

多様化・高度化する住民ニーズと持続的な地域活性化の模索
住民の「困りごと」は複雑化し、一つの部署では解決できないケースが増えました。たとえば子育て相談が貧困問題と結び付く場合、従来は「担当外」として支援が途切れることがありました。この「情報の分断」や縦割り行政を解消し、住民の真の課題を把握した上で庁内横断的に対応できる仕組みが求められていました。
また過去の消費活性化事業では、ポイントが区外でも利用可能だったため区民優遇が難しく、一時的な消費喚起に留まる課題がありました。渋谷区らしい持続可能な産業振興策が必要とされていました。
統合型 CRM システム「DCP」による住民サービス変革
渋谷区は Salesforce 上にデジタルコミュニケーションプラットフォーム(DCP)を構築しました。導入後、住民が部署が変わるごとに同じ説明を求められる状態が解消されつつあります。福祉分野では、令和 5 年度に重層的支援体制整備事業の開始に伴い設置された「地域福祉課」が要件定義に参画し、横断的な伴走支援を実現しました。
子育て分野においても、紙で管理していた発達相談業務などの情報が、就学相談など他部署の業務で必要とされる場合に住民同意のもとでシステム共有できるようになり、台帳探しに費やしていた労力が大幅に削減されました。
今では全部署が DCP (Salesforce)を活用し、オンラインやコールセンター経由の問い合わせを Salesforce に集約しています。
多様な顧客接点と情報一元管理
住民・事業者向けポータル(DCP の一部)はオンライン申請のハブです。住民はログインして問い合わせ履歴や申請状況を確認でき、通知はメール・LINE いずれでも受け取れます。事業者向けには融資あっせん業務で活用し、相談予約からやり取りの履歴を Salesforce 上で管理しています。
FAQ、生成 AI チャットボットのほか、将来的には有人チャットや AI による 24 時間自動応答も検討中です。さらに「区長への手紙」の内容も Salesforce に蓄積し、過去事例の参照やサービス改善に役立てています.
デジタル地域通貨「ハチペイ」による地域経済活性化
渋谷区はコロナ禍で打撃を受けた区内事業者を支援するため、キャッシュレス決済アプリ「ハチペイ」とコミュニティ通貨アプリ「まちのコイン」を連動させたデジタル地域通貨を導入しました。Salesforce は データ連携・蓄積・分析プラットフォームとして機能し、利用者数や取引状況をダッシュボードで可視化。データ分析によりキャンペーン効果を検証し、産業・コミュニティ活性化を支援しています。
Salesforce は、使うたびにポテンシャルの高さを実感させてくれるので、これからの進化にも大きな期待を抱いています。多くの自治体が導入している理由もよく理解でき、私たちにとって欠かせない存在です。
宝田 英之氏デジタルサービス部 デジタルサービス課 課長, 渋谷区
渋谷区が Salesforce を最も評価している点の一つに、ノーコード・ローコード開発で内製化を加速し、職員が自ら迅速にサービスを追加・修正できる点があります。役所では突発的に新しい手続きが始まることが多く、この柔軟性は大きな強みとなりました。構築を担ったデロイト社は、Excel 取り込みだけで手続きを追加できるツールを提供し、特別なスキルがなくても運用できる環境を整えています。
さらに区は、将来を見据えた進化と可能性として、マイポータルを通じて住民が自身の情報を一元把握できる「情報連携ハブ」の実現を構想し、Salesforce に蓄積される膨大なデータを AI で分析・自動応答に活用することで、住民サービスのさらなる向上を図っていきたいと考えています。