機会損失(チャンスロスまたはオポチュニティロス)とは、商談や販売機会を逃してしまい、将来獲得できたはずの利益を失うことです。企業が成長を続けるためには、機会損失の発生を抑え、日々利益を積み重ねることが大切です。
データを用いず勘や経験に頼った意思決定を行っていると、ニーズの理解不足や業務の管理不備などの内的要因が膨らみ、機会損失が発生する確率が高まります。
本記事では、営業における機会損失の概要と発生原因、防ぐ方法を解説します。機会損失を防ぐためには、
データ活用が重要です。自社のデータ活用状況を踏まえつつ、機会損失を防ぐ方法として自社に必要な取り組みを検討してみてください。
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目次
機会損失とは

機会損失(チャンスロス)とは、営業において商談や販売機会を逃し、将来獲得できたはずの利益を失うことを指します。営業に限らず、ビジネス分野では幅広く用いられる言葉です。
たとえば、準備不足で顧客ニーズを反映しきれていない提案を行って失注したり、リード(見込み顧客)へのフォローアップが遅れ、競合に契約を取られたりするケースが機会損失に該当します。
機会損失は利益成長を妨げるだけでなく、ブランドの信頼性や市場シェアの喪失にもつながるため、予防が重要です。営業においては、営業プロセスのシステム化やデータ活用などによって、誤った意思決定や行動を予防する必要があります。
逸失利益との違い
機会損失と逸失利益は、いずれも将来得られるはずだった利益に関係しますが、意思決定や行動が関与しているかどうかが異なります。
逸失利益は、不法行為や自然災害など不測の事態によって失われた利益を指します。たとえば、地震の影響で設備が壊れ、予定していた製品を出荷できなくなったことで発生した損失が逸失利益です。
一方、機会損失は企業の判断が原因で失われる将来の利益を指します。そのため、企業の意思決定や行動と関係なく発生する逸失利益とは意味が異なります。
機会費用との違い
機会費用と機会損失はいずれも将来得られるはずだった利益に関係しますが、指し示す対象が異なります。
機会費用は、実際には選択されなかった最善の行動を取った場合に得られたはずの利益です。
たとえば、限られたリソースを「新規顧客の開拓」か「既存顧客へのサービス強化」のどちらかに使う場合、新規顧客開拓を選んだとします。
「既存顧客へのサービス強化」がもっとも利益をもたらす選択肢だった場合に得られたはずの利益が機会費用です。「新規顧客の開拓」が計画通り進まず、目標収益を達成できなかったのであれば、目標と実際の収益の差額が機会損失に該当します。
具体例からわかる機会損失を防止する重要性

以下の事例をもとに考えると、機会損失を防止する重要性がわかります。
ある企業では、自社製品が大きいため営業先に製品を持参せず、カタログを活用して製品を紹介していました。ところが、実物を紹介できないことから、商機を逃すことがあったのです。製品に興味を持ってもらえても、実物を見るために自社まで来てもらう必要があり、商談から成約まで時間がかかっていました。 そこで、コンピュータが生み出す仮想空間を体験できるVRを使うことにしたのです。VRなら、製品を持参しなくても、目の前に実物を表示させられます。また、アニメーションを使った紹介で、製品の動きや導入イメージが直感的にわかります。 これにより、その場で契約を決めてくれる顧客が増え、機会損失の防止に成功しました。 |
出典:働き方改革応援レシピ~IT編~(愛知労働局)(2025年1月7日に利用)をもとに作成
本事例では、実物さえ見てもらえれば獲得できていた顧客がこれまで多数いたことが推測できます。これを「仕方ない」といって放置すると、企業の収益成長は期待できないでしょう。
今回は、知恵を絞りIT機器を導入したことで、実物を見てもらうのと同じ状況を作り上げることに成功しました。その結果、機会損失の発生を防ぎ、本来得られていた利益を享受できるようになったのです。
機会損失額の計算方法

