

北海道放送(HBC)は、「ラテ兼営局」としてテレビとラジオを運営する北海道の歴史ある放送局です。しかし、メディアビジネスの成長限界や視聴率低下、広告費のデジタルシフトといった構造的課題に直面していました。これまで視聴率以外のファンデータがほとんどなく、「制作の経験」に頼った事業運営から脱却する必要があったのです。HBCはSalesforceを導入し、ファンの可視化・コミュニティ化に取り組み始めました。メール配信やクラウドページを起点にデータを蓄積し、有料配信やECでの売上は日次ベースで150〜200%増を記録。放送局の「次の一手」として、Salesforceがコンテンツビジネスの拡張を支えています。
北海道放送株式会社(HBC)は1951年に開局し、北海道で最も長い歴史を持つ放送局です。北海道では「1チャンネル=HBC」として親しまれ、テレビとラジオの両方を運営する「ラテ兼営局」として知られています。かつては「ドラマ」の制作や報道ドキュメンタリーで強みを発揮し、近年は「ジンギス談!」「あぐり王国北海道NEXT」といった番組を軸にリアルイベントや商品コラボ、TVer・YouTubeでの配信強化など、放送を超えたコンテンツ展開を加速させ、従来の「放送局」から「コンテンツビジネス企業」への変革を目指しています。
「視聴率の向こう側」——見えないファンをどう資産化するか
しかし、「コンテンツビジネス企業」への挑戦を支える上で大きな壁となっていたのが「ファンの姿が見えない」という現実でした。視聴率はあくまで匿名の数字に過ぎず、番組やイベントを通じてどんな人がファンになり、どのような理由で支持しているのかといったデータはほとんど自社に存在しませんでした。良いアイデアやコンテンツが生まれても、それがどんな層に届いているのか点では持ていたが線にできていなかったため、次の一手を考える材料がなく、結局は「制作の経験」に頼るところが多くありました。
さらに、有料配信やECショップ、キャンペーン応募フォームといった顧客接点はそれぞれ異なるシステムで運用されており、IDもバラバラで連携はされていませんでした。特に応募フォームの個人情報は半年で削除されるルールがあり、ファン資産を積み上げることができなかったのです。放送局として100億円規模のビジネスを維持してきた実績はあるものの、このままでは成長は望めず、未来に向けた構想を描くことが難しい状況にありました。
200%の成果を生み出した、Salesforceによるファンエンゲージメント強化
こうした課題に対し、HBCはSalesforce Marketing Cloudの導入を決断しました。まずは分散していた有料配信やEC、キャンペーン応募のデータを統合し、ファンを一人ひとりの属性や行動と紐づけて把握できるようにしました。これにより、番組の参加者や商品の購入者を単なる「視聴者」から「ファン」として捉え、コミュニティ化を進めることが可能になりました。
具体的には、イベントアンケートやEC購入データをクラウドページ経由で取り込み、メール配信を通じてファンへ継続的にアプローチ。北海道日本ハムファイターズのDVDを購入した顧客や、ラジオ中継中にキャンペーンへ応募した数万件規模のファンデータを活用し、ターゲットごとに最適化したメッセージを届けられるようになっています。その結果、ある有料配信では販売開始当日に送ったメールをきっかけに、日次ベースでは販売実績が従来比200%増を記録。ECショップでも150〜200%の売上増を達成しました。
さらにSlackやTableauとの連携により、社内の情報共有や分析もスムーズになり、メール配信やクラウドページ作成といった基本的な運用は導入からわずか2〜3ヶ月で内製化が進みました。Salesforce Premierの学習コンテンツを活用しながら、現場メンバーが自発的にノウハウを蓄積しており、コンテンツ育成に向けたモチベーションは着実に高まっています。
Salesforceは放送局にとって“次の一手”になると思います。勘や経験に頼っていたこれまでの事業運営から、データに基づいてファンを育て、コンテンツを広げる未来へと踏み出すことができました。
並木 翔太 氏デジタルコンテンツプロデューサー, 北海道放送株式会社
HBCが求めたのは「放送局の枠」を超える拡張性と実行力
HBCがSalesforceを選んだ理由は、単なる放送局向けサービスでは実現できない「拡張性」にありました。業界特化型サービスも検討しましたが、仕様が限定され、コンテンツビジネスやEC、ファンコミュニティへの展開には限界があると感じました。
その点、Salesforceは部分最適にとどまらず、ファンの可視化からコンテンツ育成、そして収益化までを一気通貫で支援できる点が大きな魅力でした。さらに、すでに日常的に使っていたSlackやBIツールのTableauがSalesforce製品であることを知り、将来的に連携によって「データに基づく意思決定」と「全社的な情報共有」がシームレスに行える未来像を描くことができました。コードを書くことなく現場で運用できる簡便さや柔軟な拡張性も、HBCにとって大きな価値となっています。