが可能になります。たとえば、ECサイトでの閲覧履歴や滞在時間、実店舗での購買履歴や接客記録など、多角的なデータを組みあわせることで、以下のようなニーズの把握に役立ちます。
- 顧客がどのような商品に興味をもっているのか
- どのようなサービスを求めているのか
- ECサイトと実店舗それぞれで何を求めているのか
このようなデータ分析により、顧客のニーズや行動パターンを予測することで、より効果的なマーケティング施策の展開に役立つでしょう。さらに、顧客の潜在的なニーズを発見し、新たな商品開発やサービス改善にも活かすことが可能です。
関連記事:顧客分析とは?7つの手法と進める手順、活用できるツールについて解説
機会損失を防げる
OMO戦略の導入により、顧客は自分の利便性に合わせて最適な購入方法を選択できるようになります。たとえば、実店舗で気に入った商品の在庫がない場合でも、その場でECサイトから注文して自宅へ配送することが可能です。反対に、オンラインで見つけた商品を実店舗で試着してから購入するといった選択肢もあります。
また、リアルタイムの在庫情報をオンラインで確認できるようにすれば、顧客は無駄な店舗訪問を避けられます。店舗側も在庫の効率的な管理が可能となり、機会損失を最小限に抑えることができます。このように、販売機会を最大化しながら、顧客満足度の向上にも貢献します。
顧客体験の質を上げられる
OMO戦略により、顧客は一貫性のある快適な購買体験ができます。たとえば、スマートフォンアプリを通じて店舗の混雑状況をリアルタイムで確認したり、事前に試着の予約をしたりすることで、待ち時間を最小限に抑えることができます。また、過去の購買履歴やオンラインでの閲覧履歴をもとに、パーソナライズされたおすすめ商品の提案を受けることもできます。
関連記事:カスタマーエクスペリエンスとは?高めた事例と高めるためのコツを解説
OMO戦略のデメリット

OMO戦略のデメリットは、導入から成果の実感までに費用と時間がかかることです。まず、オンラインとオフラインのデータを統合するためのシステム構築には、まとまった初期投資が必要です。また、既存の店舗システムやECサイトの改修も必要となる場合があり、これらの費用も考慮しなければなりません。
人材面でも、デジタルツールを活用できる店舗スタッフの育成や、データ分析のための専門人材の確保が欠かせません。また、新しい取り組みには試行錯誤が必要であり、効果が表れるまでには一定の時間がかかります。
さらに、すべての顧客が最新のデジタル技術に精通しているわけではないため、従来型の接客や販売方法もあわせて維持する必要があり、運用コストが増加する可能性も考えられます。
OMO戦略を実現する3つの施策例

オンラインとオフラインの融合により、新しい顧客体験を創出するOMO戦略の実例として、以下の3つを紹介します。
- モバイルオーダーの導入
- チャットボットの導入
- デジタルサイネージの活用
詳しく解説するので参考にしてみてください。
モバイルオーダーの導入
スマートフォンを活用したモバイルオーダーは、OMO戦略の代表的な施策のひとつです。たとえばコーヒーチェーン店では、スマートフォンアプリで事前に注文と決済を済ませることで、店舗では顧客に待ち時間なく商品を提供することが可能です。この仕組みにより、顧客は混雑時でも効率的に商品を受け取れるため、時間的なストレスを軽減することができます。
また、スマートフォンで商品をスキャンして決済まで完了させることで、レジに並ばずにスムーズな買い物体験を実現しているリテール企業(小売企業)もあります。デジタル技術を活用することで、実店舗での購買体験を大きく向上させることが可能です。
チャットボットの導入
AIを活用したチャットボットは、オンラインと実店舗の両方で顧客サポートを強化する重要なツールとなっています。店舗内に設置されたタブレット端末では、商品の詳細情報やレコメンド情報を提供するだけでなく、在庫確認や取り寄せ注文にも対応可能です。
飲食店では、注文から決済まで、チャットボットを通じて完結できるシステムの導入が進んでいます。アレルギー情報の確認やカスタマイズオーダーの受付も容易になり、スタッフの業務効率化と同時に、顧客サービスの質も向上させることが可能です。
関連記事:AIチャットボットとは?メリット・活用のコツ・導入事例を解説
デジタルサイネージの活用
最新のデジタルサイネージは、単なる広告表示装置から進化し、インタラクティブな顧客体験を提供する重要なタッチポイントとなっています。顧客の属性や行動データにもとづいて、パーソナライズされたコンテンツを表示することで、より効果的な情報を提供できます。
アパレル業界では、デジタルサイネージを通じて商品の在庫状況をリアルタイムで確認したり、コーディネート提案を受けたりすることが可能です。また、オフィスや商業施設のトイレにデジタルサイネージを設置して、広告配信するケースも増えています。
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OMO戦略に欠かせない2つの要素

