中小企業のDX導入 完全ガイド

 
2023.4.10
中小企業には特有の課題があり、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない現状があります。これにより起こる問題も多く、特に情報の管理や共有において顕著に表れています。この状況を解決するには、可能なところからDXを進めることが近道です。この記事では、中小企業がDXに取り組む際の手順や、導入事例などを紹介します。

中小企業におけるDXの現状と課題

中小企業にでは、DXを推進するにあたって、デジタルに対する苦手意識や人材不足といった多くの課題が生まれがちです。限られた時間・コストの中で、確実な費用対効果が出るのかといった心配もあり、なかなかDXに踏み込めない企業も多いのではないでしょうか。

2022年03月04日に発表された株式会社MM総研(東京都港区芝公園2-6-3 芝公園フロントタワー)の「中小企業のデジタル化に関する調査」によれば、日本の中小企業は、中堅企業や大企業よりもクラウドサービス利用割合が約30%低いと結果が出ています。

また、「大企業と中小企業の業種別IT装備率」の図は、ICT資本ストック(固定資産ソフトウェア)を従業員数で割った額を表しています。これを見ても、中小企業は大企業に比べて大幅に額が少なく、まだまだ中小企業のDXは進んでいないのが現状です。

中小企業は大企業に比べて、従業員1人あたりの付加価値額が低いという調査結果もあり、このギャップから中小企業のDXは困難であることが想像できます。

DXは、数々のデジタルツールを導入して仕組みを作ることで業務時間を短縮し、チャンスを最大化するために生まれたものです。コストと人材が限られた中小企業こそ、DXを推進し、大企業との生産性ギャップを埋める必要があります。

 
 
 
 
 
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中小企業が今すぐ導入するべき3つのDX

DXにはさまざまな分野があるため、何から取り組むか悩んでしまうかもしれません。デジタルツールの得意とするところは、データの管理や共有、作業の自動化にあります。まずはこれらの特性を活かして、売上に貢献しやすい部門から始めるのがおすすめです。ほかの部門は、成果が出てからDX予算を上げて対応するとよいでしょう。

ここでは、中でも優先度の高い3つのDXについて解説します。

1)マーケティング・営業活動のDX

マーケティング・営業活動のDXは売上に直結するにもかかわらず、中小企業で取り組んでいる企業は多くありません。DXが進んでいない企業には、「これまで集めた顧客情報を上手く活用出来ていない」、「顧客情報が属人化されバラバラに管理されている」といった課題が見られる傾向にあります。

その結果、マーケティング業務においては施策の振り返りが十分に出来ていない、顧客の状態にあったメール配信が出来ていない。営業活動においては、事務作業が増えるだけでなく、社内での情報伝達が上手くいかずリモートワークができない/引き継ぎに失敗する、営業担当ごとのスキルや経験値に大きな差ができてしまうといった事態が起きてしまいます。

上記のような課題を防ぐには、会社単位で顧客情報を管理・共有することが大切です。顧客情報をクラウドシステムで一元管理・共有することで各案件の進捗をリアルタイムで確認できます。加えて、これまでの営業活動をデータ化し、蓄積・分析することで見込み度の精度や受注率が向上し、収益の最大化に繋がります。

これらを実現するためのツールとしては、マーケティング活動を部分的に自動化するMA(Marketing Automation)のほか、営業担当の行動管理や進捗管理などを行うSFA(Sales Force Automation)、顧客との関係性を管理するCRM(Customer Relationship Management)などがあります。

2)カスタマーサポートのDX

多くの中小企業では、カスタマーサポートでは問い合わせ履歴・契約情報をふまえた対応を行いたいと思いつつも、問い合わせチャネルの増加による対応の複雑化や大量の問い合わせに対応するので精一杯で、リソースを割くことが出来ない状況にあります。

上記の課題にはAIチャットボット、CRMの導入が有効です。電話を受けながら、瞬時にCRMの顧客データにアクセスすることで最適な対応が可能になります。また、簡単なお悩みごとはチャットボットで解決、もし複雑だとしても、チャットデータからそのテーマを得意とする担当に割り振ることで迅速な対応ができます。

顧客が自身で課題を解決する手段としてAI・チャットボットの他にはFAQ(よくある質問)ページの作成・整備もあります。過去の問い合わせデータや対応の際に満足度の高かった内容をFAQに蓄積、社内で共有することでサポート部全体の対応品質向上が見込めます。

