
非営利団体向けKPIの完全ガイド
非営利団体の資金調達とマーケティングのパフォーマンス向上を促進するための主要業績指標(KPI)
非営利団体の資金調達とマーケティングのパフォーマンス向上を促進するための主要業績指標(KPI)
変化の波が絶えず押し寄せ、支援するコミュニティのニーズも高まる中、指標が非営利団体の戦略における「北極星」となり指針となって混乱を収めてくれます。指標は、事態により俊敏に対応し、成功の潮流を見いだし、荒波を回避するのを助けてくれます。これまで航海をテーマにたとえてきましたが、他の旅路の比喩に置き換えることも可能です。
限られたリソースの中では、測定はさまざまな選択肢を比較評価する基盤であり、組織のミッションの実証と改善に役立ちます。意思決定において、客観的なデータほど説得力のあるものはありません。測定は投資利益率(ROI)の基礎でもあります。ROIは非営利団体の運営に必要なリソースを正当化するときに必要になります。
必ずしもそうではありません。実際に舵を取るのはスタッフやステークホルダーですが、指標は海図の役割を果たします。指標は、コミュニティや支援対象の人々、スタッフ、そしてスタッフがミッションの実現に向けてどのように進んでいるかを表します。誰も数字だけで扱われたくはありません。グラフには右脳にも訴える工夫が必要です。
指標が示すものの例をいくつか挙げます。
この記事では、非営利団体が絶え間なく変化するコミュニティのニーズに対する解決策に資金を提供できるよう支援することを目的として、非営利団体の資金調達およびマーケティングにおけるパフォーマンス測定について説明します。
なぜインパクト評価ではないのかと疑問に思うかもしれません。私たちはプログラムやインパクトデータの力を信頼しています。プログラムやインパクトデータを扱った情報も多数あります 。プログラムの成果については、資金提供者の要件や運営上の性質から、すでに「証拠」の蓄積があります。しかし、マーケティング担当者や資金調達担当者からは、自分たちの仕事の成果を証明するよう求められているという声を聞いています。
収益を生み出すチームも、こうした指標を成長のために活用すれば扱いが変わる可能性があります。間接費や総収益の成長に投資すると、「非営利らしくない」と非難されることもあります。しかし、資金調達はインパクトを生み出すプログラムの生命線であり、不況時にはこれらの資金が不可欠になります。
私はこれまで、多くの資金調達のリーダーたちと仕事をする機会に恵まれてきました。優れた資金調達リーダーは自らのパフォーマンス指標に精通しており、1ドルの投資がどのように寄付やインパクトにつながるかを理解しています。特にROI(投資収益率)への深い理解は、さらなる投資を求める際の強力な後押しになります。優れたリーダーは、資金が成果へどう変わるかを語れます。
Paul Matthews-Brokenshire氏業界別ソリューション, Salesforce.org
膨大なデータの中には、追跡できる指標が無数に存在します。重要業績評価指標(KPI)の優先順位付けは徹底的に行いましょう。組織が扱える以上の数を設定すべきではありません。
Salesforceでは、何らかのCRMやマーケティングテクノロジーを利用している非営利団体が、自組織のデータをエクスポートし、KPIを深く理解できるようにするための簡単な方法を用意しました。非営利団体向けSalesforceやNonprofit Success Packを使用している場合は、下にスクロールするとTableauを使った分析方法を利用できます。
このスプレッドシートにデータをエクスポートしてすべてのKPIを追跡し、Tableauで可視化しましょう。
また、指標の整理も重要です。すべてのKPIは指標ですが、すべての指標がKPIというわけではありません。測定するKPIは数を絞り、組織の戦略に直結させる必要があります。通常は、目標設定フレームワークを通じて戦略に紐付けます。Salesforceには、多くの組織でも採用されているV2MoM (Vision(ビジョン)、Values(価値)、Methods(手法)、Obstacles(障壁)、Metrics(指標))というプロセスがあります。他に、OKR(目標と主要な成果)のような手法を採用している組織もあります。
Salesforceでは、データにもとづく独自調査を通じて、ほとんどの非営利団体の専門家がこの測定というテーマに関心を持っていることを把握しています。これはSalesforceが調査している領域の1つであり、人々は一貫して「もっと良い仕事ができる」と感じていると回答しています。
指標と、それを支える基盤データのユースケースは無数にあります。ここでは、いくつかのカテゴリに焦点を当て、チームをよりデータ主導な方向へ移行させる具体例を紹介します。
