「他店は見るな」から「他店のために残す」へ。商工中金がAgentforce for Salesで起こした文化変革
入力したデータをAIが価値に変える。Agentforce for Salesが現場の「問い」に答えを返しはじめた
入力したデータをAIが価値に変える。Agentforce for Salesが現場の「問い」に答えを返しはじめた
商工中金が向き合っていたのは、経営面と現場面、ふたつの課題でした。
経営面では、「中小企業の伴走支援」という原点に改めて立ち返り、組織の判断軸も、現場の行動様式も、それを支える仕組みも、丁寧に整え直す必要がある——そうした問題意識が変革の出発点でした。
現場の課題は、より構造的なものでした。2008年から使い続けてきたスクラッチ開発の営業支援システムは、長年の追加改修を重ねるうちにシステム同士が複雑に絡み合い、変化への対応力を失っていました。小規模な項目追加に2〜3ヶ月、大規模な対応には1年。変化への意思が、システム側のスピードに縛られ続けていたのです。
過去のデータを掘り起こすだけでも、社員は多くの時間を奪われていました。「データを使ってお客様の課題を見つけに行こう」という発想は、生まれる前にしぼんでしまう。結果として、営業活動は個人の経験やスキルに大きく依存するスタイルへと固まっていきました。
商工中金は、営業基盤の刷新にあたり、Sales Cloud を全社標準のプラットフォームとして採用しました。現在、Sales Cloud は約3,300名の社員が利用し、お客様ごとの商談や行動の履歴を一元管理する基盤になっています。
顧客接点の側では、Experience Cloudを活用した法人ポータル「商工中金Bizリンク」を構築。決算書の提出や残高照会といったお客様の手続きをデジタル化するとともに、非対面の接点を通じてお客様の関心やニーズをデータとして蓄積し、次の対話の起点にしています。対面の打ち合わせだけでは見えてこないお客様の関心の輪郭を、デジタルで補い合う発想です。
もっとも、新しい基盤への移行は容易ではありませんでした。データ連携ツールを使っても、複雑な制御を新環境に持ち込めばエラーになる。項目を絞り込んでの移行となり、現場からは「これでは仕事にならない」という強い声も上がりました。
そこで商工中金が取った手法は、本部からの一方的な号令ではなく、現場との対話でした。各支店から現場と管理職の代表者を集め、経営の危機意識を共有するとともに、現場で想定される疑問への応答を一緒に練り上げる。代表者自身の言葉で同僚に伝えてもらう。そうした地道なプロセスで、新しい基盤を着実に根づかせていきました。
定着化の取り組みは、同規模の金融機関が共通して直面する課題でもあります。商工中金が一貫して立ち返ったのは、「お客様により高い価値を届けるために、なぜこの変革が必要なのか」という問いでした。その問いを現場と共有し続けたことで培われた知見と体制は、Agentforce for Salesの全店展開においても最大の資産となっています。
Sales Cloud の定着が進むにつれ、現場から新しい声が上がってきました。「自分たちは、何のためにこのデータを入力しているのか」「入力した先に、どんな意味があるのか」。それは、当初の混乱期とは別種の、前向きで切実な問いでした。
この声に応えるため、同社は2025年10月~12月にかけて、営業店130名規模でAgentforce for SalesのPoCを実施。現場が「これは助かる」と実感する手応えを確かめてから、2026年4月に本格開発へ踏み出しました。
同サービスを用いて顧客情報サマリーを構築し、訪問前のキャッチアップにかかっていた時間を縮めます。サマリーには、訪問前に必要な情報——取引先の概要、最近の動き、過去の商談履歴に加え、「このお客様にどんなニーズがありそうか」「類似のお客様にどんな提案が刺さったか」「次に何を話すべきか」までが一画面で読み取れるよう整理されます。「あの案件と似た相談があったはずだ」という社員の記憶を、AIが具体的な情報につなげてくれるイメージです。またサマリーは汎用AIへの受け渡しを前提に設計されており、提案資料の作成や壁打ちといった次の業務へと、社員自身の判断で広げていくことができます。
また、日々の活動の起点となる「日報」からAgentforce for Salesが商談情報の更新を自動提案する仕組みも構築。「記録のための入力」から職員を解放し、入力されたデータがそのまま次の提案や顧客サマリーの高度化に活かされていきます。そもそも同社は、顧客管理・営業支援システム(CRM/SFA)導入の構想段階から「AIを使い倒すことを前提とした基盤選び」を意識してきました。Agentforce for Salesの導入は、その思想の延長線上にある自然な打ち手だったと言えます。