OMO戦略を成功に導くためには、以下の2つの要素が重要となります。
- データの一元管理
- マルチチャネル化
それぞれ詳しく解説します。
データの一元管理
OMO戦略の成功に欠かせないのが、顧客データの一元管理です。実店舗での購買履歴やECサイトでの閲覧履歴、問い合わせ履歴など、さまざまなチャネルから得られる顧客データを一括管理することで、顧客理解が深まりシームレスな対応が可能になります。
データの一元管理には、CRM(顧客関係管理)やMA(マーケティングオートメーション)ツールが役立ちます。これらを活用することで、データの収集から分析、活用までをスムーズに行うことが可能です。CRMは顧客との関係を構築・維持・強化するためのツールで、過去の購買履歴や問い合わせ内容などの顧客データを活用して、最適なサービスを提供します。一方、MAは顧客の行動データを自動で収集・分析し、最適なタイミングでのコミュニケーションを可能にします。
関連記事:顧客情報とは?一元化の重要性と管理に役立つ5つのツールを紹介
マルチチャネル化
OMO戦略の実現には、顧客との接点を複数用意し、それぞれのチャネルが相互に補完し合える環境を整備することが重要です。実店舗やECサイト、SNS、アプリなど、顧客が好むチャネルを自由に選択できることで、より自然な形での購買行動をうながせます。
たとえば、インスタグラムで商品を見つけた顧客が、実店舗で試着してから購入を決める、といった行動パターンにもスムーズに対応できます。また、各チャネルで蓄積されたデータを活用することで、顧客一人ひとりの嗜好や行動パターンに合わせてパーソナライズされたサービスの提供も可能です。
関連記事:マルチチャネルとは?メリットや活用のポイントなどを解説
OMO戦略に取り組む4ステップ

