
デジタルレイバーとは?
インテリジェントなAIエージェントを活用したデジタルワークフォースを導入すると、人間のワークフォースを増強し、仕事の進め方を変革できます。
寄稿エディター:Lisa Lee
インテリジェントなAIエージェントを活用したデジタルワークフォースを導入すると、人間のワークフォースを増強し、仕事の進め方を変革できます。
寄稿エディター:Lisa Lee
1960年代以降、ビジネステクノロジーは反復的な進歩を遂げてきました。メインフレームやPCからスプレッドシート、顧客関係管理(CRM)まで、イノベーションが起こるたびに、仕事のスピード、効率性、接続性が向上しています。しかし、これらは人間による入力、解釈、努力を必要とするツールにすぎませんでした。AIエージェントはまったく異なるものです。AIエージェントはただ助けるだけでなく、行動します。そして自律的にタスクを分析、決定、実行し、人間の労働力が太刀打ちできない速度と規模で運用します。
これらのエージェントは、単調で価値の低い作業を処理するだけでなく、価値の高いマルチステップのタスクを調整して実行するデジタルレイバーの新しい世界を表しています。これは単に一歩進んだわけではなく、大きな飛躍であり、仕事の進め方と企業でできることを再定義するものです。
誇張だと思う人もいるでしょう。しかし私たちはそうは思いません。たとえば、エージェントファーストの企業が経済に与える影響を考えてみましょう。2030年の世界のGDPは14%増(15兆7,000億ドル相当)になると予想 されていますが、これは主に、人工知能(AI)による人的労働の増強がもたらす生産性の向上によるものです。デジタルレイバーは、企業が予算を最適化し、莫大な運用コストを追加することなく、より多くのことを行うのに役立ちます。
SalesforceのCEOであるマーク・ベニオフが最近述べた ように、AIエージェントとデジタルレイバーは「これまでに起こったこととは大きく異なる」のです。
デジタルレイバーとは、人間の意思決定と認知能力を模倣するテクノロジー(AI自動化やAIエージェントなど)を指します。これにより、人間の能力が拡張され、人間だけでは対応できない速度と規模でタスクを完了できます。
税務シーズン中の金融サービス会社を想像してみてください。従来、人間のアドバイザーや基本的なソフトウェアが、クライアントのファイリング、口座照会、または不一致項目のフラグ付けを支援していました。しかし、デジタル労働力は、財務書類の分析、控除の特定、コンプライアンスリスクのフラグ付け、さらにはカスタマイズされた財務アドバイスを、人間の介入なしにリアルタイムで提供することができます。これらのエージェントにより、企業は前例のない量を処理しながら、より優れたクライアントエクスペリエンスを提供できます。
AIエージェントはデータを分析して意思決定を行い、従来の生産性向上ツール(オフィススイートなど)とは異なり、継続的に学習して適応します。そしてAIエージェントは、反復的で退屈な仕事だけではなく、認知的で創造的な仕事にも取り組んでいます。
AIエージェントが自社の従業員と協力して働くことで、コストと時間をどれだけ節約できるのかをご確認ください。いくつかの簡単な質問に答えるだけで、Agentforceの効果を確認できます。
私たちが生成する膨大な量のデータは、人間の処理能力をはるかに上回っています。今年は、全世界で毎日463エクサバイトのデータ(1の後に18個のゼロが続く)が作成される見込みです 。AIエージェントはこのデータを必要としており、この規模でもうまく稼働し、データをリアルタイムで実用的なインサイトに変換します。データを消費すればするほど、よりスマートで効果的になり、意思決定と行動を継続的に改善して、より良い結果をもたらします。
また、すべての募集職種を埋めるのに十分な労働者がいないのが現状です。全米商工会議所 の2024年12月の報告書によると、「全米の失業者全員が仕事を見つけたとしても、まだ何百万もの求人がある」ようです。
デジタルレイバーは、これらの課題に対処するため、企業にとって非常に重要です。
デジタルオートメーションは何十年も前から存在しており、組織が物事をより迅速かつ効率的に行うのに役立っています。しかし、データ、テクノロジー、需要の集約は転換点に達しており、AIエージェントが真のデジタルワークフォースを強化できる時機が来ました。
