

福岡県を地盤に総合金融サービスを展開する西日本フィナンシャルホールディングスグループ。その中核銀行である西日本シティ銀行では、グループ中期経営計画における基本戦略の1つの柱として「お客さま起点の“One to Oneソリューション”の提供」を掲げています。かねてより運用してきたコールセンターシステムの保守契約終了を契機に、同システムをフルクラウド型で全面リニューアル。SalesforceのService CloudとAmazon Connectの組み合わせにより、デジタルとヒューマンタッチを融合するコンタクトセンターの新たな姿を実現しました。
「高い志と誇りを持って時代の変化に適応し、お客さまとともに成長する九州No.1バンクの実現を目指す」という経営理念を掲げる西日本シティ銀行では、激しく変化する時代に、法人・個人の顧客が抱える課題を解決し、地域経済の活性化に貢献しています。
同行では、2020年4月〜2023年3月の3カ年を対象とするグループ中期経営計画「飛翔2023 〜地域の元気を創造する〜」に基づく施策を実践。特に中期経営計画内で3つの基本戦略の1つとして謳われている「お客さま起点の“One to Oneソリューション”の提供」では、スマートフォンなどを活用した銀行取引サービスの強化など、デジタルソリューションの拡充を図っています。加えて同行では、自らの強みを人と人との出会い、すなわち「ヒューマンタッチ」と捉え、デジタルチャネルとリアルチャネルの最適な形での融合を目指しています。
このヒューマンタッチの重要な場の1つとなるのがコンタクトセンター業務です。今回、かねてより運営してきたコールセンターシステムが保守契約切れを迎えることもあり、システムの全面リニューアルを決定。「コンタクトセンターが、リアルとデジタルの間にある、『有人かつ非対面』のチャネルとして、どのような役割を担うべきかを綿密に検討したうえでシステムのリニューアルを進めていくというアプローチをとりました」と西日本シティ銀行の安部伸吾氏は語ります。
例えば営業店の担当者へのスマホ貸与が進んでいることや、顧客にもスマホアプリの利用が広がりつつあることから、担当者への取り次ぎや残高照会といった単純回答できるコンタクトセンターの受電数は減少傾向にあります。その一方で、経営効率化の観点からリアル店舗が縮小され、これまで店舗で行なわれていた顧客サポートがコンタクトセンターに委ねられている側面もあります。同行では実際にシステム導入に着手するにあっては十分な検討を重ねたといいます。
コンタクトセンター業務に電話以外のデジタルチャネルも順次ミックスしていくかたちで、エンゲージメントセンターへと進化させていきます
安部 伸吾 氏デジタル戦略部 調査役, 西日本シティ銀行
その上で、同行が決断したのは、新システムをフルクラウドで構築することでした。「オンプレミスでは避けて通れない、一定期間ごとの更改サイクルから脱却したかったことが大きな理由です。また、これだけ世の中やお客様の変化が激しい中で対応しうる柔軟なシステムが不可欠でした」(安部氏)
ただし、金融機関という顧客情報を扱う業態ですから、クラウドへのシフトのようなドラスティックな変更には、意思決定にも時間が必要です。準備期間の9カ月の間に、経営層の方々にもシステムインフラとしてのクラウドの必然性をしっかりと理解いただいたといいます。
準備作業として、西日本シティ銀行では、システムにかかわる要求事項を固め、それに基づくRFPを各ベンダーに投げかけ、寄せられた提案を精査しました。その結果、同行では、電話にかかわるCTIの基盤としてアマゾン ウェブ サービス (AWS) が提供するAmazon Connectを採用する一方、顧客管理などコンタクトセンターの業務系システムとしてSalesforceのService Cloudを選定。
Salesforceを採用したことについて安部氏は「Salesforceが、我々のRFPに盛り込んだ要求事項をトータルに満たしていたことはもちろん、何よりもその実績からくる安心感が大きかったです。当時地銀ユーザーは少なかったものの、メガバンクをはじめ多くの銀行での導入事例は、採用の大きな後押しとなりました」とそのポイントを説明します。
Amazon ConnectとService Cloudの連携によるシステム構築の結果、フルクラウド型のコンタクトセンターシステムが実現されました。AmazonConnectとSalesforce Service Cloudを用いたフルクラウド型のコンタクトセンターシステムとしては、地域金融機関で国内初の試みとなりました。そこでは、顧客一人ひとりの嗜好や状況に合わせたサービスを、最適なチャネルを通じて提供することが可能となりました。さらに、入力項目の簡素化や連絡帳票のペーパーレス化など、コンタクトセンターでの応対品質や業務生産性向上も実現しました。
「これまでの電話に加えて、スマートフォンのSMSやチャットでオペレーターがお客様からの問い合わせに対応できる仕組みも今後導入していきます」と安部氏は紹介します。クラウドを採用したことで、今後新たに登場するであろう顧客チャネルへの対応、多種多様なデジタル技術を活用したサービスにも素早く対応できる体制が整いました。
西日本シティ銀行では、開発面でもSalesforceにはアドバンテージがあったと高く評価しています。1つには、データベースやロジック、画面の多くをLightning Platformを使ってノーコード/ローコードで開発できた点を挙げます。
「要件定義の段階から、画面とデータベースを動かしながら、実画面を確認して開発できたことは非常に有効でした。都度できあがりのイメージを我々とベンダーが適切に共有しながら進めていくことができました」と安部氏は評価します。これにより、かつてのウォーターフォール型開発にありがちな、いざ受け入れテストといった下流段階で、手戻りが発生することも少なく、開発プロジェクトを円滑に進めることができたといいます。さらには、SaaSの標準機能だけで開発できることが多く、しかもノーコードで行えることから、レイアウト変更や項目の表示/非表示といった軽微なものは、“秒単位で”修正したものもあるそうです。
また、銀行業務に必要だが通常のSaaSでは実装できない複雑なカスタマイズ項目についてもLWC(Lightning Web Component)によるアプリケーション開発によって、通常のWeb開発の要領で開発・実装することができたと評価します。
さらに、AppExchangeによって、Salesforceのパートナーが提供するサービス群を手軽に取り込み、利用できる仕組みが整備されている点も高く評価しています。「Amazon Connectとの連携についても、AppExchange上でいわば『ボタンを押すだけ』で、アダプタによる組み込みが行われ、必要な設定をするだけで使い始めることができました」と安部氏は説明します。
以上のように、顧客起点のOne to Oneソリューションの実現を支えるコンタクトセンター基盤をフルクラウド型で整えた西日本シティ銀行。将来に向けて、より広範な顧客チャネルとの連携を実現していくことになりますが、すでに準備が進められているのが、マーケティング領域との連携です。
「当行では、導入済みのSalesforce Marketing Cloudを核に、各チャネルを通じてパーソナライズされた顧客体験をリアルタイムに提供していくマーケティングオートメーション(MA)の取り組みも推進しています。そこに有人非対面のコンタクトセンターのチャネルを融合することで、我々の顧客起点のOne to Oneソリューションにおいて新たな価値を創出していけるものと考えています」と安部氏。
西日本シティ銀行では、優れた顧客体験の提供と顧客ロイヤルティの向上を目指した、銀行サービスにおけるDXの推進を、Salesforceをパートナーに加速させています。
※ 本事例は2022年11月時点の情報です