「勘と経験」の営業から抜け出せていますか?
AI時代の営業改革は、商談フェーズの設計から始まります。ワークシート付きで勝率アップの実践ステップを解説します。
目次
営業革命の前兆「購買革命」:買い手が先に変わる
「AIによる営業効率化」「生産性向上のためのAI導入」といった言葉は、多くのITベンダーから聞くようになりました。
しかし、AIという技術に踊らされ、AI導入という手段が目的化してはいないでしょうか?
そもそも、営業現場にはなぜAIが必要なのでしょうか?
その問いを解くには、少し歴史を振り返る必要があります。
提案型営業、ソリューション営業、コンサルティング営業など、営業スタイルの変化は、これまでも幾度となく起きてきました。理由は買い手が変化したからです。買い手は技術の発展、世界情勢への対応のため、購買方法を変化させてきました。より安く、より良いものを求める買い手の変化に対応するために、売り手、つまり営業が変わってきたのです。
だとすれば、AI時代の営業を考えるうえでも、まずAIで買い手がどう変わったかをきちんと理解することから始めるべきでしょう。売り手の変化を論じるのは、その後です。
本記事では、まずいま起きている買い手の変化を、公表されている調査データから見ていきます。そのうえで、営業の役割、すなわち製品説明から「購入の支援」へ、「御用聞き」から「仮説提案」へと営業スタイルを変える必要性について、整理してご紹介します。
買い手はいつも先に変わる:AI Overview が変えたもの
購買行動に大きな影響を与えた直近の変化は、なんといっても検索行動の変化でしょう。
2024年5月(日本では8月)、Googleは検索結果の上部に「AI Overview」と呼ばれる要約を段階的に表示するようになりました。用語解説や活用メリットなどの情報探索型検索では、AI Overviewが表示された場合に外部サイトのリンクがクリックされにくくなる傾向が報告されています。
Ahrefsが2025年4月に発表した30万キーワードの分析では、AI Overviewが表示される検索において、検索1位ページの平均クリック率は、AI Overviewがなかった場合の推計値に比べて34.5%低いと報告されました。同社が同じ手法を2025年12月のデータで再実施し、2026年2月に発表した更新調査では、この差は58%に達しています。
Pew Research Centerが2025年7月22日に発表した調査「Google users are less likely to click on links when an AI summary appears in the results」(英語)によれば、AI要約が表示された検索結果ページへの訪問のうち、通常の検索結果リンクがクリックされた割合は8%にとどまり、AI要約が表示されなかったページへの訪問の15%からおよそ半減しています。さらに、AI要約が表示された検索結果ページへの全訪問のうち、AI要約内のリンクがクリックされた割合は1%にとどまります。
検索内容によっては、AI要約が表示された検索結果で、ユーザーが外部サイトをクリックせずに検索行動を終えるケースが増えています。こうした行動変化は、シンプルな内容のページでトラフィックを集め、Webフォーム経由で顧客情報を収集する従来型B2Bマーケティングの前提を見直す必要性を示しています。
また、2つ目の大きな変化は購買担当者自身もAIを積極的に使い始めたことです。

Forresterが2025年に実施した約18,000人のグローバル調査に基づくレポート『The State Of Business Buying, 2026』(2025年12月8日公開)(英語)では、B2Bバイヤーの94%が購買プロセスのなかで何らかのかたちでAIを利用しています。
6senseが約4,000人のB2Bバイヤー(回答対象となった購買案件の金額中央値は20〜30万ドル)を対象に実施した『2025 B2B Buyer Experience Report』(英語)でも、94%がソリューション調査にLLM(大規模言語モデル)を利用したと回答しています。
数字の取り方は各社で異なります。しかし、AIを使わない購買担当者はもはや少数派です。
しかも購買担当者にとってAIは、単なる検索の効率化ツールではありません。製品・サービスの比較、RFP(提案依頼書)の作成、コストシミュレーション、導入計画の初期案、価格交渉のスクリプトなど、かなりのことは、営業に聞かなくても済んでしまう時代になりました。しかもレスポンスが早く、自身の知識に合わせて丁寧に説明してくれます。
購買プロセスが平均61%まで進んだ時点で呼ばれる:営業の「購入の支援」という新しい仕事
もう一つ、注目すべき数字があります。
6senseの『2025 B2B Buyer Experience Report』(英語)によれば、買い手が売り手と初めて接触する時点は、平均で購買プロセスの61%地点でした。約4,000人のB2Bバイヤー(回答対象となった購買案件の金額中央値は20〜30万ドル)を対象としたグローバル調査の結果です。日本のB2B市場もいずれ、あるいはすでに同じ方向に動いていると考えたほうがいいでしょう。
61%は、営業にとって残酷な数字です。かつて営業は、検討の初期段階から顧客と接点を持ち、購買プロセスを一緒に進めることができました。購買担当者に比べて、業界知識、製品知識が豊富だったからです。しかし、今は、購買プロセスの平均で前半6割が営業との直接接触なしに進みます。
しかも、変化は数字だけではありません。買い手の感情も変わってきています。
かつての買い手は「他にもっと良いものがあるのではないか」「もっと安く買えるのではないか」という”迷い”を抱えていました。しかし、AIで情報武装した今の買い手はむしろ、「間違った選択をして社内で責任を問われるのではないか」という”怯え”を抱えていると言われます。なぜならAIは正しいかもしれませんが、そもそも買わなければ、つまり現状維持をすれば責められることはないのに、購入したら責任を問われるからです。
では、そのような状況で営業に期待されていることは何でしょうか?
