Key Takeaways
福井県福井市。山の斜面を崩落から守る「法面(のりめん)保護工事」を主力とする従業員50人ほどの建設会社が明和工業です。10年前まで、その営業は「安い価格でしか戦えない」集団でした。顧客のもとへ見積書を運ぶだけの、いわば「伝書鳩」……。
2代目社長の土本謙吾さんが、Salesforceに一目惚れしたのは、そんな会社をなんとか立て直そうともがいていた頃でした。反対を押し切り、専任ゼロ、IT素人から始めた小さな会社のデジタル変革は、8年で売上を約6割、社員の平均給与を38%押し上げました。土本さんと、プロジェクトを推進した中村妙子さんに話を聞きました。
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目次

営業は、見積書を運ぶ 「伝書鳩」だった
──まず、御社の事業を教えてください。
土本:福井に本社を置く建設会社で、主力は法面保護工事です。山の斜面を保護・補強して、土砂災害から人々の暮らしを守る仕事。商圏は福井から、滋賀、京都、大阪、兵庫、それに北陸三県。従業員は50人ほどです。
ほかに、売上目的ではなく地域貢献に近い形で防災の取り組みをしていたり、福井医大前でカフェを一軒やっていたりします。カフェは「日中は社員がみんな現場に出ていて誰もいない。それなら、いっそのこと一般のお客様に開こう」という発想から始めました。

明和工業株式会社 代表取締役社長
──Salesforceを導入する前は、どんな課題を抱えていたのですか。
土本:恥ずかしい話ですが、うちの営業担当者は「安い価格」でしか戦えなかったんです。「価値とは、安いことだ」と本気で思い込んでいた。
私は、ずっと「それは違う」と言い続けてきました。でも、反論しようにもリアルタイムで見せられる数字が、1つもなかった……。
営業の管理はExcelだけ。書いてあるのは顧客名と工事場所と見積金額、加えて根拠のない「確度」くらい。なぜ受注できたのか、なぜ失注したのかも分からない。今月の会議で「これは重要案件です」と言っていたものが、来月には黙って消えていて、つじつまを合わせるように別の角度のわからない案件が現れる。
中村:当時の日報は「どこそこへ営業に行きました」としか書かれていなくて。本人すら、その日に何を話したのかを覚えていませんでした。
土本:要するに、営業担当者は見積書を運ぶだけの「伝書鳩」だったんです。新規開拓と言いながら、落札した会社に「見積もりさせてください」と頭を下げに行くだけ。マーケティングなんて言葉すら存在しない世界でした。
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「世の中に、こんなものがあったのか」。Salesforceとの出会い
──そこから、なぜSalesforceを選んでいただけたのですか。
土本:社長を継ぐ前から、私は勝手に「管理室」という私直下の部門をつくって、工事と材料の部署から1人ずつ集めて、日々の情報を吸い上げていたんです。それで赤字からギリギリ黒字までは戻せた。
「自分が動き回らなくても、現場の情報がデータとして集まってくれば、もっと会社は良くなる」。そう思っていた矢先に、福井で開かれたテック系のイベントでSalesforceと出会いました。
あるブースで案件管理の仕組みを見て「いいな」と思い、隣りをのぞいたらSalesforceがあった。見た瞬間、「えっ、こんなに把握できるの? しかも、自分で好きにカスタマイズできるの?」と。一目惚れでした。
それまで現場管理のソフトも入れたことはあるけれど、カスタマイズできないから、まったく定着しませんでした。これなら自分たちで好きに作れると聞いて、「ライセンス料がいくらとか、もうどうでもいい。とにかく欲しい」と。世の中にこんなものがあったのかと思いましたよ。
──社内に、反対の声はありませんでしたか。
土本:ありました。まず「高い」と。それから、創業期から父と一緒にやってきたプロパーの役員たちが、理屈ではなく感情で反対するんです。「営業は、そんなものじゃない」「足で稼いでなんぼだ」と。
でも、私は社長ですから強行突破しました。納得はされませんでしたけどね。理屈で反対するというより、新しいことをしようとしている私が、ただ不安だったんだと思います。

専任ゼロ、“ド素人” からの定着
──導入には、専任の担当者が必要と判断しましたね。
土本:ベンダーから「兼任ではなく、専任を置かないと使いこなせない」と最初に言われていました。それで慌てて求人を出して、採用したのが中村です。
中村:求人票には「ホームページとクラウド管理」と書いてあって、「クラウドって何やねん」と思いましたが、時給と勤務時間、場所だけで決めました(笑)。入ってから「あ、建設業の会社なんだ」と知ったくらい何も知りませんでした。