機械学習(ML)、自然言語処理(NLP)、そして自動化の進歩により、AIは理論的な概念から実用的な概念へと移行し、AIエージェントは複雑で自律的な意思決定と推論ができるようになりました。
Salesforceが先駆者となったサービスとしてのソフトウェア(SaaS)と同様に、デジタルレイバーは、企業に競争力をもたらし、新世代のリーダーを生み出すビジネスモデルです。SaaSは1999年に誕生しましたが、主流になるまでには何年もかかりました。そうなると、オンプレミステクノロジーに固執した企業は、クラウドに移行した企業に比べると、規模、柔軟性、コスト効率、継続的なイノベーションに欠き、遅れをとっていました。
AIやデジタルワーカーの採用が遅れている企業にも同じことが起こりますが、指数関数的に速くなるでしょう。
証拠が必要ですか?AI、特に生成AIは、その開発と採用がほぼ並行して行われているという点で、他の技術シフトとは大きく異なります。2025年3月にマッキンゼーが実施したグローバル調査によると 、回答者の71%が生成AIを日常的に使用しています。
この調査では、生成AIがすでにコストを削減し、収益を増やしていることもわかりました。したがって、ビジネスリーダーが強気であることは驚くことではありません。Ernst & Youngの調査によると、AIに投資している組織のリーダーの97%が、その投資によるROIがプラスであると報告 しており、34%が今年AIに1,000万ドル以上を投資する予定であることがわかりました。
企業はつねに、より少ないリソースでより多くのことを行うことが期待されています。デジタルワークフォースは、人間の潜在能力と出力を増強するだけではありません。デジタルワーカーはより速く、よりスマートに、24時間稼働できるため、組織業務の効率化にもつながります。
また、デジタルレイバーは、企業が大量に雇用することなく、労働力と能力を拡大するのにも役立ちます。人間の採用とは異なり、デジタルエージェントは即座にデプロイでき、人間の労働者を統合してトレーニングする複雑さに悩まされることなくビジネスニーズに適応できます。AIエージェントで人間のチームを強化することで、企業の成長スピードが向上します。また、従業員を戦略的な仕事に就かせることができるので、より大きな成果を得られるようになります。
デジタルレイバーがもたらす生産性は、GDPの成長に不可欠です。エージェントは、人間の労働力を増幅し、イノベーションと効率化を大幅に推進します。その過程で、ほぼすべての業務が変わることになるでしょう。もちろん新しく生まれる業務もあれば、消えていくものもあります。
Salesforceのお客様は、すでに営業部門、サービス部門、その他の部門にデジタルレイバープラットフォームを展開しています。世界最大の人材ソリューション企業の1つであるAdecco Groupでは、Agentforce(Salesforceプラットフォームのエージェントレイヤー)が数億件の履歴書を自動的に選別し、採用担当者がレビューできるように最終候補リストをまとめています。
レストランテック企業のOpenTableでは、予約の変更やポイント交換などの定型業務をAgentforceが自律的に処理しています。また、出版社のWileyでは、Agentforceがアカウントへのアクセスの問題、パスワードのリセット、登録と支払いの優先順位付けの問題に取り組んでいます。Wiley'sのようなビジネスにおいては、デジタルエージェントを活用して繁忙期に労働力を容易に拡大できることが重要となります。
ベニオフはポッドキャストで 、既存のエンジニアがエージェントを使用して得た利益を踏まえ、Salesforceは今年、ソフトウェアエンジニアを追加で雇う必要性について議論していると述べました。同時に、Agentforceは現在、Salesforceのヘルプサイト における顧客からの問い合わせの83%を、人間にエスカレーションすることなく解決しています。サービス担当者の必要性が減ったため、一部の担当者は営業開発などの役割に就くためのトレーニングを再受講 できます。
