「すみません、現金のみなんです。」
そう言われて困ったことはないでしょうか。

カード決済に加え、最近では電子決済など多様な決済手段が提供されるようになり、その便利さを実感している消費者は少なくありません。
このような便利で新しい決済体験を繰り返し経験することで、消費者は当たり前の体験として認識するようになり、現金でしか決済できない場面において不満を感じるようになります。

一方で、全ての企業や店舗でこれらの新しい決済手段を提供出来ているわけではありません。顧客の期待に応えられない企業や店舗では、新しい顧客を獲得できないばかりか、顧客離れにも繋がりかねません。

 決済に限ったことではなく全ての業界業種に言えることで、企業が多くの顧客を獲得し成長していくためは、常に最新のテクノロジーに目を向け、企業文化を変革し、素早く適切にビジネスに取り込み、新しい顧客体験を提供していく必要があります。

 こういった変化はデジタルトランスフォーメーション(DX) やデジタル変革と呼ばれ、単なる業務の電子化ではなく、テクノロジーを活かすために働き方や業務そのものを変化させていくという動きが世界中で始まっています。ところが、こういった変革に成功した企業は全体の約 3% しかないともされています。

 

 

 

課題はシステムの開発速度と人材確保

 

ところが多くの企業にとって、これは簡単な事ではありません。

企業は常に進化を続けるテクノロジーを、継続的にシステムに取り込まなくてはいけません。1年以上の時間を要するこれまでのプロジェクト体制や外部委託によるシステム開発では、運用開始時点で既に次のテクノロジーが主流になっているかもしれません。いくつかの企業では社内システムを内製化していくための体制を整備するなど、DX の推進にあたって高速にシステム構築を行う手段への取り組みが見られます。

また、テクノロジーを効果的にビジネスに適用するためには、適切なスキルをもった人材が必要です。ところが、日本は長期に渡り慢性的な IT 人材不足に悩まされている国です。文部科学省が提唱するプログラミング教育も、論理的な思考の形成には効果を望める一方で、すぐにシステム構築を開始できるような人材の育成の観点で即効性は期待できません。これからの IT 業界を支えていくには、専門的な人材の育成と増加に期待するだけでなく、その他のアプローチでの人材確保も検討していく必要があります。 



デジタル変革推進の鍵はローコード開発

 

こういった状況で、高度なスキルを必要とせず、システムを高速に構築できるツールが注目を集めています。ここ数年、多くのプラットフォーマーがローコード開発と呼ばれる技術に投資し、誰でもアプリケーションを構築できる開発環境の整備を進めています。ローコードとは、プログラミングなどの高度な IT スキルを必要とせず、マウス操作や設定変更のみで、必要なソースコードを自動生成することでアプリケーションを構築する開発手法です。ガートナーによると、2024年までにローコード開発がアプリケーション開発全体の65%以上を占めると予測されています。つまり、コードを書かずにアプリケーションを開発する時代が近づいています。

 

 

Salesforce におけるローコード開発ツール

 

顧客管理システムである Salesforce にも、独自のアプリケーションを構築出来るプラットフォームが提供されています。このプラットフォームではコーディングによる開発はもちろん、ローコードで開発するためのツールが提供されています。例えば、フロービルダーというツールを使うと、データ取得や条件分岐などの特定の機能をもつ要素をドラッグ&ドロップで画面に配置し、それらを矢印で結ぶことで自動化された業務処理を作成できます。他にも AI やブロックチェーンといった最新のテクノロジーをいくつかの設定のみですぐにビジネスで利用できます。このようなツールを活用する事で、システムの開発期間を 57% 短縮できたというデータもあります。Salesforce に限らず、一般的なローコード開発と呼ばれるものには、このように複数の機能単位を組み合わる事で新たな機能を簡単に構築できるツールが多く存在します。

 

 

ローコード開発のメリット

 

ローコード開発のメリットとして、システム構築の高速化、人材確保が容易、システムの品質向上が挙げられます。

まず、開発の高速化です。ローコード開発ではいくつかの操作を行うだけでソースコードを自動生成します。多くのビジネスで同様の業務が存在しており、一定数の部品が揃っているのであればほとんどの業務ロジックをプログラミングをせずに構築できるはずです。 通常の開発においても CI/CD などの自動化によって効率化する事もできますが、一つ一つの機能をプログラミングで構築するよりも高速にアプリケーションを構築していく事ができるようになります。

 次に人材確保が容易になるという点です。ローコード開発では専門的なコーディングスキルを必要としないため、一般的な事柄について論理的に考える力を持つ人材であれば、非常に少ない学習コストで習得が可能です。加えて、IT 部門の開発者だけでなく、営業部や企画部のような、普段はユーザー側の社員でもシステムの開発に参加できるようになります。こういった人材はシチズンデベロッパーと呼ばれ、人材不足を解消するだけでなく、開発者と協力し業務上の課題や効率化につながるアイデアを提供してくれる存在となります。

そして、システムの品質向上です。シチズンデベロッパーの参加によりシステム開発に必要な人手の確保が容易になり、効果的な分業や作業の効率化が期待できます。また、開発者は多くの機能をコードを書かずに構築できるため、より価値のある機能の開発に集中して取り組む事ができるようになります。このように自動生成と負荷分散によって、システム全体の品質向上に取り組める余裕を捻出できます。 

 

ローコード開発のデメリット

 

一方で、ローコード開発のデメリットとしては、複雑な要件への対応が難しい点と一部のユーザーにとって活用が難しい点が挙げられます。 

まず、複雑な要件への対応が難しい理由としては、処理が複雑であればあるほど利用する部品の数が増え、それぞれの依存関係も複雑化します。その結果、処理のトレースが困難になり、バグの埋め込みや引き継ぎとメンテナンスに時間がかかる原因となります。しかし、将来的にユースケースの研究が進み、最適な粒度の部品を揃えられるようになれば、あらゆる処理を問題なく構築できる様になるはずです。

また、ローコードでの開発は簡単で学習コストが少ないとはいえ、異なる分野で活躍する全てのユーザーが利用するには、まだいくつかの障壁を感じさせます。例えば、変数やループなどシステムの構築に関する専門用語を知らないと、機能を理解できず、効果的な活用につながらない場合もあります。こういったケースは、ローコード開発環境の UI/UX を洗練するとともに、学習リソースからテクニカルな表現を排除していく事で軽減されていきます。 

 

イノベーションを継続できる企業になるために

 

速いスピードで変化していく世界で、ビジネスの成長を維持するためには、テクノロジーの利用が欠かせません。企業に対する顧客の期待値が高まる今、テクノロジーとビジネスを上手く融合させて継続的にイノベーションを起こせる企業が新たな顧客を獲得していけます。

そのような時代で、ローコード開発は最新テクノロジーを活用したシステムを高速に構築し、シチズンデベロッパーによるシステム構築への参入を促進することで人材不足を解消できるソリューションであるといえるでしょう。