各ユースケースのステークホルダー、要件、必要な詳細レベルはそれぞれ異なります。各ダッシュボードを作成する際は、エンドユーザーを意識し、営業トークの流れでどう語れるか、また後でどのように理解されるかも考慮しましょう。
支出の正当化について考えるとき、本質的には意見を求める相手のために、体験をジャーニーマッピングしているのです。たとえば、理事会メンバーの賛同を得たい場合は、彼らのニーズを理解し、そのストーリーの流れの中でKPIを提示する必要があります。
Bonnie Beauchamp氏ビジネスアナリスト, Atlanta Mission
「前例のない時代にいる」という言葉は、もはや陳腐な表現といえるかもしれません。気候、政治、戦争、健康、テクノロジー、規制、プライバシー、セキュリティ、ステークホルダー、スタッフのスキル、コミュニケーションチャネル、そしてあらゆる人々の期待といった領域で、変化は加速しています。これらすべての変化の風は異なる方向に突風として吹いており、すべての風を捉えようと進路を変えていると、帆とスタッフが混乱したり、スタッフが船酔いで苦しむ中、同じ場所を堂々巡りすることになりかねません。
ここでは、Salesforceの分析機能を通じてリアルタイムデータを手元で活用できる、指標を備えた今すぐ使える3つのダッシュボードを紹介します。
資金調達とマーケティングのKPIを自動計算し、データをTableauで可視化することで、データの力を引き出す方法を学ぶハンズオンセッションに参加しましょう。
この支援者ビューを深く理解するために使用できる指標やKPIは数多く存在します。非営利団体か営利企業かを問わず、Salesforceの顧客で最も成功している顧客は、支援者や顧客のライフサイクルの各ステップの財務的・戦略的価値と、それを裏付けるKPIを把握しています。これが意思決定の基盤として作用し、ほとんどの場合、数年にわたる長期的なアプローチで測定を行っています。3年、4年、5年が理想的ですが、それ以上の時間をかける場合もあります。
主要KPIを3〜5件に絞って優先順位付けすれば、意思決定の拠り所となり、成功を継続的に可視化できます。最初に設定するKPIとしては、寄付者1人当たりの収益、寄付者獲得コスト(DAC)、維持率、離脱率などがお勧めです。これらの指標は、戦略が正しい方向に進んでいるかどうかを示す確かな指標となります。指標同士の相互作用を理解することも重要です。たとえば、DACが減少していても、維持率や寄付者1人当たりの収益も同時に減っている場合、必ずしも良い兆候とは限りません。質の低い支援者を獲得しているだけかもしれませんし、維持活動に改善が必要であることを示すサインかもしれません。
TableauをNonprofit Success Packに接続するには、ここをクリックしてください。
多くのマーケティングエキスパートは、寄付者生涯価値(Donor Lifetime Value、LTV)こそが荒波の中の北極星であり、すべてを導くツールだと考えています。LTVは会計年度をまたいで動く機関室のようなもので、支援者一人ひとりの生涯にわたる価値を高めれば高めるほど、成長の持続可能性も高まります。
しかし、LTVの算出は簡単とは限りません。過去データとして寄付者の生涯寄付額の合計を用いることはできますが、将来の価値を予測するのは簡単ではありません。このトピックに関して、Adrian Sargeant氏が非営利団体に対して最も有益なアドバイスをいくつか 提示しています。彼は慈善団体の発展に多大な貢献をしてきた研究者です。Adrian Sargeant氏に関する情報は付録を参照してください。
長期的な支援者価値という重要な視点を持つことが大切です。次のようなKPIが良い例です。
ヒント:コホートの過去のパフォーマンスを予測モデルに入力し、最新の会計年度のコホートが今後3〜5年間でどの程度の成果を上げるかを予測します。
パフォーマンスの高いチームの中には、従来のムーブマネジメントアプローチを通して見込み支援者と段階的に関係を構築するために、週、月、年ごとにこれらの支援者と行うべき重要な交流や会話の回数といった指標に紐付けて目標を設定しているところもあります。
非営利団体は、指標とその意味を深く理解し、それをあらゆる意思決定に反映させる必要があります。たとえば、投資を集中すべき獲得チャネル、チームが優先すべきセグメント、支援者ジャーニーにおける障害を解消すべき場所、将来の成長を予測する期間などです。これこそあらゆる会話に出てくる話題です。
Jane Trenaman氏業界アドバイザー, Salesforce.org