デジタルレイバーとデジタルワーカーは、同じ意味で使用されることがよくありますが、概念が異なります。デジタルレイバーとは、デジタルテクノロジーによって促進される作業の包括的な概念を指し、日常的なタスクの自動化からデジタルプラットフォーム上のユーザー生成コンテンツまで、あらゆるものを網羅しています。従来の作業モデルとプロセスを再形成します。一方でデジタルワーカーは、デジタルレイバー内の独立した存在であり、人間の能力を模倣し、複雑なタスクを処理する高度なソフトウェアアプリケーションです。
デジタルワーカーは仮想従業員として機能し、かつては人間の労働者の領域であったさまざまな役割を果たすことができます。これらの洗練されたシステムは、データの分析、意思決定、さらには顧客との対話を行うことができ、人間の労働力の能力を強化します。デジタルワーカーの台頭により、人間の従業員とAI駆動システムがシームレスに連携するハイブリッドワークフォースが生まれました。
機能 | デジタルレイバー | デジタルワーカー |
定義 | AI技術による業務の促進 | 人間の能力を模倣した高度なソフトウェア |
スコープ | テクノロジー主導の業務を幅広く網羅 | 個々のAIエージェントタスクに限定的にフォーカス |
例 | 自動化、オンラインコンテンツ作成 | AIを活用したカスタマーサービスエージェント、データアナリスト |
顧客関係 | 包括的なコンセプト | デジタルレイバー内の特定のコンポーネント |
デジタルレイバーの主な利点の1つは、反復的で日常的なタスクを自動化する能力であり、人間の労働者はより戦略的で創造的な取り組みに集中できるようになります。このような変化により、従業員はより有意義な仕事に従事できるようになるため、業務効率が向上し、仕事の満足度が向上します。AIエージェントを搭載したデジタルワーカーは、デジタルレイバーの広範なエコシステムに不可欠であり、イノベーションと生産性を促進します。
AIエージェントの素晴らしい点はその無限の適用性あり、さまざまなタスクを処理するように調整できます。
AIテクノロジーが進化するにつれて、デジタル労働力におけるAIエージェントの潜在的な有用性は実に無限であり、インテリジェントの自動化によって人間の想像力が高まる未来が約束されています。デジタルワーカーの統合は、単に人間の労働力と置き換えることではありません。それは、両方の強みが最大限に発揮される相乗効果のある環境を作り出すことです。デジタル従業員は、スピード、精度、大規模なデータ処理を必要とするタスクに優れています。一方で人間の従業員は創造性、批判的思考、感情的知性をもたらします。この補完的な関係により、より適応性が高く、効率的で、革新的な職場環境が育まれます。
自律型のAIエージェントにより、あらゆる役割、ワークフロー、業界における仕事の進め方を変革します。
デジタルレイバーは変革をもたらしますが、すべての状況で使用できるわけではありません。
データ入力、請求書処理、在庫管理など、反復的で日常的なタスクを正確かつ迅速に実行するのに最適です。デジタル労働力は、膨大なデータセットの処理と分析、傾向の特定、結果の予測ができるほか、マルチステッププロセスの提案と実行までこなすことができます。また、休みなく24時間稼働しているため、インテリジェントで継続的な運用と顧客からの問い合わせへの迅速な対応が保証されます。これは、顧客の応答時間と満足度にプラスの影響を与えます。
しかし、デジタルレイバーには感情的知性が欠けており、人間の感情を理解し、それに対応するために必要な共感力を持ち合わせていませんnそのため、カウンセリングや深刻な医療問題などのよりデリケートなカスタマーサービスでの利用には適していません。
また、創造性が求められる問題解決においても人間に遅れをとっています。AIは既存のデータに基づいて解決策を生み出すことができますが、人間の直感と創造性を必要とする創造的な問題解決には苦戦しています。たとえば、AIは市場動向を分析し、投資戦略を提案することはできても、人間の起業家が思い描くような画期的なビジネスモデルや革新的な製品デザインを思いつくことはできないかもしれません。
