SaaSビジネスのカギとなる「カスタマーサクセス」の本質とは?

投稿日:2021.7.2
SaaSビジネスでは、顧客を成功へと導いていく「カスタマーサクセス」が重要だとされています。しかし、「なぜ、それが必要なのか、重要なのか」という点を正しく理解しておかないと、効果的な施策に結びつけることができません。
ここでは、SaaSにおけるカスタマーサクセスの重要性と、どのようにカスタマーサクセスを始め、実践していけばいいかを解説します。

SaaSでは、なぜカスタマーサクセスが重要なのか

近年、人々の消費活動が大きく変化しています。映画や音楽、車、ファッションも、「購入」せずに、月額料金を支払って「利用」する、というスタイルが広がりつつあります。クラウドサービスとして提供されるソフトウェアであるSaaS(Software as a Service)も、その典型といえるでしょう。
こうしたビジネスモデルは、顧客が求めるサービスをいかに提供し、満足してもらうかという点が大切で、そのためにはカスタマーサクセスがポイントになります。まずは、SaaSにおいて、なぜカスタマーサクセスが重要なのかを解説していきます。

カスタマーサクセスは、収益上の大きなミッション

SaaSビジネスで収益を高めるには、更新率を高め、顧客に長期間にわたってサービスを利用してもらうことがポイントになります。
下の図は、更新率の違いによってどれほどの収益差が生まれるかを示したものです。この企業の現在の収益は年間10億円ですが、更新率が90%の場合と80%の場合では、時間が経つほどに収益の差が広がっていきます。そして5年後には、収益差の累積額は9億9,631万円、つまり現在の1年分の収益に匹敵するほどの額になってしまいます。
このようなことにならないよう、更新率はできるだけ高く保つ必要があり、そのためにもカスタマーサクセスを十分に機能させ、自社サービスを利用し続けてもらうことが重要になってくるのです。

「顧客の成功」は、提供できる最大のバリュー

カスタマーサクセスの活動によって顧客を満足させ、自社サービスを使い続けてもらうことで収益を最大化する。これは、あくまでも目に見える結果のひとつにすぎません。カスタマーサクセスの本質は、単にLTV(顧客生涯価値)を最大化することではなく、「顧客の成功こそが、自社が提供する最大の価値である」という思想を理解し、実践することです。そうした思想が根底になくては、形ばかりを整えても満足に機能しないでしょう。

現在、SaaSとして提供されているサービスは、実に多種多様です。多くの競合がひしめき合う中で使い続けてもらうことは、簡単ではありません。
自社ならではの価値をどのように生み出し、提供できるか。それによって、顧客をどのように成功へと導いていくのか常に考え、実践することが大切です。

顧客の社内文化の変革には、カスタマーサクセスが不可欠な存在に

SaaSとして提供するサービスは多種多様ですが、それらの中には、サービスを最大限活用するために、社内文化や業務に対する意識の変革が必要となるものもあります。

たとえば、SFAやCRMといった営業支援のツールは、従来ならば個々の担当者が管理していた顧客情報や商談の進捗状況を、チーム全員がリアルタイムで共有することを可能にするものです。それによって、ナレッジやノウハウがメンバー全員で共有され、個人プレーになりがちだった営業業務の、チームプレーへの移行を促すことになります。
しかし、企業が「営業とは個人が成績を競い合うもの」という意識にとらわれていると、こうした変化は受け入れにくいものです。ですから、「意識の変化によって、どんな成功が得られるのか」について、ツールを利用する企業に理解してもらうよう促す必要があります。

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カスタマーサクセスには複数のアプローチがある

一口にカスタマーサクセスといっても、そのアプローチのしかたはひとつではありません。
自社サービスの導入や定着をサポートしたり、より実践的な活用方法を提供したりする。また、顧客の経営課題を洗い出すコンサル的な手法もあれば、顧客の状況に合わせて機能を追加したりアップセルを促したりするのも、カスタマーサクセスにつながるアプローチといえます。