年末キャンペーンやギビングチューズデーキャンペーンの良いニュースは、誰だって嬉しいものです。これらの指標は、チームにとって大きな勝利となります。マーケティングチームと資金調達チームの両方が関わっており、KPIに集約される指標を共有できるからです。
また、これらのキャンペーンに関連するコストは、最前線での資金調達活動(コストの大半がスタッフの時間や報酬にあたる場合)よりも測定しやすい傾向があります。マーケティングチームと資金調達チームがどのように連携しているかを共通の視点で捉えることは、信頼関係や成功測定の文化を築く助けとなります。
Atlanta Missionでは、マーケティングチームと資金調達チームがさまざまな寄付者向けの体験設計で協力し、パフォーマンス測定も共有しています。
詳細は「Trail Guide to More Personalized Communications(よりパーソナライズされたコミュニケーションのためのトレイルガイド)」のセッション1およびセッション2をご覧ください。
これらすべての指標は、キャンペーンまたはチャネル別にグループ化できます。
意思決定の指針として指標を厳格に活用するほど、時間・労力・マーケティング支出の優先順位を付けやすくなります。
指標を選ぶ際は、目標に関連し、最終結果を見据えて整理されていることを確認してください。たとえば年末予算を立てる場合、前年と今年の過去のパフォーマンス、ベンチマーク、チャネルごとの収益(Salesforceではキャンペーン種別)を比較して掘り下げるとよいでしょう。年末キャンペーンには多くの変動要素があるため、キャンペーン階層を使えばキャンペーンやチャネルパフォーマンスのあらゆる側面を把握しやすくなります。
これらの指標はどこで測定すべきでしょうか?CRM?マーケティングシステム?ビジネスインテリジェンス?場合によっては、これらすべてです。マーケティングシステムは通常、CRMより多くのエンゲージメントデータを保持しますが、その大半はCRMに渡すことで、コンバージョンを収益に結びつけて追跡しやすくするべきです。CRMデータは、Tableauのようなビジネスインテリジェンスツールを使って可視化することもできます。以下はその一例です。
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マーケティング担当者向けに構築された、より堅牢なツールも存在します。分散していたシステムを統合し、あらゆるチャネルを接続し、マーケティングパフォーマンスを理解するのに役立ちます。Datoramaなどのツールが挙げられます。
例:緊急アピール
典型的な例が緊急アピールです。多くの資金調達担当者と同様に、私たちも本来こうした活動が不要であってほしいと願っていますが、緊急時の民間からの支援は極めて重要です。緊急アピールは、デジタルチャネルを通じて多数の単発寄付者を獲得し、会計年度の総収入、コスト対収入比率、広告費用対効果(ROAS)、その年度の獲得チャネルのパフォーマンスを押し上げることができます。しかし、寄付者のオンボーディングが非常に優れていない限り、これらの支援者を長期間の定期的な寄付パターンへと転換させるのは難しい場合があります。
世界は非常に不安定で、明日何が起きるかは、今日と同じ日でないこと以外、誰にも分かりません。私たちは、将来の資金調達におけるリスクやチャンスを、より曇りのない目で見極められるよう支援し、経営会議や理事会をもう少し順風満帆な航海にしたいと考えています。同時に、このデータを活用することで、将来の明確なビジョンにもとづいて、チームの生産性向上や行動を促進することもできます。
予測は、適切なプロセスとテクノロジーを前提に、さまざまなシナリオで将来の業績や収益を見通すのに役立ちます。予測は、長期なら理事会と行う年次計画策定のようなマクロトレンドを発見したり、短期なら月次予測と資金調達チームの活動検証を組み合わせて短期的な成果を促したりすることができます。
効果的な予測は、将来の計画づくりだけでなく、常に正しい方向へ進んでいるかを確認できるようにすることもできます。ここでの小さな改善が大きな成果として返ってきます。
あらゆる指標と同様に、何をいつどのように測定するかの枠組みが重要です。すべての機会を単一の会計年度/四半期に紐付け、キャンペーンを使って寄付をより詳細なカテゴリに整理します。
トップダウン方式で予測する場合は、「新しいプログラムに100万ドル必要だ」と設定し、その必要収益を予測した資金調達期間に割り振ります。これはミッションの運営や拡大に向けて必要なことを整理するための優れた方法と思われがちですが、実現は難しく、プロジェクトが単なる願望のように感じられることもあります。