私はここに、営業の新しい役割があると考えます。海外の営業論では「バイヤー・イネーブルメント(Buyer Enablement)」と呼ばれる領域です。
要するに、お客様の社内で購買プロセスが進まなくなる理由を、一つひとつ潰していく仕事です。売り込みでもなく、単なるヒアリングでもない、第三の役割です。

具体的には、6つの要素があります。
1. 現状の課題の整理・言語化
購買担当者は現状に違和感を持ちつつも、「現場の課題は何で、どう解決すべきか」を社内にうまく説明できません。多くの案件を見てきたプロの営業として、「もしかして御社の課題はこういう構造ではないですか?」と課題の整理や言語化を支援する。ここに営業の役割があります。
2. 現状維持のリスクの評価
「このままだとどうなるのか」を数字で見積もれないと、稟議は通りません。日本企業では「変えない」より「変える」リスクの方を大きく見がちです。「変えなかった場合、3年後はこうなる可能性があります」という試算を一緒につくりましょう。
3. 選定基準の策定
「解決するためのポイント・条件」がわからないと、比較検討ができません。「他社さんはこの項目で比較されることが多いですよ」と選定表の雛形を差し出せる営業は、それだけで大きな価値を持ちます。
4. 予算の確保と稟議資料の作成
費用対効果の見込み、想定されるリスク、代替案など、こうした項目を埋めることは思ったより大変です。ここに営業が寄り添うことは、案件を前進させる本質的な支援です。
5. 関係者の合意形成
顧客社内から出る反対意見の整理、そのハンドリングの準備。合意形成のためのワークショップ等。「情シスからこのような質問が来ると想定されます。この資料を用意しておきましょう」といった先回りのアドバイスが求められます。
6. 導入計画の作成
運用負荷、体制、スケジュール。お客様は「初めてこのプロジェクトをやる」立場ですが、売り手側は「数々の同様のプロジェクトを走らせてきた」立場です。過去の経験を目の前の文脈にカスタマイズして提供する。プロとしての営業の腕の見せ所です。
御用聞き営業から仮説提案・購入支援スタイルの営業へ:AI時代の営業改革の方向性
たくさんの営業組織で耳にする課題は、「営業が御用聞きから抜け出せない」です。
御用聞き型の営業とは、要するに「引き合い待ちの営業」です。これはすべてにおいて時代遅れというわけではありません。取引型のビジネス、たとえば消費財の定期補充のようなモデルでは、今も十分に価値を発揮します。
しかし問題は、それ以外の場面では価値を発揮しにくくなっているということです。
「そもそも何を買えば、どんなことができるか」を、お客様はAIで調べ尽くしています。「困っていることはありますか?」と伺っても、「もうAIの調査で製品はわかっているので、他社の価格より安ければ買います」と返される。顧客が期待しているのは、AIで調べられる製品情報ではなく、購入プロセスをスムーズに進めるための、6つの要素の支援です。「では、ご検討ください。」と相手任せで終わる言葉ではなく、「検討を進めるためには、このようなご支援ができます。」というサポートメニューなのです。
御用聞き型から抜け出すのは、時代の要請です。AI時代に営業はどこに向かえばいいか?それは「仮説提案型」であり、その先の「購入支援型」の営業スタイルへの変革だと考えます。

仮説提案型は、引き合いを待たずに、こちらから「もしかして御社は、こういう課題を抱えていらっしゃるのではないでしょうか」と仮説を提示するスタイルです。
歴史を振り返れば、営業スタイルは時代ごとに進化してきました。1988年のニール・ラッカム『SPIN Selling』は、質問を通じて顧客の潜在課題を掘り起こすロジック型の営業を提唱しました。2011年刊の原著『The Challenger Sale』(ディクソン/アダムソン)は、顧客の常識を揺さぶるインサイト型の営業を示しました。いずれも、製品説明にとどまらず、顧客の検討そのものに能動的に関与する営業スタイルです。そして今、生成AIで武装した買い手を前にした私たちに求められているのは、”検討を促し、購買活動に伴走する営業”です。仮説提案型は、その入り口です。