機会損失額を定量的に把握することで、改善すべきポイントが明確になります。
営業では、以下の計算式を活用して具体的な損失額を算出しましょう。
機会損失額 = 対応できなかった問い合わせ数 × 受注率 × 平均単価 |
たとえば以下の場合、機会損失額は100万円となります。
- 対応できなかった問い合わせ数:50件
- 受注率:20%
- 平均単価:10万円
また、以下の計算式では、機会損失率の算出が可能です。
機会損失率 = 対応できなかった問い合わせ数 ÷ すべての問い合わせ数 |
具体的な機会損失額や割合がわかれば、課題の特定から改善までのスピードを向上させられるはずです。
これらのデータを分析して、営業プロセスや業務の改善に取り組みましょう。
機会損失を生む原因

ここでは、営業における機会損失を生む原因を大きく2つに分けて解説します。
- 外的要因
- 内的要因
外的要因は対応が難しいですが、内的要因は比較的対策を講じやすい特徴があります。原因に対する仮説を立て、改善を繰り返せば機会損失を防げるので、参考にしてみてください。
外的要因
外的要因とは、企業の意思決定とは関係のない外部の要因のことで、コントロールしにくい特徴があります。
以下は、外的要因によって起こる機会損失の例です。
- 顧客の都合による契約終了
- 社会情勢の変化による製品の利用機会の減少
- 予期せぬ競合他社とのバッティング
たとえば、新型コロナウイルスの流行によって巣ごもり需要が高まり、飲食店や旅行会社の利用が大幅に減少しました。これは、外的要因による機会損失です。
また、予期せず競合他社と同時期に似た製品をリリースしてしまうことで、本来獲得できていたはずのシェアを奪われるケースも該当します。
ただし、このケースでは、市場や顧客のニーズに対する調査や理解が不足しているといった内的要因が絡むこともあります。内的要因は外的要因よりも対処しやすいため、要因を正確に分析したうえで改善すべきポイントが明確化することが大切です。
内的要因
営業における機会損失の内的要因には、たとえば次の4つがあります。
- ニーズの理解不足
- 営業プロセスの不備
- フォローアップの不備
- リード管理が不十分
機会損失の発生が疑われるときは、すべての要因をチェックし、優先順位をつけて改善に取り組みましょう。
ニーズの理解不足
顧客や市場のニーズを正確に把握できていないと、さまざまな機会損失が発生するおそれがあります。
たとえば、提案内容が顧客ニーズに合わずミスマッチが生じると、よりニーズを満たせる競合他社に顧客を奪われるケースがあります。また、アップセル・クロスセルの機会を逃すことで、計画通り収益を拡大できない場合もあるでしょう。
ニーズを正しく理解し、適切な提案を行うことが、機会損失を防ぐための重要なポイントです。そのためには、顧客分析が必要となります。
以下の記事では、顧客分析の手法を解説しているので、参考にしてみてください。
顧客分析とは?7つの手法と進める手順、活用できるツールについて解説
営業プロセスの不備
商談の進捗が適切に管理されていない、顧客の優先順位付けが曖昧など、営業プロセスに不備があると、さまざまな機会損失が発生するおそれがあります。
たとえば、商談の進行が適切でないことで契約機会を逃したり、顧客対応が遅れることで信頼を失ったりするでしょう。また、情報共有が不十分で対応が漏れると、潜在的な収益機会を逃すことも考えられます。
営業プロセスを見直し、標準化および管理体制の強化を図ることで、機会損失を防ぐことが重要です。
フォローアップの不備
再提案や顧客へのアプローチのタイミングを逃すといったフォローアップの不備は、機会損失につながります。
たとえば、担当者のリソース不足や人員不足、適切なフォロー体制が未整備などの状況下では、迅速かつ的確なフォローアップができません。顧客の関心が薄れ、競合他社に顧客を奪われるリスクも高まります。
フォローアップ体制の見直しやリソースの最適化により、機会損失を防ぐことが重要です。
リード管理が不十分
リード管理が不十分だと、営業の効率が低下し、機会損失を招くおそれがあります。
たとえば、リードの優先順位付けができておらず重要な商談のタイミングを逃したり、初動対応の遅れによって顧客の関心を失ったりするケースがあります。その結果、有望なリードを競合他社に奪われるリスクも高まるのです。
リード管理の徹底と優先順位の明確化が、迅速な初動対応につながり、機会損失の防止につながります。
機会損失を防ぐ方法