トップダウンの考え方だけでは、1)その資金をどのように獲得するか、2)過去データにもとづくボトムアップ予測でその目標を達成できないのか、を考えるのには役に立ちません。
そこで役立つのがボトムアップアプローチです。昨年の大型キャンペーンやアピールの開始日と終了日をX軸に、対応する収益をY軸に置いて可視化します。何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのか、そして今年は何を変えるのかについて話し合います。100万ドルを得るには、何に力を入れればいいでしょうか?成功したキャンペーンをもう一度実施できますか?助成金のような新たな収益源が必要でしょうか?ここで注視すべき主なKPIは、期間別の収益予測、予測目標、実績との差(差異)です。
寄付の成否を最も的確に判断できるのは、支援者と最も近い関係にある人です。年次計画を策定する際は次のような作業を行います。
注:多くの場合、未計画の寄付による解消を見込んでいるギャップが存在するため、予測プロセスはこれにもとづいてバランスを取るか、予測に組み込まず、時間をかけて埋めていくことになります。
私たちは非常に協調的な計画プロセスを採用しており、機会オブジェクトにいくつかの計画用フィールドを追加することで、自分たちのニーズに合わせてパーソナライズしています。Salesforceなら、特定の日付時点の想定進捗、想定より先行しているか遅れているかを容易に追跡できます。具体的には、計画上のクローズ日、実際のクローズ日、現在の日付にもとづいていくつかの簡単なレポートを実行することで、寄付の動きを示す一連のレポートを簡単に作成できます。その結果、私たちがどこに向かっているのかを全員に示すことができるのです。
Nate Marsh氏データ担当ディレクター, Thrive Scholars
マーケティング活動と資金調達活動をまとめて予測していない場合、計画立案は難しくなります。たとえば、ガラを開催するとして、ライブ配信のオンライン募金、イベントでの対面の募金、スポンサーシップ、大口寄付からどれだけの収益が得られるかを予測できますか?その予測額に自分たちがどれだけ貢献するかを、各チームは把握しているでしょうか?
キャンペーン階層を正しく設定していれば、イベントの予想成果に対する各自の指標を示す予測を作成し、各グループはその成果を達成するために必要な活動を把握できるはずです。それを前年や類似イベントで実施していれば、同様の結果が見込めるか否かを議論するためのベンチマークも手元にあるはずです。
情報量が多いことは理解していますが、パフォーマンス向上のために、お客様が指標にもとづいたアプローチに移行する助けとなることを願っています。
データはすでに手元にあります。今あるものから始めて…データをつなげる一歩を踏み出しましょう。それは、ここまでに紹介したユースケースでも、次のような領域でもかまいません。
Atlanta Mission、Thrive Scholars、Salesforceのデータエキスパートが登壇し、資金調達とマーケティングのパフォーマンスをどのように測定するかについて語ります。
データの「船長」となり、データの価値を組織全体に広める教育を推進する責任を担う人が必要です。可能であれば、社内でその役割を担える人を見つけ、必要なトレーニングを提供しましょう(内容が充実したこちらのデータアナリストトレーニングをご参照ください )。うまく適合すれば新しい役割につながる可能性があり、彼らの仕事が新しい人材の採用の根拠になることもあります。
多くの非営利団体は、特定の指標を特定の方法でしか報告できないシステムに縛られていたり、スプレッドシートへのエクスポートが必要だったりします。テクノロジーは、この記事で述べた内容すべてをサポートできるものであるべきです。
サンプルユースケース:詳細はこちら!
データと指標にもとづいた北極星がなければ、船は海上で迷ってしまうかもしれません。共通のKPIがなければ、組織内の摩擦や、不快な会議での責任追求、意思決定の遅延といったリスクが生じます。この記事の冒頭でデータの人間的側面について触れたように、支援者は実在する人々であることを決して忘れず、関係性のレンズを通してデータを見る必要があります。
さて、この記事を最後まで読んでくださったあなたは、きっとデータをよりよく使いたいと考えているか、この種のコンテンツに飢えている方でしょう。私たちは、この航海で皆様のお手伝いをしたいと考えています。アドバイスが必要な場合はご連絡ください。データに関する見解はコメントで残してください。そして、この記事が役立ちそうだと思う方にぜひシェアしてください。
このスプレッドシートにデータをエクスポートしてすべてのKPIを追跡し、Tableauで可視化しましょう。