チームワークを駆使したカスタマーサクセスのアプローチ

カスタマーサクセスのアプローチには、どのようなものがあるのでしょうか。
例として、日本におけるカスタマーサクセスの先駆者であるセールスフォース・ドットコムのケースを簡単にご紹介しましょう。当社では現在、4つのチームに分かれてカスタマーサクセスを実施しています。
  • サクセスマネジメント
    サクセスマネジメントでは、顧客のビジネス上の課題やツールの定着化に関する課題をヒアリングし、それに対するベストプラクティスを提供しています。
  • コンサルサービス
    コンサルサービスでは、顧客の内側により入り込み、自社サービスをどのように活用して収益を上げるべきか、コンサルティングを行っています。
  • テクニカルサポート
    テクニカルサポートは、機能・用途についてのアドバイスや、技術的なサポートを行うチームです。一般的なヘルプデスクや、カスタマーサポートとしての役割を担っています。
  • リニューアル
    リニューアルは、スムーズな契約更新を目指し、更新率をケアするチームです。更新率や予測値の管理、契約関連の整備など、SaaSビジネスにおいて最適な環境を整える役割があります。

セールスフォース・ドットコムでは、これら4つのチームのほか、全体を統括する部門を置き、戦略やオペレーションの企画立案、カスタマーマーケティングなどを担当。それぞれのチームが相互に連携し、チームワークで顧客の成功を追求する体制を整えています。

カスタマーサクセスを始めるには?

カスタマーサクセスを始めたいけれど、どこから手をつければいいのわからない…。こうした悩みを抱えている企業は多いのではないでしょうか。
続いては、カスタマーサクセスを始める一般的な手順をご紹介していきます。扱うサービスの内容や特性のほか、利用できるリソースの多寡によっても変わってきますが、参考にしてみてください。

カスタマーサクセスの理念を理解する

カスタマーサクセスは、具体的に立ち上げる前に「顧客の成功が自社の成功である」という理念を理解することが第一です。そうでないと、いくら形を整えたところでうまく機能しません。
単に数字を追うのではなく、「自社のサービスによって、顧客にどんな成功を提供できるか」を明確にすることが重要です。このような理念を、カスタマーサクセスに関わっていくメンバーが理解することから始めてください。

チームの役割分担を明確にする

カスタマーサクセス部門にどれほどの人材を割けるか。これは、企業によって異なるでしょう。いずれにしても、カスタマーサクセスとして何をするか、さらにチーム内で誰が何を担当するか、役割分担を明確にしておくことは大切です。そうでないと、「既存顧客の問題は何でもカスタマーサクセスへ」という流れになってしまい、業務量が多すぎて回っていかない…ということになりかねません。

先程ご紹介した当社の例のように、当初から明確なチーム構成を整えるのは、多くの企業にとっては難しいことだと思います。しかし、「どこまでの作業を手掛けるか」「誰が何を担当するか」は、きちんと線引きしておくことが重要です。

フォーカスするポイントを決めて、ナレッジを蓄積していく

カスタマーサクセスのアプローチはさまざまですが、そのすべてを初期段階からカバーしようとすると、オーバーワークとなってしまいます。ですから、どこにフォーカスするかを決めておき、そこに一点集中することが大切です。

また、フォーカスするポイントを決めたら、実際のデータを基に対策することも重要です。たとえば、「解約を防ぐ」という点にフォーカスするとします。この場合、最もリアルなデータを収集するなら、解約に至った顧客にヒアリングすることです。メールでのアンケートや営業メンバーによる聞き取りといった方法がありますが、直接カスタマーサクセスの担当者が尋ねてみるのが一番確実でしょう。手間も時間もかかりますが、バイアスのかかっていない、貴重なデータを収集できるはずです。

仮に、下記のようなデータが集まったとします。

<顧客が解約に至った理由>

  • サービスを現場に定着させる体制が整っていなかった
  • サービスを活用するトレーニングが不足していた
  • 成約前にキーパーソンにしっかりアプローチできていなかった
  • そもそも、顧客の課題と自社サービスがマッチしていなかった

集められた個々の理由のうち、「どこに注力するか」をさらに絞り込み、対策を打っていきます。この作業を繰り返すことで、解約を避けるためのナレッジが蓄積されていくというわけです。