OMO戦略を効果的に導入するためには、以下のように計画的なアプローチが必要です。
- 顧客接点と顧客体験を把握する
- 現状の課題を明確にする
- 顧客体験を向上させる施策を考える
- システムやツールの導入を検討する
それぞれ詳しく解説します。
STEP1:顧客接点と顧客体験を把握する
OMO戦略の第一歩は、現在の顧客体験を詳細に把握することです。オンラインとオフラインの両方において、顧客がどのような接点をもち、どのような体験をしているのかを綿密に分析します。
たとえば、SNSでの情報収集からはじまり、ECサイトでの商品閲覧や実店舗での試着、最終的な購入に至るまでの一連の流れを時系列に沿って整理します。この過程では、顧客アンケートやインタビュー、行動ログの分析など、さまざまなデータソースを活用することが重要です。
STEP2:現状の課題を明確にする
顧客体験の把握が完了したら、そこから見える課題を整理します。たとえば、オンラインで商品を見たあとに実店舗を訪れた顧客のなかには、在庫がなくて購入できなかったケースがあるかもしれません。また、店舗スタッフがオンラインでの購入履歴を把握できていないために、適切な接客ができないといった問題が見える可能性もあります。
顧客からの苦情や要望、スタッフからの現場の声なども重要な情報源となります。これらの情報を整理することで課題の明確化ができ、効果的な改善策の立案につなげることが可能です。
STEP3:顧客体験を向上させる施策を考える
課題が明確になったら、それらを解決するための具体的な施策を検討します。この際、既存の顧客体験の改善だけでなく、新しい価値を提供できる施策もあわせて考えることが重要です。
新規顧客には、今まで体験したことのない利便性や価値を感じてもらえる新たな接点を提供します。既存顧客に対しては、過去の購買履歴や行動データをもとに、よりパーソナライズされた体験を提供できるように工夫します。
STEP4:システムやツールの導入を検討する
顧客体験を向上させる流れを設計したら、施策の実現に必要なシステムやツールを選定し、導入を進めます。この際、オンラインとオフラインで得たデータを一元管理し、分析・活用できるプラットフォームの導入を検討します。この際にCRMやMAツールなどを活用することで、パーソナライズされた体験を提供しやすくなるでしょう。
また、導入後の運用体制や効果測定の方法についても事前に検討し、計画に盛り込んでおくことが望ましいです。
関連記事:
・CRMとは?機能やメリット、活用法をわかりやすく解説【事例あり】
・マーケティングオートメーション(MA)とは?機能・事例を紹介
OMO戦略の成功事例|株式会社ビックカメラ

ビックカメラは2022年、「お客様の購買代理人としてくらしにお役に立つくらし応援企業であること」というパーパスの実現に向けて「DX宣言」を発表し、デジタル技術を活用した店舗とECの統合によるOMO戦略を本格的に推進しています。その中核として、Salesforce製品群を採用し、顧客基盤の整備からマルチチャネル化まで、包括的なデジタル変革を進めています。
具体的には、「Service Cloud」「Marketing Cloud」などを活用し、オフラインとオンラインを横断する顧客データの統合・分析を実現。これにより、顧客一人ひとりにパーソナライズされたレコメンドの提供や、場所や時間を問わないシームレスな購買体験の実現を目指しています。
さらに、AWSとSalesforceの連携により、AIを活用したカスタマーサポートの実証実験も開始。コンタクトセンターの顧客体験向上に取り組むとともに、「Lightning Platform」を活用したシステム開発の内製化も推進し、事業環境の変化に迅速に対応できる体制づくりを進めています。
関連記事:内製化で実現する「DX宣言」AI、システム連携でアジャイルな経営を創る
SalesforceのAI「Einstein」がOMO戦略の実現をサポート

Salesforceが提供する「Service Cloud」は、信頼のおけるAI「Einstein」と併せて活用することで、より高度なOMO戦略の実現を可能にします。このプラットフォームでは、顧客との接点におけるデータを自動で収集・分析し、パーソナライズされたサービスを提供できます。
たとえば、顧客がオンラインで問い合わせをした際の内容や、実店舗での購買履歴などを統合的に管理し、AIが最適な対応方法を提案するのです。これにより、コンタクトセンターのオペレーターは、あらゆるチャネルに対応して顧客一人ひとりの状況に応じた適切なサポートを提供できます。このような機能により、業務効率の向上とコスト削減を実現しながら、顧客満足度を高められるでしょう。
関連記事:【Salesforce Einstein】Salesforceが開発するAI、Einstein(アインシュタイン)ってなんだ?
顧客満足度向上を目指してOMO戦略の導入を検討しよう

デジタル化が進む現代において、OMO戦略の重要性は今後さらに高まると考えられます。オンラインとオフラインの境界を越えた、シームレスな顧客体験を提供することは、企業の競争力を維持・向上させる上で不可欠な要素と言えます。
OMO戦略の導入には、初期投資や人的リソースの確保などさまざまな課題がありますが、段階的なアプローチを取ることで実現可能です。OMO戦略では、あくまでも顧客満足度の向上を目指し、そのための手段としてデジタル技術を活用する視点をもつことが成功への鍵となるでしょう。
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