データ入力の先に、組織の知が蓄積され、それが次の提案を支え、やがて人を育てる——商工中金が描いているのは、そんな価値の循環です。その上で、基本機能だけの控えめな試算でも全社で年間約5万時間の業務時間創出が見込まれています。汎用AI連携やAgentforce for Salesの機能拡張により、一人ひとりの「お客様に向き合う時間」はさらに広がる見込みです。
創出された時間は、長期戦略で掲げる「集めてつなげて価値を創る」活動に充てられていきます。お客様との対話を深め、データを資産化し、新たな価値を生み出す——その積み重ねが、商工中金のパーパス「企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。」の実現へとつながっていきます。
Salesforce導入で大きく変わったのは、社員一人ひとりの中にあった情報が、組織全体で共有するものへと変わったことでした。旧システムでは権限制御が硬く、「他店の情報は見るな」が前提でした。Salesforceというパッケージの標準仕様に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方を受け入れることで、全国の情報がほぼすべての社員から見られる状態へと変わったのです。
この変化は、営業の前提を書き換えていきました。「次の担当者のために、他店で類似の悩みを抱える同僚のために、データを残す」──そんな自発的な意識を持つ社員が、確実に増えていきました。AI開発の案件にも、営業店から若手や管理職が参画するようになっています。
東京支店と大阪支店が独自のダッシュボードを作り、互いの工夫を持ち寄って磨き合う。近隣店舗で活用事例の共有会を開く。本部が号令を出さなくても、現場発の動きが各地で生まれ始めています。
CRM刷新の出発点は、中小企業の伴走支援という原点に立ち返ることでした。仕組みを変えるだけでなく、社員一人ひとりの行動や意識が変わらなければ意味がない。定着化には時間がかかりましたが、今では『データを残すことが、次の誰かの役に立つ』という文化が根づきつつあります。Agentforce for Salesは、その延長線上にある自然な進化です。
寺西 英明 氏株式会社商工組合中央金庫, デジタル戦略部長
システムを入れただけでは何も変わりません。定着化で一番大切にしたのは、現場と一緒に『なぜこれをやるのか』を考え続けることでした。また一方的な研修だけではなく、各支店の代表者を集めた交流の場をつくり、拠点の垣根を越えて変革に臨む仲間を少しずつ増やしていく。地道ですが、それが文化を変える確かな力になったと感じています。
佐藤 彰人 氏株式会社商工組合中央金庫, デジタル戦略部 マネージャー
AIを導入する目的は単なる効率化ではありません。情報が見える化されることで検索の時間が減り、その分、お客様との対話や戦略を練る時間が増えます。私たちが目指しているのは、営業活動の"質"そのものを高めることです。
終夜 太朗 氏株式会社商工組合中央金庫, デジタル戦略部 シニアオフィサー
商工中金は、生成AIの選択肢として汎用AIも日常的に活用しています。アイデアの壁打ちには、汎用AIの自由な発想が適している。一方で、お客様の事情に踏み込んで「次の一手」を考える場面では、自社固有のコンテキストが欠かせません。
Agentforce for Salesは、Salesforceに蓄積された顧客情報・商談履歴・活動ログといった構造化データの上で判断できます。「この顧客に、これまでどう向き合ってきたか」を踏まえた次の一手を提示できる点に、Salesforceならではの価値があります。
もうひとつの価値は、「Fit to Standard」を起点にしたシステム思想です。個別最適のスクラッチ開発を続ける限り、システムは肥大化し、変化への対応力を失っていく。標準仕様を受け入れ、その上で自社の価値設計に集中する──そのスタイルが、結果として「他店の情報を見られる」という権限の見直しを呼び込み、情報の民主化と自発的な活用文化につながりました。営業の現場が、自分たちの判断で動き出せる土台。プラットフォームとしての差は、その点にあります。
なお、商工中金が本質的な評価軸として置くのは、お客様への提供価値が上がったかどうかです。対話の時間が増え、提案の質が高まり、お客様にとっての商工中金の存在意義が変わること——効率化はそのための手段であり、目的ではありません。
「なぜデータを入力するのか」という現場の問いに、定性と定量の両面から手応えのある答えが返りはじめています。
すぐに使えるCRMツールがすべて無料で揃うので、導入初日からスピーディに始動できます。
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