明和工業株式会社 経営企画室室長
──まず、何から始めたのですか。
土本:中村には、いきなりSalesforceを触らせるのではなく、まず業界を教えました。入札とは何か、土木とは何か。そして、「Salesforceで社員を監視したいんじゃない。顧客が本当は何を求めているのかを、知りたいんだ」とも伝えました。
中村:最初はカタカナばかりで、言われるまま画面を押しているだけ。「今日、私は何をしたんだろう」という状態でした。でも、自分でおもちゃのように触り出してから、「あ、ここにこう入力したら、こういう結果が出るのか」と腑に落ちて。そこから、面白くなったんです。
土本:Excelは、Salesforceへの移行と同時に、完全にやめました。もう、入力するしかない。日報の代わりにしたので、入力しなければ欠勤扱いです。
中村:私は、必須にした項目を入れないと保存できない、ちょっと “意地悪なバージョン” をつくりました(笑)。ただ、項目名は誰が見ても分かるように「何をしたか」「相手の反応・困りごと」「次回予定」と、とにかくシンプルに。特別難しいことは、何もしていません。
土本:もちろん、最初は「未定」の山ですよ。だから営業会議で、なぜ書く必要があるのかを毎回しつこく説明した。「営業は、これまでずっと一人ぼっちだった。でも、状況を共有して、これからはみんなで取りに行こう」と。

記録が変われば、顧客への質問が変わる
──Salesforce定着の突破口は、何だったのですか。
土本:転機は、一番若い営業担当者が一番使い倒し始めたことです。
自分の過去の行動データを全部振り返りながら動くようになって、気づけば先輩たちを業績で抜いていた。それまで「鬼門」とまで言われた商圏の滋賀で、です。それを見た先輩たちも「やらないとまずい」と目の色が変わり、立場が逆転した。3年もかからなかったと思います。
中村:昔の日報は「行きました」だけ。でも、Salesforceにはすべてが時系列で残るので、「あのお客様には、しばらく行けていないな」「あの時こう言われて断られたから、次は違う提案をしよう」と、自分で考えて動けるんです。
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土本:「記録が変われば、顧客への質問が自然と変わる」んですよ。それまで「やっぱり金額ですよね」「他社さんはおいくらですか」と価格の話ばかりだった営業担当者が、「どんな課題がありますか」「どうなりたいですか」と聞くようになった。価格探求から課題探求へ変わったんです。
今では、見積もり依頼が来ても「これは、今のうちが取りに行く案件じゃないよね」と、自分たちのポジショニングを冷静に見ています。「今は3番手だ。じゃあ、2番手に上がるために何をしようか」「あのお客様は、3年後に落とそう。そのために、今、何をするか」と。目先の「勝った・負けた」ではなく、2年後、3年後に勝つための楔を打てるようになった。Salesforceのおかげです。

売上6割増、利益140%増、給与38%アップ
──導入から8年。成果を教えてください。
土本:おかげさまで、導入から8年で、売上は約6割増、利益は140%増、社員の平均給与は38%アップしました。

土本:利益が売上以上に伸びたのは、安値受注をやめたからです。提案型の商談が増えて、無駄なロスも減った。結果として、利益率は売上の伸びのほぼ2倍になりました。
また、給与を上げられたのも大きかったです。業績が上がっても給料を上げない企業はたくさんありますが、会社が良くなるにはまず人が良くならないといけないと私は思っているので。効率化が生産性を生み、業績が伸び、それを社員に還元する。その好循環を、ようやく回せるようになりました。
──これから、Salesforceをどう生かしていきますか。
土本:今は売上の8割が下請け、元請けは2割ほどですが、2030年度までに、売上の半分を元請けにしたい。そのためにSalesforceで、現場の進捗や材料のロス率まで分析して、協力業者にもフィードバックしたいんです。
当社が見たい数字は、協力業者さんにとっても宝になる。「明和工業と仕事をすれば、自分たちも成長できる」。そう思ってもらえることが、当社と仕事をする価値だと思うんです。
活用するSalesforceのプロダクトも広げています。データ分析・可視化プラットフォームの「Tableau」はカフェ事業で、「Slack」は全社のコミュニケーションインフラとして使っていく。AIエージェントプラットフォーム「Agentforce」もまずは商談のロールプレイングから試すつもりです。
中村:もうSalesforceがないと何も始められません。新しい子会社もカフェも、「まずSalesforceでどう管理するか」から考える。それを抜きにして事業を立ち上げるなんて、私には考えられません。

土本:これからホールディングス化して、会社を増やしていく構想もあります。でも、不思議と怖くない。Salesforceさえあれば、たとえM&Aをしても、変な間違え方はしない。そういう安心感があるんです。
やりたいことが見えない経営者ほど、怖いものはない
──最後に、導入を迷っている経営者にメッセージをいただければと思います。
土本:偉そうなことは言えませんが「やりたいことが見えない経営者ほど、怖いものはない」と私は思っています。
以前、何人かの社長とお話ししたとき、「何を入れたらいいのか分からない」と悩んでいる人がとても多かった。でも、それはやりたいことが決まっていないから、何がいいのかも決められないだけなんです。安いか高いかだけで選ぼうとしている人もいらっしゃいました。「入れても、どうせ動かない」と言う人もいる。
そもそも私がSalesforceを入れたのは、会社の成長だけじゃなかった。「これを使えば、お前はちゃんとした営業担当者になれる」。社員一人ひとりに、そう言いたかったから。当社に来てくれた社員たちに、自分の仕事に誇りを持ってほしかった。
たとえ将来、よそへ転職したとしても、どこでも通用する力をつけてほしい。会社が良くなるにはまず、人が良くならないといけませんから。
まずは自分がどうしたいのか、それを徹底的に突き詰める。そのうえで、覚悟をもって投資してやり切る。その中で、Salesforceは経営をサポートするパートナーにきっとなります。

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