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カスタマーサクセスをどこまで広げ、どこまで深掘りするか

顧客を成功に導く方法には多くのアプローチがあり、また「どこまで掘り下げるか」という深度もあります。当初は一点集中で始めたカスタマーサクセスの活動が、ある程度軌道にのってくると、どこまで拡大し、どこまで深掘りすべきかということに頭を悩ませることになるかもしれません。
そのようなときは一度立ち止まり、カスタマーサクセスの活動全体を俯瞰して、冷静に評価・判断することも必要です。

限られたリソースを有効に配分することもひとつの方法

カスタマーサクセスの本質は、文字どおり「顧客を成功に導くこと」です。そのための具体的な活動は多岐にわたりますが、必ずしもそのすべてを実践する必要はありません。自社のフェーズやプロダクトの特性に合わせて、「何ができるか」「何をすれば効果的か」という点から発想すればいいのです。
それは、市場ニーズに合わせてサービスをアップデートすることかもしれませんし、営業戦略を練り直すことかもしれません。大切なのは、自社の状況に合わせて、カスタマーサクセスを追求し、実践することです。限られたリソースの中で実施できる有効な手法が見つかれば、わざわざ専任の部門を新たに設けて人材を配置する必要はありません。それを念頭に、カスタマーサクセスの体制を構築していきましょう。

既存のフレームワークやロードマップを活用する

顧客のビジネスをさらにドライブさせるため、カスタマーサクセスの活動の幅を広げていく必要に迫られたときには、フレームワークやロードマップを活用することをおすすめします。
当社の場合、自社サービスの活用・定着化支援のためのチェック項目を、フレームワークとしてまとめています。こうしたサンプルを応用することで、無理なく漏れなく、カスタマーサクセスの活動拡大を図れるでしょう。

自社サービスの周辺に対するコンサルも、カスタマーサクセスの一端

カスタマーサクセスにおいては、自社が提供するサービスを中心に、顧客に対して多角的なサポートを行うことになります。そうした中、カスタマーサクセスに求められるのは、顧客が気づいていない課題を見つけ、解決案を提示できる「ビジネスパートナー」です。基幹システムから各部門で使用するツールまで、経営課題を踏まえた上で包括的なアドバイスを提供できれば、顧客にとってこれほど心強い存在はありません。

個々のツールやシステムについては、それぞれのベンダーからサポートを受けることができます。しかし、全社的にIT環境を俯瞰し、整備できる体制を持つ企業は、決して多くはありません。たとえば、「これからDX化を進めていきたい」と考えている企業にとって、その移行をサポートしてくれるベンダーは、貴重な存在であるはずです。
もちろん、こうしたサポート体制を用意できるベンダーは限られているでしょう。しかしそれは、カスタマーサクセスの活動の一端であり、目指すべき到達点といえるのではないでしょうか。

カスタマーサクセスは、常に進化していく

どのような形でカスタマーサクセスを実践するか。それは、企業ごとに異なります。しかし、常にブラッシュアップを重ね、進化させていくことは必要です。最初は、解約率や更新率にフォーカスするとしても、それが本当に顧客の成功に結びついているのかを検証することは欠かせませんし、その結果によっては別の指標を加えることも考えるべきです。
こうした作業を積み重ねることは、簡単なことではありません。しかし、カスタマーサクセスの思想を維持し、その精度を高めていくことは、カスタマーサクセスを継続するために必要不可欠といえるでしょう。

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カスタマーサクセスの本質を忘れずに

カスタマーサクセスは、「顧客を成功に導くことによって、自社も利益を得る」という考え方です。しかし、カスタマーサクセスは、収益ばかりにフォーカスすべきものではありません。まず顧客に「成功」という体験を提供することで、自社も利益を得ることができるという、思想を理解することです。
繰り返しになりますが、これがカスタマーサクセスの本質です。同時にそれは、SaaSビジネスを展開する上で、決して忘れてはならないことでしょう。
 

監修:坂内 明子(バンナイ アキコ)

株式会社セールスフォース・ドットコム
カスタマーサクセス統括本部 サクセスプログラム本部長

大学卒業後、米シアトルの新聞社にてインターンシップを経験し帰国。その後、セールスフォース・ドットコム入社、インサイドセールス(内勤営業)、カスタマーサクセス(CRM活用支援)、セールスエンジニアを経験し、現在はカスタマーサクセスのためのサービス整備、人材育成、カスタマーマーケティングを担う部門を統括。

 

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