ここでは、営業における機会損失を防ぐ方法を4つのカテゴリに分けて解説します。
- 営業戦略を見直す
- データ管理体制を整える
- 営業プロセスをシステム化する
- マーケティングとの連携を強化する
営業戦略からプロセスまでを見直し、機会損失を最小限に抑える体制を構築しましょう。
営業戦略を見直す
営業戦略を見直すことで、顧客ニーズを正確に把握したうえで営業活動を行えるようになり、機会損失を防ぐことが可能です。
たとえば、CRM(顧客管理システム)を活用して顧客データを一元管理し、購入履歴や行動データを分析すると、顧客や市場に対する理解が深まるはずです。顧客セグメントごとにニーズを分析すれば、ターゲティングの精度を向上させられるでしょう。
価格やサービス動向を調査し、差別化ポイントを明確化する競合分析も定期的に行います。
営業戦略を根本から見直すことで、営業活動の改善につながり、顧客ニーズに沿ったアプローチを実現できるはずです。
以下の記事では、営業戦略の立て方を解説しているので、あわせてご覧ください。
営業戦略・戦術の立て方と役立つフレームワーク16選|具体例も紹介
データ管理体制を整える
データ管理体制を整備すると、データに基づく意思決定ができるようになり、機会損失につながる誤った判断を抑制できます。
たとえば、SFA(営業支援システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用して、フォローアップ率や成約率などのKPIの達成状況を可視化します。メンバーが目標を意識して業務に取り組めるだけではなく、進捗を正確に把握した営業マネージャーによる適切なサポートを受けられるはずです。
同時に、リードや顧客の行動履歴や購入率などもデータとして一元管理すれば、リアルタイムで進捗状況を確認できる仕組みを構築します。
問い合わせや商談依頼があれば即座に対応できる担当者体制の明確化も大切です。データを収集・蓄積するだけではなく、チャットツールやタスク管理ツールなども駆使して、リアルタイムに情報共有を行いましょう。
営業プロセスをシステム化する
営業プロセスをシステム化すると、営業メンバーの対応を標準化できるため、担当者の経験差による機会損失を防ぐことが可能です。
たとえば、マニュアルを作成し、リード対応から商談準備、提案、フォローアップまでをテンプレート化すれば、経験が浅いメンバーでも安定した顧客対応ができます。営業で起こりやすい業務の属人化防止にもつながるでしょう。
また、SFAで商談開始からクローズまでの進捗を可視化し、営業活動の評価と改善を繰り返すことで、営業スキルの標準化も期待できます。
そのほか、フォローアップや提案時に使用するトークスクリプトを整備・活用も営業プロセスのシステム化に含まれます。
営業プロセスのシステム化では、営業データや情報を一元化できるシステムやツールが必要です。ツールを活用すれば、営業プロセスのシステム化に留まらず、データに基づく意思決定が促進され、誤った判断による機会損失予防できます。
マーケティングとの連携を強化する
マーケティングとの連携を強化し、役割分担を整えれば、有力なリードを逃すといった機会損失を防ぐことが可能です。
連携を強化するためには、営業とマーケティングが密にコミュニケーションを取らなければなりません。たとえば、自社が求めるリードの質や期待値を共有し、双方のKPIをすり合わせたり、キャンペーンの結果やリード育成の進捗をフィードバックしたりです。
また、リード管理のフローを明確化し、役割分担を明確化することも大切です。マーケティングから営業へのリード移行プロセスを定義づけ、確度の高いリードを営業に引き渡す仕組みを整備しましょう。
ほかにも、確度の高いリード(ホットリード)に対して優先的にアプローチするためには、スコアリングが必要です。マーケティングが収集した市場や顧客データを営業にも共有し、営業戦略に反映できるようにしましょう。
以下の記事では、ホットリードの抽出工程であるリードクオリフィケーションについて解説しているので、あわせてご覧ください。
リードクオリフィケーションとは?3つの手法や注意点、効果を解説
機会損失を防ぐためにはデータ活用が重要