ただ、言うは易し、行うか難しです。そうは言っても営業現場には仮説を作るような時間はありません。
仮説を練り、お客様を深く調べ、社内資料まで一緒につくる。こんなことを一から積み上げようとしたら、今の営業の時間では足りません。だからこそ、だからこそ、AIで時間を捻出する必要があるのです。ポイントは3つあります。
1. 活動記録の自動化
SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)への入力は、長年、営業現場で繰り返し指摘されてきた代表的な負担・定着阻害要因の一つでした。しかし今は、音声認識と生成AIが揃っています。商談を録音し、AIに要約させ、ワンクリックでSFAに反映する。もちろん、AI出力の確認は前提です。それでも、SFAへの入力負荷は大きく軽減できる段階に入りました。
AI時代のSFA活用ユースケース
活動記録の自動化や商談準備、アカウントプランがどう変わるかをデモを交えて紹介します。
2. 社内作業のAI化
企業調査、売上予測の補助、メールや提案書の下書き、見積作成の支援などは、AIによって効率化しやすい領域です。適切なデータ連携、入力・検証ルール、例外処理、人による確認・承認を組み合わせることで、手作業による転記漏れや表記揺れを大幅に減らせる可能性があります。
3. 仮説作成のAI化
業界動向、決算資料、経営者のメッセージ、直近の人事異動などを、これまでよりも数倍の解像度で理解し、「御社にとっては、こういう仮説が成り立つのではないでしょうか」と持ち込む。何も調べずにテンプレート通りの製品説明を行うのではなく、顧客ごとにカスタマイズした仮説提案を初回から行う。
新しい技術が生まれれば、経済が変わり、世界が変わります。世界が変われば、顧客が変わり、顧客が変われば、営業も変わらなければなりません。AIによって買い手が変わった今、営業に必要なのは「時代に合わせて変わる覚悟」です。
おわりに:買い手の変化に、仕組みで応える
いかがでしたでしょうか。営業改革とは、AIを契約することでも、SFAを導入することでもありません。買い手の変化に合わせて、仕組みそのものを変えることです。売り手は「製品説明」から「購入の支援」へ、「御用聞き」から「仮説提案・購入支援型」へと、軸足を移していく必要があります。
もちろん、この変革は一朝一夕にはできません。Salesforceでは、SFAの技術面だけでなく、長年蓄積してきた営業改革のノウハウでも、みなさまをご支援しています。
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本記事の内容は、2026年4月20日に開催したウェビナー『営業改革のための基礎知識 〜AI時代の購買革命と、売れ続ける組織のアーキテクチャ〜』を再構成したものです。ウェビナーでは、営業組織の規模別課題、3つの営業スタイル、営業改革の13の仕組み、KPIと会議体の設計、セールスプレイの整備まで、約60分にわたって解説しています。
こんな営業リーダーのみなさまに、特にご覧いただきたい内容です。
▸ AI時代に営業組織をどう変えるか、頭を整理したい方
▸ 経営や現場に「営業改革の必要性」を説明したい方
▸ 他社が何をどこまでやっているかを知り、自社の現在地を把握したい方
▸ 「うちの営業は御用聞きから抜け出せない」という課題感をお持ちの方
視聴は無料、章立てで区切っていますので、関心のある章だけつまみ食い視聴も可能です。
次回は、営業組織の規模別に見えてくる典型的な課題について、私なりの整理をお示しします。
AI時代の営業スタイル
AIエージェントに反復業務を任せ、営業が付加価値の高い仕事に集中するための「働き方の再設計」を7つのステップで解説。










