2026年6月9日、ザ・プリンス パークタワー東京。「Agentforce World Tour Tokyo 2026」の基調講演は、AIパイロットの95%が本番稼働に至らない(MIT調査)という現実を起点に、業務やデータをつなぐ「Headless 360」、そしてAIエージェントが働く「職場」としての構想を示した約90分です。
では、この講演を中立的な立場で見たとき、どう映るのか。本記事では、UXデザインを軸にAIの社会実装を独特の切り口で発信し続けるTHE GUILDの代表、深津貴之さんに話を聞きました。
基調講演 Welcome to the Agentic Enterprise
企業の競争力は、人間だけでなく、AIエージェントによる「デジタルの実行力」をも駆使する時代へ
Speaker’s Profile

THE GUILD代表。UI/UXデザインを専門とし、企業のプロダクト設計やブランド体験の構築を数多く手がける。近年は生成AIの実務活用・社会実装をめぐる発信でも知られ、テクノロジーと人間の関係を一貫したテーマとして論じている。
基調講演で評価したポイントは?
まず感じたのは、SalesforceがAI導入に本気で踏み込んできたなと。失うのを恐れずにアクセルを踏んだ。非常に良いなと感じました。

講演内で、「AIパイロットの95%が本番に至らない」というMITの調査を引用していましたが、この刺激的な数字にも納得。『本番』が何を指すかにもよりますが、雑にプロンプトを打って終わりみたいな企業は多い。セキュリティの制約から、活用方法が限定的な人もいる。実務で効果を発揮しているまでには至っていないという感触で、この数字には納得でした。
裏を返せば、講演で示された事例の定型業務の89%を「Agentforce Service」が処理するCanada Gooseや、営業準備時間を40%削減したEngine、サプライヤーオンボーディングの85%をAgentforce Operationsが担うDellといった企業は、その95%の壁を越えた側の風景だということでしょう。
▶︎基調講演のサマリー記事はこちら。
▶︎業界別、AI活用事例21選はこちら。
基調講演では、複数の新プロダクトやテクノロジーが発表されましたが、最も評価したのは、「Headless 360」です。
Salesforceを開かずとも、ClaudeやMicrosoft Teamsといった外部のツールからSalesforceのデータや機能を呼び出せるようにする。「Salesforceを操作しなくてもいい。外から呼び出せばいい」という考え方は、正しいアプローチだと感じました。
仕事の入り口を自社のUIで縛るのではなく、あえて手放すという判断は、思い切りも必要だったと思いますが、ユーザー環境を考慮すると理にかなっています。
基調講演 Welcome to the Agentic Enterprise
企業の競争力は、人間だけでなく、AIエージェントによる「デジタルの実行力」をも駆使する時代へ
AIエージェントの完成度をどうみた?
何も評価していないというか、気にしていません。AIエージェントの性能というのは、放っておけばどんどん進化していくものなので。ここに対して現時点で何かを評価しようとは思っていませんね。
極端に言えば、現時点のAIエージェントになんらかの問題があったとして、寝ていれば数日で解決する類いのところだと思っているので。

人が担う役割は?
人だからこそできる領域は、確実に減っていくでしょう。「決断は人にしかできない」とも言われますが、僕はそう思いません。人よりも正確で合理的な決断をAIができる場面はきっと増えていくでしょうし、人は徐々にその決断もAIに委ねていく気がします。
また、人との信頼関係づくりもAIに任せられる時が来るかもしれません。信頼関係の定義を「裏切らない。約束したことが遂行されること」とすると、人よりもAIのほうが上回る世界がある気がしています。
テックカンパニーの多くは、信頼性や安全性に対する研究・開発に余念がありません。今後、AIはもっと高い信頼性を保持することになるでしょう。そうなれば、信頼関係の構築・維持ですらAIのほうが長けている場合も出てくるでしょう。
SalesforceはCRMを軸に事業を展開している会社ですから、信頼できるAIを実装し、かつそれを認知させることができれば、優位性はあるでしょう。SaaS is Deadと言われ、Salesforceの株価は落ちていますが、僕はむしろ買いたいくらいですね。
とはいえ、実証は必要。Salesforceを使ったユーザー企業の業績が上がることをしっかり証明し、Salesforce自身の売り上げも伸ばし続けることが重要ではあります。
人はどうあるべきか?
「尊厳をアップデートする」必要があると思います。人がやってきたことをどんどんAIができるようになり、むしろ人よりも上手になってくると、これまで重要だと思っていたことや、やりがいを感じていたことが破綻する。
考えたり、作ったりすることをAIに委ねた後に、自分は何をやりたいか、どんな価値を保有しているのかを真剣に考えることに時間を費やしたほうがいいでしょう。でなければ、「自分らしく生きる」ことすら難しくなる。人は新たなやりがいを発明しなければなりません。(談)
基調講演 Welcome to the Agentic Enterprise
企業の競争力は、人間だけでなく、AIエージェントによる「デジタルの実行力」をも駆使する時代へ