3)管理部門(総務/人事/経理など)のDX

管理部門の業務は直接売り上げにはつながりませんが、多くの時間とマンパワーを費やす部門です。そして、管理部門の業務は定型的な繰り返しの業務が多いため、DXが得意とする分野でもあります。

例えば、請求書や契約書のデジタル化、稟議書のクラウド上での共有などが代表的です。これらの業務をデジタル化するだけでも、かなりの時間が節約できます。特に契約書はクラウド上で契約を締結できるサービスを使えば、押印の手間からも解放されます。

また、かさばりがちな書類もデジタル上で保管できるため、スペースの節約や書類紛失防止などにも効果的です。業務スペースが限られる企業ほど、デジタル化の導入をおすすめします。

このように、マーケティング・営業活動、カスタマーサポート、管理部門のDXを推進することで、基本業務を時短して、注力したい業務に集中することができます。リソースの少ない中小企業だからこそDXに積極的に取り組むべきです。

【成功事例】中小企業のDX推進

ここからは、実際にDXを行い、成功した中小企業の事例を2つ紹介します。

株式会社リンコム インサイドセールスを中心とした営業DXで成功

 
事例企業:株式会社リンコム
事業内容:ソフトウェア開発・販売、ソフトウェア導入支援、コンサルティングなど

本部から店舗へ向けた業務指示の実行管理に特化したツール「店番長(ミセバンチョー)」を主力とする株式会社リンコムでは、顧客情報の管理と営業の型の制作を中心としたDXを実施。コロナ禍で顧客との接触機会が減る中でも、商談金額2.5倍を実現するという躍進を見せています。

リンコムはもともと業務にデジタルツールを取り入れていましたが、それでも大きな2つの課題を抱えていました。1つは、顧客情報の共有方法です。これまでは共有が必要になるたびに、CSVファイルでエクスポートして個別管理していました。もう1つの課題は、少数精鋭かつ提案型製品でも訴求できる営業の型を確立することです。会社や商品の認知度が高くなくとも、Web上でリードを獲得できる手段を探していました。

これらを解決したのが、Salesforce社のSFAツール・Sales Cloudと、MAツールのPardotです。まず、顧客情報の共有問題は、システム間連携の親和性が高いSales Cloudを軸とすることで解決しました。これにより、従業員間の情報共有が簡単になったうえに、Pardotとも連携することでMA構築にも役立ちました。

そして、営業の型の構築は、以前から名刺管理ツールSansanで管理していた顧客情報をSales Cloudに取り込み、そのデータを基にインサイドセールスを行う部門を新設することで対応しました。かつてより課題だった、案件創出や中長期的な興味の醸成に成功しました。

2020年全国中小企業クラウド実践大賞最高賞「atsumel社」のDX推進

 
事例企業:株式会社atsumel
事業内容:ウェブマーケティング、集客コンサルティング、インターネットメディア事業

いまでは全国の不動産・住宅業者にマーケティング支援サービスを提供している株式会社atsumelですが、かつては紙やExcelで顧客情報を管理し、広告もチラシや雑誌を活用していました。

この状況で問題になっていたのが、資料の正確性・即時性や、共有の難しさです。グループ全体の経営状況が不透明で、実績確認のために週1回、全事業部長を県内各地から集めるという、膨大なリソースを必要としていました。

この問題を解決するために導入したのが、Salesforce社のSFAツール・Sales Cloudです。資料を一元化することで、必要な情報を常に最新の状態で取得できるようになりました。

さらに、Salesforce社のMAツール・Pardotを併用してインサイドセールスにも取り組みました。同社ではWeb広告から入ってきたリードとの関係構築が課題となっていましたが、Web上での行動追跡から得たデータを基に、効果の高いコンテンツを配信して状況を改善しました。細かい作業はPardotによって自動化されているため、業務の手間を減らしながら集客数3.3倍、商談数4.4倍もの成果につながりました。

上記2つの事例からも分かるように、中小企業は顧客情報の管理や共有方法など、営業活動のベースが確立していないケースが多く見られます。一見ローコストに思える紙やExcelでの情報管理も、管理・共有に必要な時間を考えると、営業活動の時間を圧迫する原因にもなっています。

DXは、中小企業にありがちなこれらの課題を解決する方法のひとつです。システム運用が安定すれば、蓄積したデータを基に、インサイドセールスへのチャレンジにもつなげられます。

時間とコストが限られていると、なかなか踏み出しにくいところですが、可能なところからひとつずつ取り組むことで、将来的には大きなリソース確保やコスト削減が可能になります。そして、新たな顧客獲得や業務拡大につなげられるようになるでしょう。

 
 

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