LINEヤフーは、Salesforceの自律型AIエージェント「Agentforce(エージェントフォース)」を導入し、 カスタマーサポート業務の徹底した効率化を本格的に推進しています。
Yahoo! JAPANの膨大な問い合わせ対応において、AIによるスムーズな問題解決と迅速な応答を実現。 オペレーターがより付加価値の高い業務に注力できる環境を構築しています。
検証段階では、Agentforceが月間30万件超の問い合わせを対応可能であることを確認。
精度と運用効率の両面で効果を発揮し、従来のチャットボットでは難しかった多様な問い合わせにも柔軟に対応できる仕組みを整えています。
LINEヤフー株式会社は、国内最大級の総合インターネットサービス「Yahoo! JAPAN」やコミュニケーションアプリ「LINE」を運営するデジタルプラットフォーマーです。
幅広い領域で人々の暮らしを支える一方、生成AIやクラウドを活用したデジタルトランスフォーメーションにも積極的に取り組んでいます。
「AI時代の顧客体験」を再定義する
「AIの普及スピードは想像以上でした。自然言語でAIを操れるようになって、 誰もがAIを使いこなせる時代が来た。『AIの民主化』という意味では、後世に残る出来事でしょう」
そう語るのは、同社CIOの服部典弘氏。
こうした潮流を踏まえ、LINEヤフーは自社のDX戦略の中核に「AIカンパニー構想」を掲げ、すべての業務プロセスにAIを組み込み、生産性と体験価値の両立を目指しています。
Yahoo! JAPANのヘルプページには、毎月数十万件にも及ぶ問い合わせが寄せられています。
これらを支えるカスタマーサポート体制は国内でも最大規模。
しかし、既存のチャットボットでは定型的な応答しかできず、 問い合わせの多様化に伴って「初回解決率」「顧客満足度」「運用コスト」に課題が生じていました。
服部氏はこう振り返ります。
「AI導入で目指したのは、人を減らすことではありません。単純作業をAIが担うことで、人はもっとお客様に寄り添う時間を増やせる。 そう考えたのです」
「顧客体験の向上」と「運用効率化」を両立させるために、LINEヤフーが選んだのが、SalesforceのAIエージェント「Agentforce」でした。
「ナレッジ」をつなぎ、AIが自律的に応答する「新しいサポート基盤」へ
LINEヤフーでは、従来のチャットボット運用で蓄積された膨大なナレッジを再構築。
人間が読むために最適化されていた情報を、AIが正確に理解・活用できるように再設計しています。
「最初のテストでは、AIがなかなか正しい回答を出せず、正直焦りました。
でも諦めず、AIを“育てる”気持ちで改善を重ねたんです」
服部氏は当時をそう振り返ります。
チームはSalesforceのエキスパートとともにナレッジの書き換えを進め、 プロトタイプ段階では6割にとどまっていた回答正答率を8割超へと引き上げています。
「正答率が8割を超えたときには、チーム全員で拍手が起きました」(服部氏)
地道な努力の積み重ねが、AI活用の成功を支えた好例といえます。
こうして完成した新基盤では、これまでチャネルごとに分散していたデータやナレッジをSalesforceプラットフォーム上で一元管理。
チャット・メールを横断的に分析し活用しています。
さらに、AIによる自動化により、チャットボットのシナリオ設計やメンテナンスにかかる工数も大幅削減。
AIによって「オペレーターがより戦略的な業務に集中できる体制」が整ったのです。
月間30万件超の問い合わせをAIが対応。回答精度は8割超へ
Agentforce導入により、月間30万件超の問い合わせにAIが対応可能に。
回答の正答率は8割超を達成(従来比 約1.3倍向上)。
【主な効果】
さらに同社の試算では、顧客データを参照する必要のない問い合わせが全体の3〜4割を占め、 人でなければ解決できないものは最終的に約1割程度。
つまり全体の8割はAgentforceによる対応が可能だと見込まれています。
「AIが対応することで、コミュニケーターが精神的に疲弊するような問い合わせを一度AIが受け止めてくれるようになりました。
本質的なご意見だけを人が受け止めることで、現場のストレスも減ったんです」(服部氏)
この取り組みは、AIによる“効率化”を超えて従業員体験の向上へと進化しています。
LINEヤフーは、AIと人が協働する新しいサポートモデルを確立しつつあります。
Agentforceは、AI時代の顧客体験を支える“デジタル労働力”の中核です。Einstein Trust Layerによる堅牢なセキュリティと、Salesforceチームの伴走支援があったからこそ、構想段階から運用までを円滑に進めることができました
服部 典弘 氏執行役員 CIO(Chief Information Officer), LINEヤフー株式会社
「信頼できるAI」を支える堅牢な基盤と、伴走する信頼できるパートナーシップ
Agentforce採用の決め手の一つとなったのは、 AI活用を支える堅牢なセキュリティ機能「Einstein Trust Layer」の存在です。
データマスキングやゼロデータ保持など、自社開発では膨大なコストを要するガバナンス機能を標準で備え、プライバシー保護と透明性を両立しています。
さらに、従量課金モデル「Flex Credits」によって、利用量に応じた柔軟なコスト管理を実現。
AI導入からPoC・本番運用までを一貫支援する「Professional Service」、 24時間365日の安定稼働を支える「Signature Success Plan」も安心材料となっています。
「Salesforceの担当営業の方が全国のCSセンターに足を運び、 現場スタッフに“どんな未来が待っているのか”を直接伝えてくれたんです。その姿勢が、プロジェクトを成功に導いた大きな要因でした」
服部氏が語る“伴走”の裏には、現場に寄り添うSalesforceチームの存在があったのです。
「AIがメールを返し、AIがチャットで答え、AIが電話にも応じる――。そんな世界がもうすぐ現実になります。
それでも“人の温度”を感じる体験を、どう保ち続けるかが私たちの次の挑戦です」
服部氏の言葉には、AIによる効率化の先にある未来への確信がにじみます。
LINEヤフーは今後、Agentforceを中心としたサポート基盤をさらに拡張し、音声対応や24時間365日体制の自動化を視野に入れています。
「AIと人が協働する顧客サポートの進化」を通じて、より快適で信頼性の高い顧客体験の実現を目指しているのです。