最後に、少なくとも今のところ、デジタルレイバーは自らの行動について、長期的で連鎖的な結果を予測し、考慮することができません。たとえばAIは、製造プロセスを最適化してコストを削減することはできますが、潜在的な環境への影響、あるいは地域雇用やコミュニティの福祉に対する長期的な影響を予測できない場合があります。このようなケースでは、AIよりも広範な影響を評価できる人間が、AIのチェックを行います。
デジタルレイバーはビジネスに劇的な変化をもたらすため、デジタルワークフォースの構築を支援する適切なテクノロジーパートナーが必要です。Salesforceは、この点で特別な立場にあります。まず、私たちはAgentforceの使用において「カスタマーゼロ」を採用しており、自らの経験をビジネスリーダーと共有することができます。
前述のように、Agentforceはオンラインの顧客からの問い合わせを自律的に解決します。Afentforceは、Salesforceのサイト全体に展開されており、平易な言葉の質問に答え、それに応じた情報を提示します。
次に、AIが最善の意思決定を行うためには、できるだけ多くの優れたデータにアクセスする必要があります。SalesforceのプラットフォームはすでにCRMのバックボーンとしての役割を果たしており、デジタルレイバーを展開するための自然なハブとなっています。Data Cloudは、企業全体のデータを統合および調和させるためのプラットフォームであり、あらゆるソースとタイプのリアルタイムかつ高品質のデータをAIエージェントに供給することで、AIエージェントを強化します。つまり、AIがよりスマートで正確な意思決定を下せるので、パーソナライズされ、状況に応じたインサイトを提供することが可能です。AIエージェントは継続的に学習し、改善していく能力を備えているため、カスタマーサービスや売上予測などのタスクに優れています。
3つ目に、アプリ、Data Cloud、Agentforceはすべて、共通のコードベースを使用しています。これは、個別のワークフローがないことを意味します。これを例えると、すべてのツールを1つのツールボックスで保管するようなものです。すべてがスムーズに動作し、互換性によって中断されることはありません。また、更新と改善が一貫して展開されるため、すべてのSalesforceツールの使用と操作が容易になります。さらに、メンテナンスが簡素化されるため、プラットフォームの信頼性と効率性が維持されます。
「私たちはこれまで、ソフトウェアだけを提供する会社でした。」とベニオフは最近のポッドキャスト で述べています。「私たちはもはや、お客様が情報を管理および共有するための情報管理ツールを提供するだけではありません。今ではデジタルワーカーを提供しているのです。」
何十年もの間、企業は生産性を高めるために人間の労働者に依存してきましたが、これは手動の事後対応型ツールによって支えられてきました。しかし今では、プロアクティブなAIエージェントが、反復的で時間のかかるタスクと、より複雑な作業の両方を人間と一緒に処理できるようになりました。
デジタルレイバーのビジネスケースは明確で、企業がより少ないリソースでより多くのことを達成できるということです。AIを活用したエージェントは、運用タスクを支援するだけではありません。人間の創造性を高め、意思決定を改善し、ワークフローを合理化します。
SaaSは、テクノロジーへの障壁を下げ、新しいリーダーと遅れをとったリーダーを生み出し、ビジネスモデルを変革しました。デジタルレイバーによる変革はさらに大きく、生産性、機動性、拡張性の新時代を切り開きます。
今は人間とAIのコラボレーションの黄金時代であり、テクノロジーの力がすべての従業員の潜在能力を最大限に引き出し、ROIを向上させます。
生成AIのパイオニアであるOpenAIが最近書いた ように、「(AI)テクノロジーがもたらす大きな経済的利益によって、全国の至る場所で再工業化が進んでいくでしょう」。
Lisa LeeはSalesforceの寄稿編集者です。彼女は25年以上にわたり、テクノロジーとそれがビジネスに与える影響について執筆してきましたSalesforceに入社する前は、Forbes.comなどの出版物で受賞歴のあるジャーナリストでした。
この記事には、SalesforceのシニアディレクターであるGraham Hardtが寄稿しています。