機会損失を防ぐ方法を実践するためには、データ活用が欠かせません。データに基づいた意思決定を行うことで、判断ミスによる機会損失を防ぐことが可能です。
たとえば、商談進捗データを分析して停滞ポイントを特定し、適切な介入を行うことで、案件の失注を防げます。また、リードスコアリングをもとに、高確度のリードを優先的に扱えば、機会の最大化を期待できます。
客観的なデータが営業活動の根拠となり、意思決定の精度を向上させるのです。
以下の記事では、データ活用の成功ポイントを解説しているので、参考にしてみてください。
データ活用で成功するには?メリットやデメリット、手順、事例を紹介
機会損失の防止に役立つAIツール

機会損失の防止に役立つツールはさまざまありますが、なかでもAIを搭載したツールは営業活動の効率化をより促進します。
ツールの例は、以下のとおりです。
ツール | 特徴 |
---|---|
Tableau | ・データの可視化と分析を行うビジュアル分析ツール・営業データを簡単に可視化し、意思決定を迅速化できる |
Data Cloud | ・顧客データをリアルタイムで統合・分析するプラットフォーム・購買履歴や行動データを活用したターゲティングやパーソナライズされた対応が可能 |
Sales Cloud | ・営業プロセスを一元管理するSFA・商談からフォローアップまでを一貫して管理でき、リードの優先順位付けや商談の可視化が可能 |
いずれも、データの活用を促進し、営業活動の効率を向上させます。AIを搭載しているため、データの分析や可視化も自動で実行できます。データ分析の専門的な知識がなくても、AIが意思決定をサポートする点も魅力です。
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AIツールの活用によって機会損失を防いだ事例

DXを推進する西松建設株式会社(以下、西松建設)では、営業活動の効率化と属人化を防ぐための業務プラットフォームとして『Salesforce』を導入しました。
それまでは、営業活動を記録する仕組みがなく、報告も個人に委ねられていました。メンバーの営業活動をリアルタイムで把握できず、上長が適切な指示や指導ができずに、商談機会を逃してしまうおそれもあったのです。
『Salesforce』に標準搭載されているビジネスチャットツール『Chatter』を活用することで、報告と連携がスムーズになり、営業活動の重複や引継ぎミスによる取引機会の損失などを回避できています。
参考:営業情報の可視化・共有で個人の力に依存していた建築営業文化を刷新
まとめ:AIツールを活用して機会損失を防ごう
営業における機会損失は、将来的に獲得できたはずの利益を得られないだけではなく、企業のイメージダウンや競合優位性の低下など、さまざまな問題につながります。
機会損失を最小限に抑えるためには、営業戦略の見直しやプロセスの標準化など、さまざまな改善が必要です。課題や改善点を見つけるためには、日頃から顧客情報や営業データを収集・蓄積しておく必要があります。
そこで役立つのが、BIツール『Data Cloud』やデータ分析ツール『Tableau』、そしてSFAである『Sales Cloud』です。ツールを活用してデータの収集から分析・可視化を自動化できれば、課題発見・改善の速度も迅速化できます。
営業組織を強化するためには、データ活用が必須です。以下の資料では、データ活用を含む営業力の強化方法を解説しています。機会損失のヒントにもなりますので、ぜひご覧ください。
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